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甲状腺乳頭癌および濾胞癌
Schlumberger, M. D.
N Engl J Med 338; 297-306: 1998(Review Articles)

甲状腺乳頭癌および濾胞癌は最も治療で治りやすいものである。しかしながら、一部の症例では再発しやすく、死亡することさえある。このような予後の悪い患者のほとんどは診断されたときに、確立された予後を決める指標によって大体予想が付く。初回治療のやり方と経過観察はリスクの程度に合わせる必要がある。
甲状腺癌の治療ガイドラインは既に出版されているが(1,2)、治療のやり方は外科医によってかなり異なる(3)

疫 学
甲状腺結節は大変多いが、分化型甲状腺癌は比較的稀である。臨床的に見つかる甲状腺癌は人間の全癌の1%以下である。年間の発症頻度は国によって異なり、10万人に0.5〜10人である(4)。甲状腺乳頭癌および濾胞癌は子供や思春期には稀で、年令が増えるにつれて頻度が増す。一番多いのは45〜50歳である。甲状腺癌は男性にくらべて、女性が2〜4 倍多い。
甲状腺微小癌(直径1cm以下)は成人の病理解剖で5〜36%見つかるが、子供の病理解剖では甲状腺微小癌が見つかるのは大変稀である。近年にこの微小癌の頻度の増加は病理学の進歩に因るところが大である。

病 因
癌遺伝子
最近の分子生物学の進歩で、甲状腺癌の病因に対する理解が進んできた(5)。RETやTRK遺伝子のtyrosine kinase domainの変異が乳頭癌患者の一部で見つかってる(6)。RETの変異は過去に放射線被曝の既往のない乳頭癌患者の3〜30%に見られ(7-9)、チェルノブイリ原発事故の際、被曝した子ども(10-12)や小児時代に放射線の外照射を受けた既往のある患者から診断される乳頭癌では(13)、RETの変異は60〜80%と高率に見出される。TRK遺伝子変異の頻度はずっと低い(8)
RAS遺伝子の点変異は甲状腺腺腫と甲状腺濾胞癌において同様、高頻度に見られる。これはRAS遺伝子の点変異は腫瘍発生の始まりを現していると考えられている(5,14)。TSHや刺激性G蛋白をコードしている遺伝子の活動性変異が一部の甲状腺濾胞癌において、報告されている(14,15)。癌抑制遺伝子であるp53の不活性点変異は分化型甲状腺癌では希であるが、未分化癌では高頻度に認められる(16,17)
甲状腺への放射線被爆
小児時代の頚部への放射線照射被爆は甲状腺乳頭癌の危険性が増すことはよく知られている事実である(18-20)。放射線照射被爆から甲状腺乳頭癌の診断までは少なくとも5年はかかる。約20年後が甲状腺乳頭癌の危険度が一番増す、それからの20年間は同じ頻度の危険性があり、その後徐々に危険性が減少する。甲状腺への放射線被爆が10cGyを超えると甲状腺乳頭癌の危険度が有意に増してくる。甲状腺への放射線被爆が1,500cGyまでの被爆では、被爆量と甲状腺乳頭癌の危険度は正の直線相関関係にある。しかし、1,500cGyを超すと甲状腺乳頭癌の危険度は減少する。これは多分細胞が死滅するためであろう。一番リスクが高いのは小児期の放射線被爆である。15〜20歳以降の放射線被爆では甲状腺乳頭癌の危険度は普通の人と同じである。小児期に甲状腺に1Gyの放射線被爆を受けた場合、甲状腺乳頭癌の危険度は7.7倍に増す(19)。治療または検査で使用された131-Iの被爆では甲状腺癌のリスクは増えない(18,20)。しかしながら、甲状腺機能亢進症の治療目的で131-Iが使用された場合には、細胞は死滅する。