もし、あなたの子どもの甲状腺がうまく働いていなければ、同じ問題を持つ大人とは異なる影響があることがあります。これは子どもが成長し、発育しているためで、成長と発育は甲状腺が活動し過ぎ(甲状腺機能亢進症)であるか、または不活発(甲状腺機能低下症)であるかによって変化するものです。

さらに、子どもでは大人に比べ、甲状腺の病気がわかりにくいことがあります。子どもは気分が悪いと訴えたり、助けを求めることがあまりありません。何が“正常”なのかを知らないため、年長の子どもであっても甲状腺の病気による感情的、身体的症状を自分にとって“正常”なものとして、ただ受け入れてしまう可能性があります。したがって、子どもが甲状腺の病気に罹った時、それに気付くのは普通、誰か他の人の役目になります。実際に、両親や友達、あるいは学校の先生がいらいらしたり、落ち着きがないことが多くなったのに気付いたり、両親や小児科医が成長の速度の変化に気付いた場合、それが子どもの甲状腺の病気の発見につながる糸口となる場合があります。

最後に、ある種の甲状腺疾患は遺伝するため、一つ非常に大事な点を強調しておきたいと思います。家族の中の誰かに、甲状腺の病気が現在あるか、または過去にあった場合、かならず医師にそのことを言うようにしてください。もしそれが遺伝するタイプの病気であれば、子どもに同じ問題がないか医師によく気を付けて見てもらってください。

子どもの甲状腺腫

甲状腺が正常より大きくなった場合、甲状腺腫と呼ばれます。甲状腺腫は年齢に関わりなく現れますが、特に月経開始期頃の女の子にいちばん多いのです。あなたの子どもに甲状腺腫ができた場合、子どもは健康なままで、重大な甲状腺の問題が存在しないことも有り得ます。その一方で、6歳以上の子どもに現れる甲状腺腫のほとんどは、慢性リンパ球性甲状腺炎、または橋本病と呼ばれる軽度の甲状腺の炎症により引き起こされます。大人では、この病気が甲状腺機能不全のいちばん多い原因です《第7章》。時に、甲状腺腫が何か他の甲状腺の病気の最初の徴候である場合があります。例えば、子どもの甲状腺が活動し過ぎになっているかもしれませんし、あるいはウィルス感染による炎症のために大きくなっているのかもしれません。

したがって、子どもに甲状腺腫があるのに気付いたら、検査のため医師に見せるべきです。子どもを診察し、血液検査を行って、医師は甲状腺が活動しすぎであるのか、不活発であるのかがわかるのです。どちらの場合であっても子どもの成長と発育が妨げられる可能性があります。しかし、治療により甲状腺ホルモンレベルが正常になれば、正常な成長のパターンに戻ります。

甲状腺腫のある子どもの診察と甲状腺の検査の結果が正常であっても、甲状腺腫のことを忘れてよいというわけではありません。むしろ、医師は甲状腺の機能に変化が起こっていないか確かめるために、後でもう一度診察と検査を行うようにするでしょう。

希ですが、子どもの首がまるで甲状腺全体が大きくなったように腫れることがあります。しかし、これは上を被っている脂肪パッドが大きくなったり、甲状腺の中の1個か複数のしこり、または結節が成長することによって引き起こされた可能性があります。この肥大した脂肪パッドは、子どもがものを飲み込む時に喉仏と一緒に上がったり下がったりしないのでわかりますが、深刻なものではありません。しかし、この章の後の方で概要を述べますが、結節の場合は、医学的診察を受けることが非常に大事で、それも直ちに行わなければなりません。ほとんどの結節は無害な嚢胞か良性の腫瘍であることが証明されるのですが、時に甲状腺がんを含んでいたり、甲状腺の機能的変化を反映していたりすることがあります。そのような病気は治療ができますし、治療するべきです。

子どもの活発すぎる甲状腺

子どもに起こる甲状腺の病気の中で、いちばんよく分かっているものの一つが、一部の新生児に見られる甲状腺の活動性の増加で、新生児甲状腺機能亢進症として知られています。この病気は希なもので、バセドウ病のため甲状腺機能亢進症になった母親から生まれた乳児にしか起こりません。これは、刺激抗体と呼ばれる化学物質が、母親の血液から胎盤を通り、生まれる前の赤ちゃんに行くために起こるものです。この化学物質が赤ちゃんの血液中に入ると、赤ちゃんの甲状腺を刺激して過剰な甲状腺ホルモンを作らせるようになることがあります。

