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甲状腺片葉欠損:稀だが知っておくべき病気
田尻淳一 田尻クリニック 熊本

甲状腺片葉欠損は、先天性の甲状腺形成異常です。甲状腺は右葉と左葉から成り、両葉は峡部という部分でつながっています【図】。甲状腺片葉欠損は甲状腺の右葉か左葉のどちらかが生まれつき欠損しているのです。甲状腺片葉欠損は、甲状腺機能が正常であり、通常は治療の必要はありません。しかし、甲状腺が半分しかないためにもう一方の甲状腺機能を代償して甲状腺が大きくなることがあります。そのような場合には、病院を風邪などで受診したときや健康診断の際に甲状腺腫大を指摘され、専門医療機関を紹介されることもあります。そこで、超音波などを行い、甲状腺片葉欠損と診断されるわけです。余程、大きく甲状腺が腫れていない限り、治療の必要はありません。

最新の米国内分泌学会誌に小児の甲状腺片葉欠損の頻度と甲状腺機能についての研究が、イタリアのグループから発表されました(JCEM 88: 1534-1536, 2003)。イタリア・シシリー島南東部の11〜14才までの学童24,032人全員を対象として、超音波で甲状腺片葉欠損の頻度を調べた。甲状腺片葉欠損は12人で、頻度は0.05%であった。男女比は、1:1.4であった。12例全例で、甲状腺片葉欠損は左であった。甲状腺片葉の重量は、各年令の甲状腺重量正常値と比べて大きい例が3例、同じ例が4例、小さい例が5例であった。甲状腺機能は、全例正常であった。しかし、正常者と比べて、血清TSH値が高かった。この研究から分かったことは、甲状腺片葉欠損は左葉にみられることが多く、甲状腺片葉欠損の頻度は甲状腺無形成<注釈:生まれつき甲状腺がない先天性異常。この場合は、先天性甲状腺機能低下症のスクリーニングでみつかり、甲状腺ホルモン剤の治療を要する>と異所性甲状腺<甲状腺の位置が正常のところにない先天性異常。先天性甲状腺機能低下症のスクリーニングでみつかり、甲状腺ホルモン剤の治療を要することもある>を足した頻度と同じである。多くの症例では、TSHの刺激により甲状腺は腫大していた。結論として、甲状腺腫大と甲状腺機能低下症のリスクがあるので、甲状腺片葉欠損の症例は慎重な経過観察を要するとしている。

わたしも開業して10年間に、甲状腺片葉欠損の症例を5例経験しました。全例、何らかの甲状腺の病気を持っているために超音波を行い、たまたま診断しました。頻度は1万人に5人ですから、熊本市60万で300人、熊本県200万人で1,000人、日本1億2000万人で6万人になります。こうしてみるとそんなに稀でもないように思えてきます。ただ、甲状腺が腫れるとか、別の甲状腺の病気を持っていないと医療機関には行かないので、診断されないままでいる人が多いと思います。最近は、人間ドックや健康診断などで甲状腺の超音波をしますので、偶然にみつかることがあるかもしれません。

わたしが経験した甲状腺片葉欠損の5症例をまとめたものを【表】に示します。年令は0〜79才までで、男2人、女3人です。甲状腺重量は、それぞれの年令の正常値と比べて大きい例は橋本病を持っている1例だけで、正常の大きさは2人、正常より小さいのは2人であった。欠損葉は、右が2人、左が3人であった。これは、イタリアのグループの結果と異なっていた。今回、経験した甲状腺片葉欠損の症例は全例、何らかの甲状腺の病気を持っていたために甲状腺片葉欠損が見つかった。甲状腺の腫れがなく、甲状腺機能も正常なら甲状腺片葉欠損は分からない。しかし、このことは特に問題にもならない。何故なら、甲状腺片葉欠損だけなら、治療の対象にならないからである。

甲状腺片葉欠損という先天性異常があり、頻度は0.05%であるということを知っていただきたいために紹介しました。

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