第3版を出すにあたって 〜書かねばならなかった本〜

甲状腺のことがわかる本を書こうと思い立ったのは、私の家族である女性のためでした。私の曾祖母は1930年代に甲状腺腫を生じ、また私の祖母は1940年に24歳で、初めての妊娠中にバセドウ病を発病し、甲状腺を手術で取ったのですが、医師が“必要ない”と言ったためにその後何の薬も与えられませんでした。また、私の母は1981年にバセドウ病を発病し、ちょうど祖母と同じように目が飛び出してくるのを見て仰天し、自分の病気についてもっといろいろなことを知ろうと難しい医学書を何冊も読んだのです。私の叔母は30代後半にひどい甲状腺機能低下症になり、彼女の娘は20歳で甲状腺がんになりました。そして、私の姉は甲状腺の病気は“家族に伝わる”ということを知っていましたので、1991年の13歳の誕生日に家庭医に甲状腺の検査をぜひやってくれと頼み込んだのです。医師は、しぶしぶ甲状腺の検査を命じましたが、彼女もバセドウ病に罹っていることがわかり、びっくりしたのです。

統計学的に見て、私の家族にあるような甲状腺疾患の遺伝は珍しいものではありません。1983年に私は20歳になりましたが、私の家族の“遺産”は私にもしっかり受け継がれていました。私は甲状腺がんの診断を受けたのです。わずか何ヶ月かの間に、甲状腺と右頚部のリンパ節を手術で取ってしまいました。その後、鉛の入れ物から2度ほど放射性ヨードを飲まされました。治療の最終段階で、毎朝病院の地下室に行き、まるまる1ヶ月放射線の外部照射治療を受けました。21歳の誕生日に“すべてOK”となったのですが、私が受けた治療やこれからずっと付いてまわることについての情報は何一つ与えられなかったのです。

「甲状腺て何?」というような基礎的な情報を得るために、私は親戚や医師である友達の友達をあてにしなければなりませんでした。また、インターンに取り入って甲状腺についての面白い事実やちょっとした情報をこっそり手にいれることができるようにしました。そしてついに外科医が(私を診察している間)回診について回っている医学生の群れに私の病歴と予後を説明しているのを盗み聞きするという手段に出たのです。ある日、私は質問をするために先生の講義をいきなり遮りました。誰もが驚いているようでした。そして一人の医学生が私に“教養というものはあるのか”と言ったのです。患者は見られるものであり、メッセージを聞いてはならないのです。

甲状腺切除の後、糸を取って貰うために外科医のところへ行きました。その時に私はいくつか質問があるので少し時間をとってくれるよう頼みました。私が前々日の晩に丁寧に書き上げておいた約40ばかりの質問のリストを出すと、先生の目は丸くなりました。

肝心な点は、私の家族や私自身が耐えたことを手引きも情報もなしに誰もされるようなことがあってはならないということです。そのためにこの本を書きました。これは皆さんのための甲状腺の本です。

初版が出版されたのは、私が甲状腺の手術と治療を受けてからちょうど10年後でした。医学情報をこのようにやさしい、専門語でない言葉を使って提供することに対してどのような反応があるかよくわからなかったのですが、甲状腺の病気の患者のために甲状腺の病気になった患者が書いた詳しい本が必要だと信じてもおりました。ジャーナリストとして、また考えられる限りの検査や治療を経験した者として、私がこの役目を引き受け、読者の皆様がこの知識を伝え続けてくださいました。今日では、私が夢にも思わなかったような利益をこの本から得られた方から手紙や電話をいただくようになりました。事実、この版の改訂と内容の更新は私自身の考えではなく、読者の経験がきっかけとなったものです。国中から寄せられる(英国からのものもたくさんありますが)電話や手紙、Eメールおよび甲状腺に関する様々な経験をなさった方のことなどすべて記録してまいりました。

控えめに見積もっても、世界中で少なくとも20人に1人は甲状腺の病気に罹ったことがあるか、これから罹ることになります。アメリカとカナダだけでも1300万人以上の人が甲状腺の病気に苦しんでおり、この病気は女性に起こる頻度が約10倍となっています。しかし、国立がん研究所から出された新しい証拠によれば、子どもの頃に1950年代から1960年代始めに行われた核実験による放射性降下物に被爆した人は、甲状腺疾患または甲状腺がんに罹る危険性が成人より高い可能性があることが示されています。

この本では、甲状腺と甲状腺の病気、そして甲状腺に影響を与える病気について《第1章》《第2章》《第3章》《第4章》《第5章》《第6章》、またそれぞれの病気の症状や治療法《第1章》《第2章》《第3章》《第4章》《第5章》《第6章》《第11章》を詳しく書きましたが、甲状腺疾患が女性《第7章》や男性《第8章》、そして子ども《第9章》にどのようにユニークな影響を与えるかについても詳しく述べております。喫煙と甲状腺性眼症、骨粗鬆症と甲状腺ホルモン、産後甲状腺炎、栄養と食餌(甲状腺ホルモン補充療法を受けている女性に特に必要な分野)、世界中でまだ続いているヨード欠乏の問題に関する最新の情報を見出すだけでなく、《第2章》には甲状腺機能亢進症と機能低下症の症状をアルファベット順に述べた“機能亢進症辞典”と“機能低下症辞典”の項を付け加えました。また、甲状腺の薬についての章である《第12章》を付け加えただけでなく、《第11章》には“長い半減期を持つ放射能の神話”のことを述べています。ほとんど例外なく、すべての章にわたって完全な改訂を行い、内容を新しくしました。1990年代に承認された検査や治療の文献については論議し尽くしましたし、もう時代遅れになっています。今回は、イラストを何枚かと用語集も入れ、インターネットの使い方やウェブサイト、私も設立メンバーの一人である新しく設立された国際甲状腺組織の連合である国際甲状腺連盟を含め、世界中の甲状腺関係組織(多くは初版出版後に作られたものです)を入れた情報源のリストを充実させました。

あなたは一人ではないことを覚えておいてください。この本は手引きとサポートだけでなく、やさしい非専門用語で説明された重要な情報を皆さんに提供するためのものです。この本を読み、利用し、他の甲状腺の病気に苦しんでいる人と情報を分かち合ってください。これはあなたのために書かれた甲状腺の参考書であり、今後もそうであり続けるでしょう。