幸いなことに、このタイプの新生児甲状腺機能亢進症は、赤ちゃんの血液の中に母親から貰った甲状腺抗体が残っている間だけしか続かず、通常は3週間から12週間です。さらに、甲状腺が活動し過ぎの女性のほとんどは、血液中の甲状腺刺激物質のレベルはあまり高くないので、病状は軽いのが普通です。時に、母親の甲状腺刺激物質の血中レベルが非常に高く、赤ちゃんが突き出した目や過敏性、皮膚の紅潮、頻脈など-どの年齢にも共通する甲状腺の活動し過ぎの特徴をすべて備えて生まれてくることがあります。さらに、これらの赤ちゃんは大変な食欲があるのに、体重が増えません。甲状腺腫は普通に見られますが、生まれた時点でははっきりしないことがあります。

この病気のいちばん軽い形のものでは、治療の必要がないことがあり、時間が経てばひとりでに治まります。しかし、赤ちゃんの病状が重ければ、活発すぎる甲状腺をコントロールするためにヨードやプロピルチオウラシル〈注釈:プロパジールまたはチウラジール〉のような抗甲状腺剤による治療が必要な場合があります。
もっと迅速な症状のコントロールが必要であれば、アテノロール〈注釈:テノーミン〉やプロプラノロール〈注釈:インデラール〉のようなベータ遮断剤が役に立つことがあります。この薬は、赤ちゃんの体の中の高レベルの甲状腺ホルモンの作用を遮断することで効き目を現します。甲状腺の手術は、あるにしても、まず必要なことはめったになく、赤ちゃんの甲状腺が非常に大きくなっていても、ヨードによる治療で急速にサイズが小さくなるのが普通です。これはありがたいことですが、そのような小さな患者では甲状腺の手術は大変に難しいものになるからです。治療は普通2〜3週間で中止されます。これは赤ちゃんの血液の中から母親の甲状腺抗体がすぐに消えてしまうからです。

このような病気はきわめて希ですが、妊娠中の女性で、甲状腺機能亢進症があるか、または過去に甲状腺機能亢進症に罹っていた人は、妊娠中の甲状腺の病気について産科医に注意して診てもらうようにするべきです。そうすれば、主治医は赤ちゃんの甲状腺の異常を捜す用意をしておくでしょう。

[図37]
[図37]

甲状腺機能亢進症の子どもは、エネルギーが有り余っています。

新生児期を過ぎて子どもに起こる甲状腺機能亢進症は、大人の甲状腺機能亢進症と非常によく似ています。しかし、一般的に子どもがあまりに元気があり過ぎるとか神経質に感じるというようなことを訴えることはなく、さかんに動き回り、昼寝も必要としないように見えるほど少しもじっとしていない子どもにあなたが疲れ果ててしまうことがあっても、甲状腺が活発すぎる病気に子どもが罹っているとはなかなかわからないものです[図37]。

そのような問題があるという唯一の手がかりが急に発育が速くなり、そのため活発すぎる甲状腺のある子どもの背が急に高くなるという場合がきわめて多いのです。子どもの身体測定記録を丁寧に記録している小児科医がそのような変化に気がつくこともありますが、やはり両親が新しい洋服がすぐに小さくなってしまうことで、急な成長に気付くことが多いようです。

甲状腺機能亢進症に気付くための手がかりは他にもあります。全部と言ってよいほどの子どもに甲状腺腫と目の突出があります。他に甲状腺の活動が活発すぎる徴候として多く見られるものには、頻脈、神経質、汗をかく量が増える、暑い天候を嫌うなどがあります。両親が学校の成績が下がったことに気付いたり、学校の先生が授業に集中していないことを報告する場合があります。爪がどんどん伸びるので、ぎざぎざになった爪の間に汚れがたまってくることがあります。手が震えて、不器用になったり、字がうまく書けなくなったりする一方で、肩や大腿部の筋肉が弱くなっているのが遊んだり、スポーツをしている時にはっきりわかることがあります。感情的な動揺も見られ、ほんのちょっとしかっただけで、泣き叫ぶことに両親が気付くことも多いのです。

