第18章:甲状腺にやさしい生活を送る

正しい医学的治療を受ける以外に、甲状腺疾患患者は健康的な食べ物を食べることや、適切な栄養剤を飲むこと、運動療法の指示に従うこと、そしてリラクゼーションテクニックの練習などを含む生活習慣も守る必要があります。中には甲状腺ホルモンレベルを定期的にモニターし、薬の量を合わせるだけでよいと信じ込ませるような医師もおりますが、これらのことはすべて、身体的にも精神的にも健康になり、それを維持するために重要なことです。しかし、今では甲状腺疾患の精神─体に及ぼす影響の重大さがわかっているので、《第17章》でお読みになったような治療の組み合わせが大事です。

甲状腺の病気を引き起こしたり、長引かせたりするストレスの役割も見てきました。しかし、食餌や運動をしているかどうかを含めた生活習慣のファクターも、甲状腺ホルモンバランスの乱れの生じやすさに影響します。これらのファクターは、甲状腺ホルモンバランスの乱れのひどさの程度やその転帰をある程度決めるものでもあります。遺伝子は、慢性甲状腺炎やバセドウ病のような自己免疫性甲状腺疾患になるリスクの半分を占めるにすぎません。遺伝子により甲状腺疾患を発病しやすくなるかもしれませんが、実際に発病するかどうかは毎日どのように生活しているかということも関わっているのです。

甲状腺への自己免疫攻撃が起こることを予防する方が、攻撃が起きた後のホルモンバランスの乱れを治療するより簡単であるのは間違いありません。しかし、例えすでにホルモンバランスの乱れが起きてしまっている場合でも、甲状腺に優しい生活習慣を守ることで、健康への有害な影響を最小限にしたり、阻止することさえできるのです。そのような生活習慣には、他の疾患の有無や甲状腺ホルモンバランスの乱れの精神的、身体的影響に関与する可能性のある他の薬を飲んでいることも考慮に入れたものでなければなりません。

甲状腺ホルモンバランスの乱れのある人にとっていちばんよい食餌

私達の社会では、何を食べ、何を食べないかということが頭にこびりついています。ある人にとっては、食餌はただ体重をコントロールしたり、太らないようにするためのものです。他の人にとっては、適切な食べ物を食べることが病気を予防する方法なのです。多くの人が安定した、幸福な気分を促進するような食べ物を選ぼうと努めてもいます。しかし、目標が何であれ、人は皆長生きしたいし、健康でもっと充実した生活を送りたいのです。
甲状腺疾患患者や甲状腺ホルモンバランスの乱れを起こすリスクの高い人達にとっては、健康的な食餌とはこれらすべての目標を合わせてかなえるものです。適切な体重を維持すること、病気を予防すること、そして安定した気分が得られるものです。《第7章》で、私はなぜ甲状腺疾患患者が体重の問題に苦しむことが多いのかという理由を説明しました。バランスのとれた食餌なしには、甲状腺疾患患者が体重との闘いに勝利を収めることはできません。さらに、甲状腺疾患患者の中にうつ病や不安が高率に起こることを考えれば、どれ程健康的であっても食べ物が気分に及ぼす影響を考慮しない食餌は真に甲状腺に優しいものとは言えません。甲状腺の病気になる危険性のある人に対する健康的な食餌は、病気の予防という意味もあるのです。アメリカの死亡原因の上位を占めるものを含め、他の主な疾患がそうであるように、甲状腺疾患も適切な食餌で予防することができます。

甲状腺に優しい食餌は、甲状腺に対する自己免疫攻撃を予防したり、防止したりできるような免疫系に対しても優しい食餌でなければなりません。この同じ食餌が脳のダメージや認知力の衰えにつながる恐れのあるリスクファクターをコントロールするものでなければならないのです。これらの目的にすべて適うことを私が確かめた唯一の食餌は、次のようなものです。