さらに、小児期に治療の目的で131-Iを使用された人はあまりにも少ないために、小児期の131-I治療が甲状腺癌のリスクを完全には否定できない。しかしながら、小児期にマーシャル諸島の原爆実験のために放射線被爆を受けた人や、最近ではチュルノブイリ原発事故で放射線被爆を受けたウクライナやベラルーシに住んでいた小児の甲状腺乳頭癌の頻度が増していることを考えると、放射性ヨード(131-Iやもっと半減期の短い放射性ヨード)には甲状腺に対して直接的な発癌作用を持っていることが示唆される(21,22)。ウクライナやベラルーシでは、原発事故から4年が経ってから甲状腺癌の頻度が増え始めた。今までに、1,000例の甲状腺癌が報告されている。そのほとんどは、原発事故の時に10歳以下の小児であり、同年代の放射線被爆を受けていない子供と比べて、甲状腺癌の頻度は100倍である。
その他の原因
ヨードを十分に摂取している国では、甲状腺癌の80%以上が分化型甲状腺癌であり、それも60〜80%は乳頭癌である。ヨード摂取の少ない国で甲状腺癌の頻度が増すわけではないが、濾胞癌や未分化癌の頻度が増す(20,23)。大腸のadenomatous polyposisやCowden病(multiple hamartoma syndrome)の患者で甲状腺乳頭癌の頻度が増すことが報告されている。甲状腺乳頭癌の約3%は家族性である(24)

病理学的特徴
乳頭癌
乳頭癌は乳頭状や濾胞状増殖をしめす被膜を持たない癌で、核の縦の溝、核内封入体、スリガラス状の核などの特徴をもち、核の重積が特徴である【図1】(26,27)。被膜を持ち、濾胞状増殖、高い細胞、びまん性硬化癌などの亜形がある。これらの亜形は核の特徴から乳頭癌に分類される。癌は20〜80%の患者で多中心性であり、1/3で両葉にみられる。リンパ管から甲状腺内や頚部リンパ節に転移し、希に、肺に転移する。
濾胞癌
濾胞癌は濾胞状分化を特徴とするが、乳頭癌にみられるような核の特徴はない【図1】(25,26)
濾胞癌は被膜で覆われており、被膜や血管への癌細胞の浸潤が、濾胞癌と濾胞腺腫の鑑別の重要な所見である。癌細胞の浸潤のパターンから2つのタイプがある。すなわち、浸潤の軽度なものと浸潤の高度なものである。
腫瘍の発育パターンは大きな濾胞細胞構造で分化度の高いものから、異型度が強く低分化のものまでさまざまである。Hurthle-cell(好酸性細胞)癌は濾胞癌の亜型である。腫瘍の多中心性やリンパ節への転移は乳頭癌より少ないが、血行性に肺や骨に遠隔転移しやすい。

診 断
ほとんどの分化型甲状腺癌は無症状であるが、ときたま初発症状が頚部リンパ節転移や肺や骨への転移のこともある。嗄声、ものを飲み込み難い、咳、呼吸困難は進行癌を疑わせる症状である。
診察で甲状腺癌は通常、単発性で動きが制限されているが、嚥下によって動く場合は良性結節との鑑別が難しい。
甲状腺結節の患者では、子どもや思春期の年令、60歳以上、20〜60歳の男性は甲状腺癌の可能性が高い。結節が硬く、表面が不整であるとき、頚部の片側のリンパ節腫大があり圧迫症状のあるとき、腫瘍が急速に大きくなってきたときには甲状腺癌が疑われる。実際には、すべての甲状腺癌患者は甲状腺機能は正常であり、血清TSH値も正常である。
どのような診断法よりも、穿刺吸引細胞診が良性と悪性の甲状腺結節の鑑別には一番有用である(1,27)。十分な細胞が採取できたなら、3つのカテゴリーに分けられる。
  1. 良性
  2. 悪性
  3. 判定保留(癌の疑いあり)
偽陰性は多くの場合は、材料不足か解釈ミスが原因であり、偽陽性は希である。癌は判定保留(癌の疑いあり)のうちの20%のみであり、濾胞腺腫と濾胞癌の鑑別が難しい。甲状腺超音波は甲状腺結節の大きさを計測したり、他の結節を発見したり、触診不能な小さな結節を穿刺吸引細胞診する場合のガイドとして有用である。