子どもの甲状腺が活発すぎることが疑われたら、医師に診てもらわなければなりません。普通、子どもの甲状腺ホルモンレベルを測るために血液サンプルを採取します。甲状腺ホルモンのレベルが高く、脳下垂体の甲状腺刺激ホルモンのレベルが低いことで診断が確かめられたら《第4章》、医師は直ちに治療を始めることができるでしょう。この病気があるという疑いがある大人では、放射性ヨード取り込み試験とスキャンで検査をするのが普通です。これは、甲状腺の機能が活発すぎることを確かめ、甲状腺自体に関するもっと詳しい情報を得るためです。これらの検査は、診断がはっきりしている子どもには必ずしも行われるとは限りません。医師は子どもを放射性物質に不必要に曝すことを避けたいのです。しかし、甲状腺スキャンに使われる少量の放射性ヨードが有害であるという証拠はありません。

子どもの活発すぎる甲状腺は、抗甲状腺剤:プロピルチオウラシル〈注釈:プロパジールまたはチウラジール〉またはメチマゾール(タパゾール〈注釈:メルカゾール〉)のどれか一つを使った治療で、2〜3週間以内に治まってきます。多くの医師は、抗甲状腺剤による治療を数ヶ月、時には何年も続けます。子どもがきちんと薬を飲んでいる限り、甲状腺機能亢進症は治まっているはずです。約30〜50%の患者で、この病気がひとりでに治まったり、自然寛解が起こります。

この形の治療が子どもに対して選ばれた場合、この薬が起こす可能性のある副作用についてある程度知っておく必要があります。子どもの中にはこの薬に対してアレルギー反応を起こす者がおり、通常、発熱やかゆみ、蕁麻疹または皮膚の発疹の形で現れます。非常に希ですが、これらの抗甲状腺剤で、黄疸や子どもを感染から守るある種の白血球(好中球)が減ったり、あるいは完全に消えてしまうようなもっと重大な問題が起こることがあります。そこで、このような薬のどれかを飲んでいる子どもが熱を出したり、かゆみや蕁麻疹、皮膚の発疹が出たりした場合、または感染の証拠がある場合(喉の痛みや口内炎、または発熱)、直ちに薬の服用を中止し、医師に知らせなければなりません。医師が子どもに抗甲状腺剤に対するアレルギーがあるとみとめた場合、他の形の治療が勧められます。一方で、問題が感染による発熱である場合は、好中球数が正常であれば感染症の治療をしながら薬を続けることができます。

[図38]
[図38]甲状腺周辺の臓器

幸いに、抗甲状腺剤が重大な問題を起こすことはあまりありませんし、ほとんどの子どもは安全に薬の服用ができます。しかし、アレルギー反応が起こったり、これらの薬で甲状腺機能亢進症のコントロールが適切にできない場合、あるいは甲状腺が非常に大きいままで、見苦しい場合、医師が子どもの甲状腺の大部分を手術で取ってしまうことを勧めることがあります。甲状腺の組織を取り除いてしまえば、過剰な甲状腺ホルモンを作り出す源はなくなり、子どもはよくなるはずです。
甲状腺の手術は、きちんと訓練を受け、子どもの甲状腺の手術に経験を積んだ外科医が行えば本当に安全なのが普通です。残念ながらこの種の手術は難しく、甲状腺の近くにある頚部の組織を損傷する危険性がついてまわります[図38]。

甲状腺機能亢進症のため手術を受けた子どもの少数は、声帯に行く神経の外科的外傷を受けます。近くにある副甲状腺を間違って取ってしまったり、傷つけたりすることも起こり得ます。前者では、永久に声がしゃがれたりしますし、後者ではカルシウムのバランスが取れなくなり、そのために一生涯薬を飲む必要が生じます。さらに、普通時間が経つにつれて次第に薄くなり、目立たなくなりますが、手術の傷が残ります。

子どもでは、薬や手術による甲状腺機能亢進症の治療でそのような重大な合併症が起こる可能性があるということを考慮して、大人で普通行うような甲状腺のコントロールの代わりに、放射性ヨードで甲状腺の一部を破壊する方法を選んでいるようです。事実、この治療法は甲状腺を手術で取ってしまうのと同じ位効果があり、声帯の神経や副甲状腺を損傷する危険性もありません。しかし、放射性ヨードを使った40年以上の大人の治療経験では、放射性ヨードによる重篤な合併症が見られないことははっきりしていますが、医師は小さな子どもの甲状腺は放射線による影響を受けやすく、治療後何年も経ってから甲状腺の腫瘍やその他の腫瘍を生じてくる可能性があることを知っています。また、大人とは対照的に、子どもは放射線による合併症を生じるかもしれないこれから先の年月が長いのです。幸いに、現時点では放射性ヨードで治療を受けた子どもに特別な問題が生じたという証拠はありません。