  • 高タンパク食
  • 複合炭水化物を多く含むもの
  • 低脂肪食
  • 精糖類の含有量が低いもの

研究で、高タンパク、低脂肪食が自己免疫疾患の発病を予防することが示されています。そのような食餌は、自己免疫疾患の進行も遅くするようです(1)。脂肪の摂り過ぎは免疫系を傷つけ、甲状腺を含むいくつかの臓器に対する自己免疫攻撃を引き起こしやすくします。高タンパク、高複合炭水化物、低脂肪、および精糖類の含有量の少ない食餌で体重のコントロールができるだけでなく、コレステロールや血圧のコントロールにも効果があり、全体的な健康状態が向上します。また、血流の低下や卒中による脳の損傷も予防する効果があります(食餌が循環器系にどのような影響を及ぼすかについての詳しい情報は《第16章》を参照してください)。

最近出出版された本、『砂糖をやっつけろ!(2)』がベストセラーになる何年も前に、私は低精糖類食の考えを受け入れていました。今では、この本がどこでも手に入りますので、健康的な食事法のよい手引きとしてお使いになることをお勧めします。私は自分の患者の多くが食餌から単糖類を減らさない限り、やせることができないということに気付いて、低精糖類食を支持するようになりました。一般的に、精糖類と単糖類は血液中に入るのが早く、したがって血糖(血液中のブドウ糖)レベルの上がり方が他のどの食べ物より高いのです。食物を摂取した後の血糖レベルが高ければ高いほど、その結果放出されるインスリンのレベルも高くなります。インスリンはブドウ糖により刺激され、膵臓から放出されるホルモンであり、細胞内に糖を取り込んで脂肪として蓄え、エネルギーとして使うようにするものです。最近行われた数多くの研究で、高インスリンレベルが体重増加や高血圧および動脈硬化を含む数え切れないほどの有害作用の犯人であることが指摘されております。
血糖の上昇の程度は、“血糖指数”として表わされます。特定の食べ物を食べた後の血糖レベルの上昇が高ければ高いほど、血糖指数が高くなります。

食後の疲労や不安、集中力の低下、頻脈、そして発汗などの症状に悩まされているのであれば、おそらく急速に血糖が上がった後、すぐに血糖が下がっているのだと思われます。多くの人がこれらの症状を低血糖のせいにしておりますが、急速な血糖低下(急速に上がった後に起こる)が、低血糖ではなくても実際にそのような症状を引き起こすことがあるのです(《第10章》参照)。患者の甲状腺ホルモンレベルが正常になった後も、食後にそのような症状が続くことがあります。

食べ物の血糖指数を定めるファクターは、単糖類の含有量だけに限られたものではありません。加工や料理法だけでなく、脂肪や蛋白質、線維の量など、その他のファクターも含まれる場合があります。例えば、脂肪の量が高いと食物の血糖指数が上がり、蛋白質や線維の量が高いと下がる場合があります。やっかいな症状や気分の落ち込みを避けるために、血糖指数が下がるような食べ物をより多く食べるようにしてください。

一般的に、全粒穀物や大麦、ナッツ類、プンパーニッケルパン(ふるいにかけないライ麦で作る黒パン)、パスタ類、および乾燥した豆類のような複合炭水化物は、白パンやポテト、甘みをつけていないクラッカー、チップス、朝食用のシリアルに比べ、血糖指数が低いのです。蛋白質を多く含む食餌は血糖の上昇を遅らせ、症状が減ります。血糖に関連した症状がひどい場合、食餌を見逃してはなりません。研究では、生のスターチを食べると消化管での吸収が遅くなるため、血糖の反応が横ばいになる一方で、調理したコーンスターチを食べると生のコーンスターチに比べ、血糖の反応が高くなることが示されています(3)。また、サツマイモやスイートコーン、茹でた新ジャガイモ、白米、オートミール、クッキー、ビスケット、および蕎麦も避けるようにしてください。これらは皆、中等度の血糖指数があります。『砂糖をやっつけろ!』の中に挙げた食餌上の注意事項を守りつつ、動物性脂肪を含む食べ物も避けてください。