予後を決定する因子
中年成人の甲状腺癌の10年生存率は約80〜95%である【図2】(28-38)。5〜20%で甲状腺局所や頚部リンパ節の再発がみられ、10〜15%で遠隔転移がみられる。再発や死亡の予後因子は癌と診断された時点での年令、組織型、腫瘍の浸潤度です(28-42)
甲状腺癌のステージ分類は沢山あるが、そのうちでtumor-node-metastasis(TNM分類)が最も広く使用されている【表1】(33,34)。この分類に基づくと、80〜85%の患者は甲状腺癌で死亡する危険が大変低いところに分類される。死亡の危険は低いが、再発のリスクの高い患者がおり、このグループには16歳以下の若い患者と45歳以上の患者が含まれる。かれらの組織型は乳頭癌、細胞の高いタイプ、細胞が円柱状のタイプ、びまん性硬化型タイプなどの亜型、Hurthle-cell carcinomaであり、大きな細胞で、腫瘍の被膜を破って甲状腺外に浸潤したり、リンパ節に転移している。初回治療のやり方と経過観察の間隔はこれらの予後を決定する因子によって決まる。

初回治療
手 術
手術の目標は首の腫瘍を完全に切除することである。ゆえに、甲状腺の腫瘍と頚部リンパ節の転移も切除する(43)。甲状腺癌の手術のやり方にはいまでも結論が出ていないが、すべての甲状腺癌患者に対して甲状腺全摘もしくはほぼ全摘(残置甲状腺量は2〜3g以下)に賛成する説得力のある証拠がある(30-32,35-38)
甲状腺全摘もしくはほぼ全摘を行った場合、乳頭癌の多くは多中心性で両葉にできやすいので、甲状腺組織をより残す手術と比べて再発率が低い(44,45)。さらに、全部でなくともほとんどの甲状腺組織を取ると、術後の131-Iによる残置甲状腺破壊療法がやりやすい。甲状腺全摘術に対する反対意見は反回神経麻痺や副甲状腺機能低下症などの術後の後遺症の危険が増すというものである。甲状腺全摘術をしたつもりでも、たびたび甲状腺組織が残っており、術後に131-Iによるシンチを行うと甲状腺組織が検出される。
片葉のみに限局している直径1.5cmの乳頭癌のようなリスクの低い例では、甲状腺片葉切除術が適する。良性甲状腺結節の術前診断で手術をし、病理で濾胞癌と判明したときには、術後の経過観察がやりやすいので、残った甲状腺組織もすべて切除するのが望ましい。
乳頭癌の場合は、傍気管と気管食道領域の中央部のリンパ節と腫瘍と同側鎖骨上部、頚静脈頚動脈チェーンの下1/3のリンパ節を切除しなければならない。頚静脈頚動脈チェーンのリンパ節が触れたら、Modified neck dissection を行わねばならない。切除されたリンパ節は病理で調べることが望ましい。このようなリンパ節切除は再発や生存率に影響を与えるという証拠は示されていないが、乳頭癌患者に対するこのリンパ節郭清はいくつかの理由で正当化される。約2/3の患者はリンパ節転移があり、リンパ節転移のある80%の患者では転移は正中部に集中している(46)。加えて、血管のしたのリンパ節転移や傍気管支の溝のリンパ節転移は見つけ難い。濾胞癌の少数(35%)で、リンパ節転移がみられる。濾胞癌では、術中に濾胞癌と診断された時や手術時にリンパ節転移をふれたときにのみリンパ節郭清を行う。
放射性ヨード(131-I)治療