放射性ヨードは子どもの甲状腺機能亢進症をコントロールする有効な手段です。そして、大人と同じように子どもでも安全であることがはっきりすると思われます。
しかし、今のところほとんどの医師がこの方法を子どもに日常的に使ってはいません。その代わり、抗甲状腺剤にアレルギーのある子どもやそのような薬で甲状腺機能亢進症がコントロールできない子ども、また甲状腺の手術が勧められないか、望ましくない子どもに放射性ヨードを使う方法をとっておくのです。あなたと医師は、特定の治療法が勧められることに至る個々の状況を十分に理解するように努力を払って、他に選びうる治療法について話し合うべきでしょう。

子どもによく起こる甲状腺機能亢進症は、一生涯にわたる病気です。いつでも再発する可能性があります。そして、一部のケースでは甲状腺が不全になり、その結果甲状腺機能不全症になります。手術や放射性ヨードで治療を受けた子どもは特に甲状腺機能低下症になりやすいのです。これらの理由から、どの甲状腺機能亢進症の子どもも、確実に医師の管理下に留めておく必要があります。甲状腺が機能不全になれば、甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモン剤を1日1回飲むだけで簡単に治療できます。

乳児の不活発な甲状腺

我が国〈注釈:米国〉では赤ちゃんの4,000人から5,000人に1人の割合で、甲状腺機能低下症を持って生まれてきます。ここ、高度先進国では、甲状腺機能低下症の新生児は、甲状腺がないか、あるいは異常な位置にあり、甲状腺がうまく機能していないためであるのが普通です。甲状腺機能低下症は、妊娠中に抗甲状腺剤かヨードを飲んでいた母親から生まれた乳児にも見られます。どちらの薬も母親から赤ちゃんへ伝わり、赤ちゃんの甲状腺に悪影響を与えることがあるからです。最後に、甲状腺機能低下症の10%は、甲状腺ホルモンを作るプロセスに欠陥があり、甲状腺が作るホルモンの量が少なすぎる数種類の遺伝性疾患の一つによって起こります。

甲状腺機能低下症は、食餌中に十分なヨードがない世界中の僻地、特に山岳地帯に多く見られます。ヨード欠乏症の乳児は、精神的身体的にダメージを受ける可能性があり、そのダメージは後で甲状腺ホルモン剤により適切に治療を行っても回復することはありません。アメリカでは他の食物にヨードが添加されているだけでなく、食塩もヨード化されているので、ヨード欠乏症の問題はありません。
あなたの赤ちゃんが甲状腺機能低下症を持って生まれてきた場合、赤ちゃんはあなたには正常に見えるでしょうし、出生後にチェックした医師の目にもそう見えることがあります。その後しばらくして新生児黄疸によって赤ちゃんの皮膚が黄色味をを帯びていることに気付くかと思います。この黄疸が甲状腺機能低下症の赤ちゃんでは消えるのが普通より遅くなります。その後、何日か、あるいは何週間かのうちに、乳児は元気がなく、眠そうに見えるようになり、また泣き声がしゃがれてきて、鼻詰まりが起こり、クレチン病として知られている甲状腺機能低下症に特有のはれぼったい顔や体つきになってきます。しかし、それまでには赤ちゃんは家にいるようになっていますので、最初は赤ちゃんが重大な病気であるとは気がつかない可能性があります。そのような赤ちゃんは、脳の永久的な損傷と精神発達遅滞を防ぐため、できる限り早く甲状腺ホルモンで治療しなければなりません。

甲状腺機能低下症の新生児スクリーニング

幸いなことに、原因が何であっても、甲状腺機能低下症を早期に発見し、甲状腺ホルモンで適切に治療すれば、普通永久的な精神発達遅滞になるのは避けることができます。しかし、できる限り早く診断しなければなりません。
-出生時に血液検査を行うのが望ましいのです。このためにアメリカ合衆国やカナダ、また世界の他の多くの国で生まれた赤ちゃん全員の甲状腺機能低下症のスクリーニングが現在行われているのです。このスクリーニングは、かかとを針で突いて採るか、へその緒から採った血液を検査する方法で行われます。長期的なフォローアップの研究では、早期に確認され、生後2ヶ月以内に治療を受けた甲状腺機能低下症の赤ちゃんは、病気に罹っていない兄弟と比べても、知的障害はないようであることが示されています。したがって、新生児の甲状腺機能低下症スクリーニングプログラム制度の普及は予防医学の勝利であります。