日本人が伝統的に食べてきたような大豆を中心とした食餌は甲状腺疾患患者に良いものです。大豆中心の食餌は、バランスがよく、複合炭水化物と蛋白質を多く含み、脂肪が少ないものです。大豆はコレステロールやトリグリセリドレベルにも良い影響を及ぼします。大豆タンパクを摂ると、飽和脂肪を含む他の食べ物を摂り続けた場合でも、LDLコレステロールが減少します。シャーベットや大豆チーズ、きな粉、またコレステロールを含まない豆乳製品を含め、様々な大豆を元にした食品の中から選ぶことができます。しかし、大豆食品を週に3回以上食べないようにしてください。フォトエストロゲンが気分や認知能力に影響を与える可能性があるからです(《第16章》参照)。また、甲状腺の機能を妨げないよう、大豆食品は必ず調理するようにしてください。

甲状腺ホルモンを作り出せなくする恐れのある物質、甲状腺腫誘発物質を含む生の食べ物を食べないようにしてください。カブやキャベツ、マスタード、大豆、ピーナッツ、松の実、雑穀のような食べ物には甲状腺腫誘発物質が多く含まれています。しかし、普通は調理で甲状腺腫誘発物質が中和されるので、これらの食べ物は適当な調理をしてから食べれば安全です。

必須食物脂肪

体内の脂肪はエネルギー源となります。しかし、それが脂肪の唯一の、あるいはもっとも重要な機能であるということはめったにありません。様々な脂肪がホルモンの産生や知能の増進などの範囲に及ぶ幅広い体内プロセスに役割を果たしているのです。脳の60%程度は脂質から成っています。甲状腺も正しく機能するためにある種の脂肪を必要とします。しかし、体の他の部分もそうですが、ほとんどの人が食べているいちばんありふれた種類の脂肪は必要としないのです。

これらの役に立たない食物脂肪は、主に飽和脂肪(主に肉や乳製品、その他の動物性食品からのもので、室温で固まります)と水素添加脂肪です。後者のタイプの脂肪は、例えば不飽和脂肪を製品の保存期間が長くなるように変えることができる現代の発明です。したがって、水素添加した植物油がマーガリンからクッキーまであらゆるものに使われるようになったのです。残念ながら、水素添加脂肪は体に良いものではありません。そして、水素添加脂肪や飽和脂肪を多く含む食餌を食べると、人間の寿命を延ばすというより、むしろ縮めることになります。

必須脂肪酸は、甲状腺や他の体の部位に適切な量が与えられていない恐れがあるものです。必須脂肪酸は、細胞膜の構造や体内の様々なホルモン様物質の形成、循環器系の適切な機能、およびそれ以外の健康面で欠くことのできない役割を果たしています。これらの脂肪酸は必須と呼ばれますが、それは体が自分で作り出すことができないものだからです。食物を食べたり、栄養剤を飲むことによって補う必要があります。必須脂肪酸は多不飽和脂肪酸であり、多くのグループに別れています。いちばんよく知られているものは、オメガ-3sとオメガ-6sです。主要オメガ-6必須脂肪酸はリノレン酸、また主要オメガ-3はアルファリノレン酸と呼ばれます。オリーブオイルやその他の植物油を摂取すると、これらの必須遊離脂肪酸の摂取量が増加します。

2種類のオメガ-3遊離脂肪酸は、その健康効果に最大の注目が集まっています。

  1. エイコサペンタエン酸(EPA)
  2. ドコサヘキセノール酸(DHA)