放射性ヨード(131-I)治療は次の3つの理由で術後に行われる。まず最初に、残っている正常甲状腺細胞を破壊することで、後程行われる全身放射性ヨード(131-I)シンチ検査で転移が見つかりやすくなる。また、血中サイログロブリン値をみることで、癌の取り残しや再発を敏感に知ることができるようになる。2番目に、放射性ヨード(131-I)治療は潜在性の小さな癌を破壊するかもしれない、そこで長期的な再発率を減少させれことができる(30,35-38)。3番目に、治療のために大量の放射性ヨード(131-I)を使用することで、全身放射性ヨード(131-I)シンチ検査を可能にする。この検査は癌の取り残しを見つけるのに大変感度が高い(47,48)
放射性ヨード(131-I)治療は症例を選んで行うべきである【表2】。リスクの低い癌では、長期的予後が大変良いので、術後の放射性ヨード(131-I)治療は推奨しない。しかしなら、再発の危険の高い例では放射性ヨード(131-I)治療を行うことで再発率と死亡率を減少させるので(30,35-38)、全例、術後に放射性ヨード(131-I)治療を行うべきである。
放射性ヨード(131-I)検査は術後4-6週経ってからからおこなう。その間は甲状腺ホルモン剤は中止しておく必要がある。我々の施設では、2mCi(74MBq)の放射性ヨード(131-I)を使用し、3日後に全身放射性ヨード(131-I)シンチ検査を行います。甲状腺部や別の場所に取り込みがあった場合は、治療量の放射性ヨード(131-I)を投与する。4〜7日後にもう一度全身放射性ヨード(131-I)シンチ検査を行い、甲状腺ホルモン剤の投与を始めます。6〜12ヶ月後に2mCiの放射性ヨード(131-I)を投与して、甲状腺組織および癌が破壊されているのを全身放射性ヨード(131-I)シンチ検査で確かめる。
完全なる破壊(放射性ヨード(131-I)の取り込みがみられない)は100mCi(3,700MBq)投与後か、甲状腺全摘術もしくはほぼ甲状腺全摘術を行った患者の80%以上では30mCi(1,110MBq)の投与で達成できる(49)。甲状腺組織をかなり残した手術では、30mCi(1,110MBq)の投与では2/3のみが甲状腺組織の破壊が達成できるのみである。故に、放射性ヨード(131-I)治療を行う予定の患者では甲状腺全摘術かほぼ甲状腺全摘術を行うべきである。甲状腺組織の完全なる破壊は甲状腺に最低300Gyの照射を要する。線量測定をすれば、より正確な放射性ヨード(131-I)の投与量を計算できるであろう(50)
放射線外照射
頸部や縦隔への放射線外照射は手術で完全に切除できなかった例や手術不能例、放射性ヨード(131-I)の取り込みのない例にのみ行われる。

経過観察
初回治療後の経過観察の目標は適切な甲状腺ホルモン剤による治療と癌の取り残しや再発を見つけることである。
再発は通常、最初の数年で起こることが多いが、もっと時間が経って見つかることもある。故に、経過観察は患者が生きている限り必要である。
甲状腺ホルモン剤治療
甲状腺腫瘍細胞の増殖は甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調節されており、甲状腺ホルモン剤投与による甲状腺刺激ホルモン(TSH)分泌の抑制は、再発や生存率を改善する(35)。だから、サイロキシン(レボサイロキシンナトリウム<注釈:日本ではチラージンS>)は術式や他の治療後にかかわらず、すべての甲状腺癌の患者に投与すべきである。甲状腺ホルモン剤投与量は成人では2.2〜2.8マイクログラム/kgで、子供ではもう少し多い(52)。甲状腺ホルモン剤投与の最適量は甲状腺ホルモン剤投与開始3〜4ヶ月後に、血清TSH値によって決められる。最初の目標はTSH値が0.1mU/L以下でフリーT3(FT3)が正常範囲にあることである。このやり方を続けても、甲状腺ホルモン剤治療は心臓や骨に悪影響は与えない(52,53)
診察および超音波による経過観察
