単純性甲状腺腫は女性に多くみられます。

他の甲状腺の病気と同じく女性に多く、男性の5~10倍です。また、この病気を持っている人の1/3では、親戚や家族に「バセドウ病」「橋本病」といった自己免疫性甲状腺疾患を持っている人がいることも分かっています。
非中毒性とは、甲状腺ホルモンが正常であるということです。医学用語は難しいですね。

単純性甲状腺腫の特徴

  1. 甲状腺全体が腫れる
  2. 甲状腺ホルモンが正常
  3. 甲状腺に対する抗体が陰性

甲状腺全体が腫れているので、慢性甲状腺炎(橋本病)と間違いやすいわけです。甲状腺が全体的に腫れていて甲状腺ホルモンが正常な人の4人に3人は橋本病であり、残りは単純性甲状腺腫であるという報告もあります。甲状腺に針を刺して細胞診をするか、甲状腺の組織を採って顕微鏡でみれば診断はつきます。しかし、実際の診療ではそのように面倒なことをしなくても、血液を採って甲状腺に対する抗体(抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体)を調べれば簡単に診断ができます。

病気の原因は分かっていません。

この病気に何故かかるのかについては、今のところ分かっていません。すなわち、原因不明の病気です。しかし、悪い病気ではなく、がんになったりしませんから安心してください。この病気を長期間観察(5~14年)した日本人の研究から分かったことは、108人中8人で何らかの甲状腺の病気が新たに出てきたことです。その新たに出てきた病気は、ほとんどバセドウ病でした。他に産後甲状腺炎(これは橋本病の人がかかります)になる人もいました。家族や親戚に橋本病やバセドウ病の人がいる場合に、バセドウ病や産後甲状腺炎が出やすいことも分かりました。ですから、単純性甲状腺腫といわれたら、経過をみていくことが大切です。少なくとも年1回の診察は受けておいた方がよいと思います。

日本では希ですが…

最近、この病気はただ甲状腺全体が腫れるだけではなく、長い間経過すると甲状腺に複数のシコリができてくることも分かってきています。ただ、このシコリは悪性のものではありません。腺腫様甲状腺腫と呼ばれるものに変化してくるわけです。一部には、シコリが甲状腺ホルモンを作り始めることもあります。しかし、これはヨード摂取の少ないヨーロッパでの研究です。ヨード摂取の多い日本では当てはまらないと思います。

単純性甲状腺腫の臨床上の問題点

  • 甲状腺が全体的に腫れること
  • 将来、一部の人でバセドウ病や橋本病になることがある
  • 将来、シコリができてくることがある(腺腫様甲状腺腫):日本では希

治療

ほとんどの場合、治療を必要とはしません。甲状腺の腫れが大きくて圧迫症状があれば、甲状腺ホルモン剤を飲んで縮める治療をすることもあります。甲状腺ホルモン剤が効かなければ、手術や放射性ヨード治療(アイソトープ治療)をすることもありますが希です。
バセドウ病、腺腫様甲状腺腫、産後甲状腺炎に対しては治療法がありますので、出てきたときにどの治療をするか相談して決めましょう。

大切なことは、気長に経過をみていくことです。病気とうまく付き合っていくことだと思います。