これら2種類の必須脂肪酸の主な食物源は、サバやサメ、オヒョウ、マグロ類、ニシン、イワシ、タラのような様々な深海の魚です。これらの脂肪をたっぷり含んだ新鮮な魚を食べたり、人気のある魚油栄養剤を飲むと、心臓病の予防に効果があることが広く認められています。動物での研究でも、EPAを多く含む食餌がSLEなどの自己免疫疾患の発生を予防し(4)、おそらく甲状腺への自己免疫攻撃にも予防効果があるのではないかということが示唆されています。一部の医師は、慢性関節リューマチや乾癬の治療にEPAを使うことを勧めています。魚油の健康効果は、大腸がんのようながんの予防にまで広がっています。カプセルに入れた魚油が糖尿病に及ぼす影響についての懸念が生じてきました。これは一部(全部ではありません)の研究で、これらの栄養剤が血糖レベルの増加とのつながりがみとめられたからです。また、妊娠中であるか、出血の問題がある場合は、これらの栄養剤は避けるようにしてください。私は、オメガ-3脂肪酸を新鮮な魚を食べて摂取されることをお勧めします。

食べる脂肪の量とタイプも、体重管理における中心的役割を果たすものです。飽和脂肪酸をたくさん食べれば太る可能性が高くなります。総カロリー摂取量を増やさないようにしていてもです。甲状腺機能低下症の動物に脂肪を多く含むえさと脂肪の少ないえさを与えてエネルギーと脂肪のバランスを見た最近の研究では、脂肪を多く食べると総カロリーは同じであっても、不釣り合いに体重が増えるということがわかりました(5)。甲状腺機能低下症であれば、直接脂肪として蓄えられてしまうので、多量の飽和脂肪の摂取は避けてください。

それはこのように作用します。体は蛋白質や炭水化物を食べた時にその代謝を調節することができますが、脂肪を食べるとそうはできません。炭水化物や蛋白質でカロリー摂取量が増えた場合は、細胞が代謝速度を速め、過剰なカロリーをどんどん燃やします。しかし、体は脂肪のバランスを調節する能力が低いのです(6)。様々なホルモンがエネルギーバランスの調節に役割を果たしています。これには甲状腺ホルモンやインスリン、アドレナリン、レプチンがあります。脂肪の燃焼は餓えやエアロビクス運動、およびインスリンレベルの低下などによって増加します(インスリンは脂肪カロリーを蓄える働きがあります)。体内組織に活性型甲状腺ホルモンがなければ、脂肪が蓄えられることになり、どうしてもプラスの脂肪バランスになる─つまり非常に太りやすくなってしまいます。

動物の研究では、正常な甲状腺を持つラットに脂肪を多く含むえさを与えると、それに反応してT3レベルが増加し、肥満になるのを防ぐということが示されました(7)。おそらく体重の問題を抱えている人の一部では、T3レベルの上がりかたが不適当であることが原因ではないかと思われます。

レプチンには代謝の効果を強めるだけではなく、食欲とカロリー摂取を減少させる効果があります。サイロキシンで治療を受けている患者では、ごくわずかなT3の不足により、代謝を促進するレプチンの働きが落ちている可能性があります。

抗酸化剤:甲状腺を有害なフリーラジカルから守る

体細胞は正しく機能するために酸素を必要とします。しかし、酸素消費の結果、酸素を多く含む副産物が作り出されます。このような酸素添加化合物、フリーラジカルと呼ばれるものは、細胞に毒性があります。例えば、体の代謝によって生じたフリーラジカルが蓄積すると、免疫系を弱め、体が病気と闘う能力が落ちます。フリーラジカルは細胞とその周辺構造に傷害を与えます。細胞にすべきことやしてはいけないことを告げる遺伝子を傷付けます。過剰なフリーラジカルによる遺伝子の損傷により、細胞の“自己認識の喪失”が起こることがあります。このために細胞の機能が損なわれ、がんが生じやすくなります。