甲状腺部と頸部リンパ節領域の触診は必ず行うべきである。超音波は再発のリスクの高い例や診察で再発を疑った例で行う。小さくて丸く薄っぺらなリンパ節や3ヶ月後に大きさが小さくなるようなリンパ節は良性のものである。甲状腺ホルモン剤治療を受けていて、一つだけのリンパ節転移のある患者の20%では血清サイログロブリンは感度以下であるので、血清サイログロブリン値の感度以下はリンパ節転移の否定材料にならないことがある。もし、頸部リンパ節転移が疑われたら、超音波ガイド下に穿刺吸引細胞診を行う(54)
胸部レントゲン写真
血清サイログロブリン値が感度以下の患者には、胸部レントゲン写真は行う必要はない。その理由は、肺に転移のある患者では全員、血清サイログロブリン値が高いからである(55)
血清サイログロブリン測定
サイログロブリンは正常甲状腺および腫瘍性濾胞細胞からのみ作られる糖蛋白である。甲状腺全摘術を受けた患者では、血清サイログロブリン値は測定感度以下でなければならない。もしも、甲状腺全摘術を受けた患者で血清サイログロブリンが測定可能なら、それは甲状腺癌の取り残しか再発を意味する(56)。少なくとも測定感度は1ng/ml以下でなければならない(57)。しかし、血清サイログロブリン値は抗サイログロブリン抗体が存在する血清では測定値に影響がでる。このような抗体を持つ患者は甲状腺癌中15%にみられる。血清サイログロブリンを測定する時には、この抗体は必ず、チェックすべきである。しかしながら、この抗体の陽性頻度は測定法(RIA, IRMA)によって、変わってくる(56-58)
正常甲状腺細胞、甲状腺腫瘍細胞から作られるサイログロブリンは一部TSHに依存している(57,59-64)
このように、血清サイログロブリン値を解釈する場合、残存甲状腺の有無にかかわらず、血清TSH値を考慮に入れる必要がある【表3】。もし、甲状腺ホルモン剤治療中に血清サイログロブリン値が測定可能なら、甲状腺ホルモン剤治療を中止したら、血清サイログロブリン値は増加する。
血清サイログロブリン値は優れた予後判定因子である。甲状腺ホルモン剤治療を中止しても、血清サイログロブリン値が感度以下の患者は15年以上経っても、再発はしない(61)。反対に、甲状腺ホルモン剤治療中に血清サイログロブリン値が10ng/ml以上か甲状腺ホルモン剤治療中止後、血清サイログロブリン値が40ng/ml以上の患者の80%は、治療量の放射性ヨード(131-I)投与後に頸部や遠隔転移部に放射性ヨード(131-I)の異常集積がみられる(65-68)
放射性ヨード(131-I)の全身スキャン
放射性ヨード(131-I)全身スキャンの結果は甲状腺ホルモン剤を4〜6週間中止後、血清TSH高値の状態で甲状腺癌の組織が放射性ヨード(131-I)をどれくらい取り込む力を持っているかで決まる。
しかしながら、この間の甲状腺機能低下症で弱ってしまう人もいる。
この問題を和らげるために代謝の速いトリヨードサイロニン(リオサイロニンナトリウム<注釈:日本ではチロナミン>)に変更する。サイロキシン<注釈:日本ではチラージンS>では3週間中止せねばならないが、トリヨードサイロニンは2週間の中止でよい(69)。また、サイロキシンを半分に減量するだけでも良い(70)。血清TSH値は最低30mU/ml以上でなければならず、もし、そのレベルに達さないときは放射性ヨード(131-I)治療は延期する。甲状腺ホルモン剤治療を中止する必要もなく、副作用もほとんどないので、レコンビナントヒューマンTSHの筋注が今後有望な選択肢である。甲状腺ホルモン剤治療を中止した場合とレコンビナントヒューマンTSH筋注の場合と比べて、放射性ヨード(131-I)の取込はほとんどの患者で同じである(71)
