ご存知のように甲状腺がんで一番多いのは乳頭がんです。甲状腺がんの90%がこのタイプです。濾胞がんは甲状腺がんの5%程度と頻度は少ないですが、手術前に診断するのが難しいです。多くの場合、手術後に診断が付きます。すなわち、手術前は良性と言われていたのに術後、顕微鏡で詳しく調べたら濾胞がんと診断されるわけです。このような診断がついたら患者さんはショックと思います。そこで濾胞がんについて簡単に説明します。

濾胞がんには2つのタイプがあります。「微少浸潤型濾胞がん」と「広汎浸潤型濾胞がん」です。シコリとしての甲状腺がんを取り囲む膜(被膜といいます)を破ってがん細胞が正常甲状腺組織に広がっている状態を被膜浸潤といいます。この被膜浸潤が少ないものを「微少浸潤型濾胞がん」と呼び、この被膜浸潤が広汎にみられるものを「広汎浸潤型濾胞がん」と呼んでいます。では、なぜこの2つのタイプに分けるのでしょうか。それには理由があります。

「微少浸潤型濾胞がん」は将来、生命に危険を及ぼすようなことが少ないのに対して、「広汎浸潤型濾胞がん」は20-30%が数年後に再発する可能性があります。再発といっても肺や骨に転移する遠隔転移は重大です。

ここで、通常の良性甲状腺結節の手術方法について説明します。手術は、葉切除術といって甲状腺を半分だけ切り取る手術を行います。左半分を切り取れば左葉切除術、右半分を切り取れば右葉切除術と呼びます。シコリは取り除いても甲状腺半分は残っているわけです。じつは、この状態で濾胞がんと診断されるのです。では、どのように治療するのでしょうか。

術後、濾胞がんと診断された場合、肺や骨などへの遠隔転移がなくて「微少浸潤型濾胞がん」と診断されたときはそのまま経過をみるのが一般的です。しかし、「微少浸潤型濾胞がん」でも、あきらかな肺や骨などへの遠隔転移があれば、残った甲状腺を切除して(補完全摘といいます)、放射性ヨード治療を行います。

「広汎浸潤型濾胞がん」と診断されたときは、肺や骨などへの遠隔転移がなくても残った甲状腺を切除する(補完全摘)必要があります。できれば、少し残った正常甲状腺組織を放射性ヨードでなくしてしまう治療を追加します。この治療をアブレーションと呼びます。アブレーションとは「除去」という意味です。残った正常甲状腺組織を放射性ヨードで完全に除去してしまうのです。

なぜ、ここまで徹底して正常甲状腺組織を除去するかといいますと、サイログロブリンという蛋白を腫瘍マーカーに使いたいためです。サイログロブリンは正常甲状腺組織と甲状腺がん組織しか作らない蛋白です。正常甲状腺組織を手術(補完全摘)とアブレーションで完全になくしてしまえば、サイログロブリンを作るのは甲状腺がん組織だけになります。すなわち、補完全摘、アブレーションを行った後は血中サイログロブリン値をみていけば、この蛋白が高くなったときどこかにがん細胞が出てきたことがすぐ分かります。甲状腺がん再発を早期発見できる理想的な状態にしておくわけです。

もちろん、「広汎浸潤型濾胞がん」で遠隔転移があれば、補完全摘、放射性ヨード治療を行います。

濾胞がんは、術前診断が難しいので、術前には「濾胞性腫瘍」という病名で呼ばれることがあります。濾胞性腫瘍の中に濾胞腺腫のような良性結節もあれば濾胞がんも含まれます。

「濾胞性腫瘍」について日本内分泌外科学会からガイドラインが公開されています。少し難しいかもしれませんが、参考までに以下にリンクしていますので、興味ある方はご覧になってください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjsts/35/Supplement3/35_G31/_pdf/-char/ja

文責:田尻淳一