抗酸化剤は体内のフリーラジカルと結合する能力のある天然の化合物です。食餌で抗酸化剤を摂ることにより、この“悪玉”の蓄積を最小限に止め、細胞の健康状態を改善します。抗酸化剤は、フリーラジカルが遺伝子物質を含む重要な細胞構成部分を損なうのを防ぎます。事実、抗酸化剤はがんを予防し、その中の一部“ベータカロチンやビタミンCとE”は甲状腺がんの予防効果があります(8)。自然界に存在する抗酸化剤の中には、体内の有毒な副産物を取り除くだけでなく、甲状腺の健康を保ち、適切な甲状腺ホルモンの供給に欠かせないものでもあります。これらの栄養素には微量元素のセレンや亜鉛、およびビタミンA、B2(リボフラビン)、B3(ナイアシン)、B6(ピリドキシン)、C、Eがあります([表9]参照)。

例えば、セレンが欠乏すると、フリーラジカルが甲状腺の炎症や破壊を増加させるような影響が出るようになります。重大な精神発達障害を起こす重症の甲状腺機能低下症は、アフリカ中央部にきわめて多く見られ、セレンとヨードの欠乏が合わさったためであることがわかっています(9)

セレンの欠乏は甲状腺に関係した乳児クレチン病とも関連があります。この病気は、母親が重症の生殖路感染症に罹っているような場合に起こるような胎盤への血流不足が原因と考えられます(10)。このような感染症により、セレンを利用するバクテリアが広がるだけでなく、細胞に毒性のある化学物質が放出されます。その結果、セレンが欠乏し、脳の発達中にある胎児の甲状腺ホルモンレベルが低下するのです。

自然環境や体内環境中には様々なバクテリアが住んでおり、そのバクテリアが必要とするセレンを競い合っています。したがって、ある種のバクテリアによりその環境が汚染されると、ヒトが利用するはずのセレンが消費され、甲状腺が正しく機能するのに欠かせないこの微量元素が欠乏することになります。Eschericia coli(大腸菌)のような細菌に感染するとセレン欠乏が起こるだけでなく、甲状腺ホルモンの産生を妨げる物質も放出されます。

ヒマラヤ地方の人で行った古い研究によると、下流の村にすんでいる人の45%に甲状腺腫が見付かったのに対し、上流の村に住んでいる人では12%しか見付からなかったということです(11)。研究者が川の水を沸かしたものと沸かさないもののどちらかを飲む人を募って調べたところ、沸かさない水を飲んだ人では1ヶ月後に甲状腺腫ができ始めたのです。甲状腺腫の発生は、実際のところ衛生状態の不良が原因であり、下流に行くほど細菌の含有が多くなり、そのためにセレンが足りなくなったためでした。

亜鉛はもう一つの重要な微量元素で、正常な甲状腺ホルモンの産生に欠かせないものです。研究で、ダウン症候群の子どもでは亜鉛のレベルが下がっていることがわかりました(12)。これらの子ども達には高TSHレベルとして示される甲状腺機能低下症もよく見られます。このような子ども達に亜鉛剤を4ヶ月投与すると、不活発な甲状腺が治るのです。ダウン症候群の子ども達に見られる亜鉛レベルの低下は、栄養が悪いためではなく、腸での吸収が悪いためと考えられます。亜鉛が少ないえさを与えたモルモットには、大抵甲状腺の傷害が起きます(13)

甲状腺に優しい栄養素

甲状腺ホルモンが正しく作用するためには、数種類の化学物質や栄養素、そして細胞内の酵素が一緒に協力して働かなくてはなりません。これらの栄養素のうち、セレンや亜鉛は甲状腺ホルモンが細胞内で正しく作用できるようにする重要な化学物質成分です。

数種の抗酸化剤が代謝を増強し、やせる効果があるとおおいに喧伝されています。体重に対するこの好ましい効果の根拠となっているのは、代謝活動を減退させるフリーラジカルの蓄積を防ぐ能力です。肥満の人には、亜鉛レベルの低下が見られ、一部の医師は肥満の治療に亜鉛を使うことを勧めています(14)。しかし、運動をしたり、バランスのとれた食餌を摂らなくても、抗酸化剤でやせることをはっきり証明した研究はありません。