放射性ヨード(131-I)治療を計画したら、患者はヨード含有の薬物や食物を控えるように指導される。ヨード制限がうまくいっていない疑いのある患者では尿中ヨードをチェックする(72)
妊娠可能な女性では、妊娠の有無をチェックする必要がある。通常、検査のための放射性ヨード(131-I)スキャンでは、2〜5mCi(74〜185MBq)が投与される。それより多い量を投与すると、治療量の放射性ヨード(131-I)を投与したときに放射性ヨード(131-I)の取込を減らすことがある(73)。放射性ヨード(131-I)投与して3日後に放射性ヨード(131-I)スキャンと必要なら摂取率もおこなう。偽陽性は稀である(49)
2〜5mCi(74〜185MBq)の投与では取込が少なすぎて、見えにくい時でも100mCi投与後には取込が出るようになるかもしれない。これが、たとえ検査量の放射性ヨード(131-I)スキャンで陰性のときでさえも、甲状腺ホルモン剤中止後に血清サイログロブリンが10ng/ml以上になる例では100mCiの放射性ヨード(131-I)を投与する医学的根拠である。放射性ヨード(131-I)全身スキャンは放射性ヨード(131-I)投与4〜7日後に行う(47,48,65-68)
残置甲状腺を破壊するための放射性ヨード(131-I)を服用後の放射性ヨード(131-I)全身スキャンで甲状腺以外に異常集積がないときは、3ヶ月間甲状腺ホルモン剤服用後に血清TSHと血清サイログロブリンを測定すべきである。上述したように、放射性ヨード(131-I)治療後6〜12ヶ月経ってから、甲状腺ホルモン剤を中止して放射性ヨード(131-I)全身スキャンを行う【図3】。もし放射性ヨード(131-I)の異常集積がみられたら、100mCiの放射性ヨード(131-I)を投与する。もし放射性ヨード(131-I)の異常集積がないときは、乳頭癌や濾胞癌の患者では経過観察は血清サイログロブリン値をみながら行われる。
感度以下の血清サイログロブリンと放射性ヨード(131-I)全身スキャンで陰性の再発のリスクの低い患者では血清TSH値が0.1〜0.5mU/Lを保つように甲状腺ホルモン剤を減量する。再発のリスクの高い患者では【表2】、甲状腺ホルモン剤はそのままの量を続け、血清TSH値が0.1mU/L以下を保つようにする。診察と採血は年1回行う。血清サイログロブリン値が感度以下なら、他の検査は必要ない。
もし、甲状腺ホルモン剤服用中で血清サイログロブリン値が測定可能になってきたら、甲状腺ホルモン剤を中止し、放射性ヨード(131-I)全身スキャンを行うべきであり、その時、同時に血清サイログロブリン値を測定すべきである。もし放射性ヨード(131-I)全身スキャンで異常集積がみられるか血清サイログロブリン値が10ng/ml以上なら、100mCiの放射性ヨード(131-I)を投与すべきである。放射性ヨード(131-I)全身スキャンで異常集積がないときは、頸部や肺のCTスキャン、骨シンチ(74)、特異性は少し劣るが、タリウム、テトロホスミン、フルオロデオキシグルコースなどの放射性同位元素によるシンチ(75-77)が有用である。
甲状腺全摘術やほぼ甲状腺全摘術を受けている患者で術後放射性ヨード(131-I)治療を受けていな い再発のリスクの低い例では、術後6〜12カ月後に放射性ヨード(131-I)全身スキャンを行う。経過観察のやり方は、血清サイログロブリン値をみながら行われる。甲状腺片葉切除術を受けている再発のリスクの低い患者では、経過観察は年1回の頸部の触診と甲状腺ホルモン剤服用中の血清サイログロブリン値測定である。超音波は測定可能な血清サイログロブリン値を示すほとんどの患者において、残った甲状腺の異常所見を見つけだせる。もし、病変が小さい時には穿刺吸引細胞診は不可能であり、手術が唯一の治療となる<注釈:この記載はおかしい。いまは、超音波ガイド下に穿刺吸引細胞診は簡単にできる。直径1cm以下の触診不能の結節でも診断可能である>。

