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[005]
患者さんとの橋渡し【Bridge】 Bridge; Volume 10, No3

11:非中毒性多結節性甲状腺腫の放射性ヨード治療 / Robert C. Smallridge, M.D. / Kenneth D. Burman, M.D.

甲状腺が大きくなること(甲状腺腫)はびまん性(グレーブス病(バセドウ病)で見られるようなもの)か、凸凹したものであるはずです。後者は、様々なサイズの複数の結節ができるために起こります。甲状腺腫があまりたくさん甲状腺ホルモンを作り過ぎる時、これを中毒性と呼びます。患者の血清T4は上昇し、TSHレベルは抑えられ、甲状腺機能亢進症になります。甲状腺腫が過剰にホルモンを作らないこともよくあり、これは非中毒性と呼ばれます(血清T4とTSHレベルは正常)。非中毒性甲状腺腫は症状を起こさないことがありますが、症状が起きた時は治療が必要になります。

甲状腺腫ではどのような症状が起きるのでしょうか?
甲状腺腫によって引き起こされる症状
[普通に見られるもの]
  • 呼吸窮迫(息切れ)
  • 嚥下困難(ものを飲み込むのが困難)
  • 頚部の充満感または圧迫感

[比較的少ないもの]
  • 呼吸不全
  • 上大静脈(血流)閉塞

[希なもの]
  • 喘鳴(ぜいぜいと息をすること)
  • 神経麻痺
  • 睡眠無呼吸(呼吸が一次的に止まること)
甲状腺腫では、気道(気管)の狭窄や圧迫のため、息切れが起きることがあり、横になった時に悪化します。食べ物を飲み込むのが困難になるのは、食道に圧がかかることによります。患者は、頚部の充満感または圧迫感を感じることがあります。あまり多くありませんが、甲状腺腫が頭部から心臓へ戻る血液の流れを邪魔したり、急性の呼吸不全を起こすこともあります。後者の症状は、甲状腺腫が胸の骨(胸骨)の後ろの狭いスペースの中に成長した時に起こる可能性があります。この状態は胸骨下甲状腺腫と呼ばれます。

症状のある非中毒性甲状腺腫の治療にはどのようなものがありますか?
びまん性の甲状腺腫は、局所閉塞症状を起こすほどに大きくはなりません。このような甲状腺腫は甲状腺ホルモン治療に反応して、小さくなることが多いのです。症状のある非中毒性甲状腺腫に勧められる治療は、手術です。これには数日間の入院が必要になり、全身麻酔で行われます。患者の症状を和らげるには非常に効果が高い方法です。

手術が好ましくないような状況はありますか?
それはあります。多結節性甲状腺腫は高齢者の患者に起こることが多く、重篤な心臓や肺の病気など手術が危険になる他の医学的問題を抱えている人もおります。手術が理想的な治療ではないもう一つの理由は、10〜15%のケースで甲状腺腫が再発する可能性があります。そして2度目の手術では、頚部の重要な組織を永久に損傷してしまう危険性が高くなります。最後に、患者の中には手術を拒否する人もおります。

手術ができない場合、何ができますか?
放射性ヨードが中毒性びまん性甲状腺腫(バセドウ病)の治療に半世紀にわたって使われています。これは甲状腺機能亢進症を治すだけでなく、普通、甲状腺腫のサイズが見事に小さくなるのです。大きな線量が必要で、必ずしもうまくいくとは限りませんが、放射性ヨードは中毒性多結節性甲状腺腫の治療にも使われます。

放射性ヨードは非中毒性甲状腺腫の治療にはめったに使われません。面白いことに、この治療法は30年前にドイツで記載されていますが、1987年までほとんど注目されませんでした。それ以来、4つの論文(オーストラリア、ベルギー、デンマーク、アメリカ合衆国から一つずつ)が文献に出ています。いちばん新しいものでは、オランダの論文が1994年6月に開かれた内分泌学学会年次総会で発表されました。これらの研究者全員が発表した所見は、驚くほど似ていました。ほとんどの患者で甲状腺腫のサイズの減少があり、平均縮小率は40〜60%であることが報告されています。最大の効果は1年から2年までに見られ、2度目の治療でさらに効果が上がる可能性があります。ただ、一部の患者では治療後数週間以内に一次的な甲状腺の肥大が見られましたが(おそらく放射線により誘発された甲状腺炎のためと思われます)、症状が悪化するケースはありませんでした。ほとんどの患者で、最終的に症状の改善、または消失が認められました。唯一の重大な副作用は、患者の30%に甲状腺機能低下症が生じることでした。

多結節性甲状腺腫に罹っていますが、放射性ヨード治療を受けるべきでしょうか?
この治療をルーチンにお勧めするのはまだ早いと思います。この治療法の適応症とリスクの可能性を定めるため、きちんと計画された臨床研究でもっと多くの患者をモニターする必要があります。しかし、早期の結果は有望に思えます。そして、多結節性甲状腺腫に罹っているのであれば、この問題を主治医とオープンに話し合う方がよいでしょう。

Smallridge医師は、ワシントンD.C.のウォルターリード陸軍研究所内科部長です。Burman医師は、ワシントンD.C.のワシントン病院センター内分泌病科医長です。

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