最後に、赤ちゃんの甲状腺検査を出生直後に間違いなく行うことに加え、妊娠中に飲んだすべての薬のラベルを注意して読まなければなりません。これは、薬の中に大量のヨード、あるいは赤ちゃんに悪影響を及ぼすことがわかっている他の成分が含まれていないか確かめるためです。ヨード化した食卓塩は何の問題も起こしませんが、ケルプなどの健康食品やある種の薬(例えばある種の咳どめシロップ)には大量のヨードが含まれています。これらの食品や薬を長期にわたって食べたり飲んだりすると、赤ちゃんに甲状腺機能低下症だけでなく、甲状腺腫も起こすことがあります。妊娠中は、抗甲状腺剤は医師の厳密な監視下のもとで、必要最小限の量だけを使うようにし、また放射性ヨード(赤ちゃんの甲状腺を損傷する恐れがあります)はいかなる理由があっても、妊娠中の女性に与えるべきではありません。

年長児の甲状腺機能低下症

[図39]
[図39]

甲状腺機能低下症の子どもは、普通の子どもに比べて元気がありません。

6歳以降に子どもの甲状腺が機能不全になった場合、おそらく甲状腺が慢性リンパ球性甲状腺炎として知られている軽度の炎症を起こしていると考えられます。そのような病気の存在を示す最初の徴候は、甲状腺が大きくなるために起こる首の前の方の痛みのない腫れです。幸いに、この甲状腺のわずかな腫れだけで、普通小児科医や両親は甲状腺の病気があることに気付きます。このタイプの甲状腺炎は甲状腺組織に損傷を与え、そのため甲状腺の機能も落ちてくるので、その後に甲状腺機能低下症の症状が続いて起こってくることがあります。しかし、そのような子どもはまったく健康であるように見えることがあり、甲状腺の機能が落ちてきていることを示す唯一の証拠が成長速度が遅くなることである場合があります。そのようなケースでは、子どもの成長速度が落ち、過去の成長パターンに追いつかない場合、小児科医が最初に甲状腺機能低下症を疑うことがあります。おそらく、両親はそれよりずっと前に、元気がない[図39]、顔が青白い、乾燥してかゆみのある皮膚、寒さに敏感になる、そして便秘などの甲状腺機能低下症の症状に気付いていると思われます。

それと同時に、驚くべきことですが、学校の成績がよくなることがあります。これは子どもが活発でなくなったことで授業に前より注意が向くようになったためと思われます。
一度甲状腺機能低下症が疑われれば、普通、医師の診断確定には何の問題もありません。血液検査では、脳下垂体の甲状腺刺激ホルモン(TSH)のレベルが上がっているだけでなく、甲状腺ホルモンのレベルが低いこともわかります。これは《第6章》に詳しく述べてあります。甲状腺ホルモンによる治療で、この病気の症状や徴候は治り、急速に元気が出てきて、精神機能の改善が見られ、その後に正常な成長パターンに戻るはずです。治療を受けた子どもはまわりの環境にもっと注意が向き、戸外でよく遊ぶようになるので、一次的に学校の成績が落ちても心配しないようにしてください。

痛みの強い甲状腺の腫れ(亜急性甲状腺炎)

時に、ウィルス感染(典型的な咽頭炎が多い)の後1週間か2週間して、年長の子どもがいつもとは違うタイプの喉の痛みを訴えることがあります。その場合、首の前にある甲状腺が腫れて痛みが強いことから不快に感じるのです。子どもは熱や痛み、苦痛があり、起きられないほど気分が悪いことがあります。しかし、触ると痛い甲状腺腫から甲状腺に炎症があることが窺われます。─ただの“風邪”ではないのです。

血液検査で普通、子どもの腫れた甲状腺に炎症があることが確かめられます。何か疑わしいことがあれば、小児科医は甲状腺の放射性ヨード取り込み試験をする場合があります。その検査では、炎症を起こした甲状腺がまったく活動していないのがみとめられるはずです。通常の治療はアスピリンだけですみ、普通は1日か2日の内に急速によくなります。

病気が重い希な例では、おそらく最初の3から4週間の間に、子どもに甲状腺機能亢進症の症状が出る場合があります。これは炎症を起こした甲状腺から大量の甲状腺ホルモンが漏れ出すために起こります。この後、3週間から4週間の間、消耗してしまった甲状腺が再び働き始めるまで、甲状腺ホルモンのレベルが下がるために子どもが元気のない状態になることがあります。どちらの病期も重篤であれば、医師は症状をコントロールし、甲状腺ホルモンのレベルを調整し、子どもの気分がよくなるような薬を処方します。この病気が自然な経過をたどれば、子どもは完全に回復し、そのまま健康を保ちます。

