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甲状腺の病気シリーズ6
[079]
百渓尚子先生が作った患者さん向けのパンフレット<改訂版>

甲状腺の病気シリーズ6:橋本病について

表紙

橋本病とは
橋本病は、甲状腺に慢性の炎症がおきている病気で、慢性甲状腺炎の別名です。橋本はこの病気を詳しく調べて報告した医師の名前ですが、病名に人の名前がつけられたこともあって、日本では難病のようにいわれることがあります。これは大きな間違いです。

男性より女性の方に圧倒的に多くみられ、よく調べると10人に1人ぐらいがかかっているといわれています。
橋本病の患者さんは、例外はありますが、大なり小なり甲状腺がはれています。ただしこの甲状腺のはれが、くびやのどや食道に何か症状をおこすことはほとんどありません。

橋本病には甲状腺の働き具合から次の3つの状態があり、症状は、甲状腺ホルモンの過不足がある場合だけにみられます。
1. 甲状腺の働きが正常な状態(甲状腺機能正常)
橋本病の大多数の方は、甲状腺ホルモンに過不足はありません。この場合は橋本病がからだに影響するということはまったくありませんので、何か症状があっても橋本病のためではありません。従って、治療の必要はありません。しかし将来、甲状腺の働きが低下して、ホルモンが不足することがあります(2. を参照してください)。また、まれですが、一時、甲状腺ホルモンが過剰になることもありますので、定期的な検査が必要です(3. を参照してください)。

2. 甲状腺の働きが悪い状態(甲状腺機能低下症)
甲状腺の働きが低下して、甲状腺ホルモンが不足する場合です。甲状腺ホルモンはからだの新陳代謝に必要なホルモンですので、不足するとからだに支障がおこります。自覚症状がないこともありますが、不足が著しかったり長く続いたりすると、心身の活力が低下し、下記の症状があらわれます。またコレステロールの値が高くなったり、血圧が上がったり、心臓や肝臓の働きが悪くなることもあります。成長期の場合は、背の伸びが悪くなります。
症状
●顔や手足がむくむ
●食べないわりに体重が増える
●気力が低下する
●動作が鈍くなる
●皮膚が乾燥する
●声がかすれる
●寒がりになる
●しじゅうねむい
●毛髪がうすくなる
●物忘れがひどくなる
●ろれつが回らなくなる
●その他(便秘・貧血・月経過多)
挿し絵
挿し絵

これらの症状は他の原因でもおこりますから、症状があるからといって、甲状腺のホルモンが足りないとは限りません。また甲状腺機能低下症であっても、適量の甲状腺ホルモンを服用して血液のホルモン濃度が正常になっていれば、甲状腺に異常がない時と同じと考えてください。症状があれば他のことが原因です。なお、橋本病が原因の甲状腺機能低下症は、数カ月のうちによくなることも少なくありません。
3. 甲状腺ホルモンが一時的に過剰になる状態(無痛性甲状腺炎)
甲状腺の中に貯えられている甲状腺ホルモンが漏れて、バセドウ病と同じように血液中の濃度が高くなる場合です。普段甲状腺の働きが正常な橋本病の患者さんに、比較的急におこります。出産から数カ月間には、ことによくみられます。これは橋本病の炎症が一時強まることが原因ですが、痛みがないのでこれを「無痛性甲状腺炎」といいます。長くても4カ月以内には自然に治りますが、その後逆にホルモンが不足することがあります。これも大抵は数カ月で治りますが、なかには長く続いて甲状腺ホルモン剤の内服治療が必要になる方もあります。
非常にまれですが、橋本病からバセドウ病になることがあります。血縁にバセドウ病の方がいる場合は、他の人よりなりやすい傾向があります。

検査
血液検査
甲状腺ホルモン(FT4、FT3)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定し、甲状腺ホルモンの過不足を調べます。橋本病であるかどうかは抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺ベルオキシダーゼ(マイクロゾーム)抗体を測定して診断します。
超音波検査
腫瘍がないかどうかを確かめるときなどに行います。無痛性甲状腺炎かバセドウ病か血液検査だけでははっきリしない場合に行います。
細胞診
注射針で甲状腺の細胞を吸引し、顕微鏡で調べる検査です。これも腫瘍があるときに行うことがあります。
放射性ヨード(アイソトープ)検査
無痛性甲状腺炎かバセドウ病か血液検査だけでははっきりしない場合に行います。
挿し絵

治療
甲状腺ホルモンが不足している場合は、甲状腺ホルモン(一般名:サイロキシン、商品名:チラーヂンS)を服用して不足分を補う必要があります。大抵は3カ月までにはちょうどよい量が決まります。
日常生活
橋本病は甲状腺ホルモンに過不足がなければ、生活上留意することはまったくありません。
食事
普段通りの食事で結構です。海藻類も普通に食べてかまいませんが、「昆布」だけは毎日食べると甲状腺機能が低下することがあります。またヨードを含むうがい薬を毎日何度も使ってもおこることがあります。ただし中止すれば、まもなく治ります。なお、甲状腺ホルモンを服用している人の場合は問題ありません。

注意点
甲状腺ホルモンについて
  • 甲状腺機能低下症の治療で使う甲状腺ホルモンは、不足分のホルモンを補うためのもので、甲状腺の働きを高める薬ではありません。
  • 血液中の甲状腺ホルモン濃度が正常になっている場合は、甲状腺ホルモンを飲んでいるために正常になっているのですから、服用を続けてください。
  • 服用を止めてもしばらくは問題ありませんが、いずれ元の状態になってしまいます。
  • 適量を服用する限り副作用はめったにありません。
  • 併用していけない薬や食べあわせてはいけない食品はありません。ただし貧血に使う鉄剤、胃腸薬、コレステロールを下げる薬には一緒に飲むと甲状腺ホルモンの効き目を落とすものがあります。飲む間隔を8時間もあければ大丈夫です。
妊娠中および産後
甲状腺機能が正常であれば、健康な人と同じように妊娠出産することができます。
  • 甲状腺機能低下の方も、甲状腺ホルモンを服用して血液中の甲状腺ホルモン濃度が正常になっていれば、問題なく妊娠、出産できます。甲状腺ホルモンは、健康な赤ちゃんを産むために必要です。服用中の授乳もまったく差し支えありません。だれでもからだの中に持っている、なくてはならないホルモンだからです。
  • 産後は無痛性甲状腺炎がおこってホルモン過剰になったり、その後ホルモン不足になったり、不足が長びく人もいますので、産後ことに1年まではきちんと通院してください。

(財)東京都予防医学協会
挿し絵
百渓尚子
2011.4

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