局所再発
分化型甲状腺癌の5〜20%で局所再発がみられます。最初の手術を不十分にすると、残った甲状腺やリンパ節に再発します。甲状腺全摘術を行ったにもかかわらず、局所に再発することもあり、この場合は低分化型であることをうかがわせます。触診で触れるとか、超音波やCTで容易に検出できる局所再発は切除すべきである。100mCiの放射性ヨード(131-I)投与4〜7日後に撮った放射性ヨード(131-I)全身スキャンで切除すべき別の転移を見出すかもしれない。放射性ヨード(131-I)全身スキャンを行った後、手術をする。このときは術中に放射性ヨード(131-I)を感知するプローブを使用することが望ましい(78)。癌組織の完全切除は術後1〜2日後に放射性ヨード(131-I)全身スキャンを行って、確認する。
放射線外照射は手術で完全に切除できない軟部組織の再発や放射性ヨード(131-I)を取り込まない例で行われる(51)
遠隔転移
遠隔転移は通常、肺や骨への転移が多いが、分化型甲状腺癌の10〜15%の患者でみられる(79)。肺転移は若い乳頭癌患者で最も多い。子供では、ほとんどの場合、肺が唯一の転移部位である。骨転移は高齢者で多く、それらは濾胞癌である。頻度は少ないが、脳、肝臓、皮膚などにも転移する(55)
診 断
肺転移の症状はほとんどない。対照的に、骨転移患者の80%以上は疼痛、腫脹、骨折などがみられる。肺転移のパターンは結節状のものからびまん性のものまで様々である。びまん性肺転移は、胸部レントゲン写真で異常がみつけられねば、普通放射性ヨード(131-I)全身スキャンや肺CTにて診断できる。縦隔の大きなリンパ節転移は乳頭癌患者で時々みられ、特に子供に多い(39,40)。骨転移は骨破壊が起こり、レントゲン写真で見つけるのは難しいことがある。骨シンチでは放射性同位元素の取込が減少したり、増加する(74)。骨転移はCTやMRIの方がより見付けやすい。遠隔転移を持つ患者のほとんど全てで、血清サイログロブリン値が高く、そして2/3以上の患者では、転移部に放射性ヨード(131-I)を取り込む。
治 療
神経学的または整形外科的な合併症、もしくはそのような合併症のリスクの高い場合には症状緩和のための手術を要すことがある。手術は、巨大な腫瘍の容積を小さくするのに有用であるかもしれない(80,81)。放射性ヨード(131-I)を取り込む転移巣をもつ患者では、4〜6ヶ月毎に100〜150mCi(3,700〜5,550MBq)を投与して治療すべきである。甲状腺への取り込み率に関与する効果的放射線量が、 放射性ヨード(131-I)治療の結果と相関する(82)。この理由のため、骨転移の患者には、200mCi以上という(7,400MBq)大量の放射性ヨード(131-I)治療が勧められるが、その効果ははっきりしないままである。子供には、1kgあたり1mCi(37MBq )が投与される。遠隔転移の患者に投与される放射性ヨード(131-I)の総投与量には制限はないが、500mCi(18500MBq)以上を投与されたときには、白血病の危険が少し増す、さらに、大量の放射性ヨード(131-I)治療はほとんどメリットがない(55)。外照射はレントゲン写真で見える骨転移に対して行われる(51,55)。抗ガン剤は無効であり、放射性ヨード(131-I)を取り込まない進行性の早い転移を持つ患者に取っておくべきである(83,84)