甲状腺結節

子どもに現れる甲状腺結節(しこり)は普通、甲状腺の炎症(甲状腺炎)や良性腫瘍、あるいは甲状腺嚢胞によるものです。幸いに、子どもの甲状腺結節にがんが含まれることは希です。もし、子どもに甲状腺がんができたら、おそらく痛みのない結節が1個かそれ以上あり、それは他の種類の甲状腺結節に比べ、固く触れるでしょう。さらに、がんが首の中に広がったために、甲状腺の近くのリンパ節が固く、腫れているのに気付く場合もあるでしょう。ほとんどの形のがんでそうであるように、そのような腫瘍は治せることが多いので、甲状腺がんの迅速な発見と治療が大事になります。子どもに結節があるか、結節があることが疑われる場合、子どもを医師のもとに連れて行き、検査をしてもらわなければなりません。医師が1個、またはそれ以上の結節があることをみとめたら、結節の原因を確かめるための検査を行います。普通、検査には血液検査と甲状腺スキャンが含まれますが、結節から少量の細胞を採取する針吸引生検もよく行われます。大体、これだけでがんの有無がわかります。結節の中にがんが見付かった場合は、早期治療が絶対に必要で、できる限り悪性の組織を取ってしまう手術も入るはずです。甲状腺のほんの一部にしか悪性腫瘍がない場合でも、甲状腺全体を取ってしまうことがよくあります。甲状腺を全部取ってしまえば腫瘍の再発の確率は減るでしょうし、その後の治療やフォローアップがやりやすくなる場合があります。幸いにも、手術はほとんどすべてうまくいきますし、完全に治ることが多いのです。大人の甲状腺がん患者に行うように、一部の子どもは放射性ヨードによる治療も必要になります。さらに、生涯を通じて必ず甲状腺ホルモン治療が行われます。これは残っている可能性があるがん細胞の発育を防止しようとするものです。子どもはその後、定期診断が必要になります。というのは、甲状腺ホルモンを飲んでいる子どもにも甲状腺がんが再発することがあるからです。そのようなことになった場合、再手術か、または他の治療が必要になることがあります。

子どもの結節が良性であれば、医師は甲状腺の機能を抑える長期的治療が適応かどうかを告げるでしょう。正常な場合、脳下垂体はTSHによって甲状腺を刺激し、コントロールしています。TSHは一部の結節を成長させる傾向もあるので、医師が脳下垂体でのTSH産生を止めるために、甲状腺ホルモン剤で子どもを治療する方法を選ぶ場合もあります。それ以外では、結節が大きくなったり、新しい結節が現れたりしなければ、甲状腺ホルモンによる治療を行わずに定期的に子どもを見る方を好む医師もいます。

《第10章》で述べたように、髄様がんとして知られている希なタイプのがんがあります。このがんは家族に伝わる傾向があり、腫瘍が作るカルシトニンというホルモンの血液検査で検知することができます。この病気の人は、体の他の分泌腺にも腫瘍がある傾向があり、それには副腎(高血圧を起きることがある)と副甲状腺(血液中のカルシウムレベルが上がることがある)があります。このタイプのがんが見つかった子どもは、早期に発見し、取ってしまえば治る確率が非常に高くなります。したがって、この希なタイプのがんが見つかった家族の子どもは、毎年カルシトニンの血液検査を受けるべきです。検査でそのような腫瘍の存在が窺われたら、直ちに取ってしまわなければなりません。

まとめ

子どもに甲状腺の病気があっても、その子どもはひどい病気のように見えなかったり、行動しなかったりすることがあります。甲状腺の病気があることを示す唯一の証拠が子どもの成長速度の変化である場合があります。したがって、小児科医が保管している身長や体重の記録が甲状腺の病気を見つけ出すのに役立つことがよくあります。甲状腺の病気に使う治療法としては、甲状腺ホルモン剤、抗甲状腺剤、放射性ヨード、甲状腺の手術などがありますが、どれも効果的で、必ずといってよいほど治ります。これらの治療法の中には、子どもにとって重大な副作用を持つものがあります。しかし、子どもの甲状腺の病気に対する“最良”の治療法がない可能性があっても、親として、なぜ医師がその病気に対して特定の治療法を勧めるのか理解することは可能であります。筆者は、子どもの主治医ともっとうまくコミニュケーションがとれるよう、この章がお役に立てればと思っております。