治療で完全に治るのは、遠隔転移部に放射性ヨード(131-I)を取り込む患者の45%である。特に、若い患者や肺転移の小さい症例で効き易い。血清サイログロブリンが測定範囲にあったとしても、治療がうまくいった例では再発はほとんど起こらない(55)
遠隔転移が見つかってからの10年生存率は、約40%である。遠隔転移が発見されたとき、転移巣が小さく、その転移巣への放射性ヨード(131-I)が取り込む分化型甲状腺癌を持つ若い患者が最も予後が良い(55,85,86)。転移巣の大きさを考慮に入れた場合、どこに転移しているかということ(肺か骨)が予後に影響を及ぼす。骨転移患者での予後の悪さは、転移巣の大きさと関係する(55)。転移の発見されたときの転移巣の大きさの予後は血清サイログロブリン高値を示す患者に対して放射性ヨード(131-I)100mCiを投与するか否かで左右される(55,65-67)

放射性ヨード(131-I)治療の副作用
急性副作用
吐き気や唾液腺炎などの急性副作用は大量の放射性ヨード(131-I)服用後には、よくみられるが、それらは通常、軽度で速やかに良くなる。放射線性甲状腺炎は普通、ほとんどみられないないが、残置甲状腺組織が大きい場合、副腎皮質ホルモン剤の投与を数日間必要とするほど痛みを訴えることがある。脳、脊髄、傍気管領域などの転移巣は甲状腺刺激ホルモン(TSH)の刺激に反応して腫脹したり、放射性ヨード(131-I)服用後に圧迫症状が出ることがある。もし、150mCi以上の放射性ヨード(131-I)を3ヶ月以内の短い間隔で投与された場合、放射線による繊維化がびまん性肺転移の患者にとって死を早めるかもしれないし、実際にそのようなことが起こっている(87)
遺伝学的異常と不妊
妊婦に放射性ヨード(131-I)を投与しないように、特に気を付けなければならない。
放射性ヨード(131-I)治療後、男性の場合は精子形成能力が一時的に低下したり(88)、女性の場合だと一時的な卵巣機能低下を来す(89)。妊娠前の放射性ヨード(131-I)被爆が遺伝学的損傷を引き起こすかどうかが大きな関心である。しかしながら、現在までに報告されている異常は妊娠の前年に放射性ヨード(131-I)治療を受けた女性において流産の頻度が増加したというものだけである(90,91)。ゆえに、放射性ヨード(131-I)治療を受けて少なくとも1年以上は妊娠を避けるように指導すべきである。十分な甲状腺ホルモン剤治療を受けている妊婦において、妊娠が腫瘍の成長に影響を与えるという証拠はない。
発癌と白血病
特に骨転移があって外照射を併用している場合には、放射性ヨード(131-I)治療を繰り返すと軽度の汎血球減少(赤血球、白血球、血小板がすべて減ること)になることがある。二次的な癌や白血病のリスクが増えるのは、500mCi以上の放射性ヨード(131-I)を投与されている患者や外照射を受けた患者である(55,90,92,93)

まとめ
ほとんどの乳頭癌、濾胞癌の患者は治すことができる。しかしながら、予後決定因子や術後の再発を考慮して、初回治療と経過観察は個々の患者で決めるべきである。

. Dr.Tajiri's comment . .
. コンパクトにまとめられた総説です。乳頭癌の診断には、穿刺吸引細胞診が大変な威力を発揮します。
わたしのクリニックでの典型的な乳頭癌の細胞診の写真【Fig1】を提示します。
また、乳頭癌では超音波も診断に有用です【Fig2】
日本での甲状腺乳頭癌の手術成績として別府野口病院の成績を紹介します【Fig3】
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参考文献]・[もどる