代謝に対する影響がごくわずかなものであったとしても、抗酸化剤を補うことはよいことです。老化速度はある程度何を食べるかによって違います。適切な量の抗酸化剤を含むバランスのとれた食餌を摂ることで、細胞の破壊を遅くすることができます。これにより、体内の甲状腺ホルモンレベルを正常に保つことができ、そのことで早期老化は確実に遅らせることができます。一部の研究者は、老化が一種の組織甲状腺機能低下症であると信じています。年齢が進むと、細胞内のセレンや亜鉛の欠乏が起こり、それが甲状腺機能低下症と同じような甲状腺ホルモン作用の低下を起こすのではないかと思われます(15)

甲状腺機能亢進症患者は適切な亜鉛栄養剤を飲むようにしなければなりません。研究では、甲状腺機能低下症と機能亢進症のどちらも亜鉛欠乏を生じることが示されていますが、甲状腺ホルモン過剰により、尿中への亜鉛排泄が増加するために、甲状腺機能亢進症ではこの欠乏がより著しいものとなります。亜鉛は免疫系の機能にも役割を果たしており、亜鉛の過剰または欠乏が自己免疫疾患の発病に影響を与える可能性があります(16)

体細胞内で甲状腺ホルモンが正しく作用するためには、適切な量の抗酸化剤の供給が欠かせません。セレンは、体内でT4からT3へ変換させる酵素に欠かせない成分です(17)。セレンがなければ、ちょうどよい量のT3を作り出すことができず、血液中の甲状腺ホルモンレベルは正常であっても、あたかも臓器が甲状腺機能低下症であるように機能することになります。したがって、適切な量のセレン摂取が様々な臓器の機能を司る甲状腺ホルモンにとって欠かせないものとなります。セレン欠乏症に罹っている人(これは60歳以上の人の間ではごく普通に見られます)は、セレン栄養剤を飲むとT4からT3への変換の改善を見ます。長いことセレンの欠乏があった場合、利用できるT3が減少し、TSHレベルが正常であっても組織の甲状腺機能低下症が起こります。セレン栄養剤は組織の甲状腺機能低下症を予防し、それにより老化の影響をある程度遅らせる効果があると思われます。筋肉の損傷や筋力の低下は、一部にはフリーラジカルが筋肉へ及ぼす傷害効果である可能性があります。また、セレン欠乏症の人では、筋肉があたかも甲状腺機能低下症の状態であるかのような反応を示します。

しかし、セレン栄養剤を飲む場合は十分に注意を払ってください。あまりたくさん飲み過ぎると、疲労や腹痛、下痢、神経の傷害、そして時には不妊など好ましくない影響がいろいろ出る恐れがあります。セレンの過剰摂取で、甲状腺も損なわれることがあります。1日50マイクログラムのセレンを摂取すれば、十分な抗酸化作用が得られます。

甲状腺機能亢進症では、フリーラジカルが過剰に作り出され、細胞がそれを中和する能力を上回ってしまいます。そのため、変質性疾患(組織や器官が破壊されたり、機能を失うような病気)の進行に関わっています。研究では、甲状腺が活動し過ぎになると、酸素消費量が高くなり、細胞に毒性のある酸素添加化合物の蓄積につながります(18)。この蓄積のことを酸化ストレスと呼びます。これらの有害な酸化物を細胞が排出しやすくすることで、ビタミンCやE、およびカロチノイド混合物などの抗酸化剤は筋肉を含む体の様々な部位で、細胞の損傷を防いでいると考えられます。

活動し過ぎの甲状腺のある患者は、ビタミンB6(ピリドキシン)とビタミンB1(チアミン)の消費を増やす必要があります。ピリドキシンは脳内でのトリプトファンからセロトニンへの変換に重要なものです。ピリドキシンはビタミンB複合体、あるいは複合栄養剤の一部として摂取すると、活動し過ぎの甲状腺を治療している患者や、治療で正常な甲状腺ホルモンレベルになった患者にきわめて効果的であると思われます。

ビタミンAは、体が適切な量のT4からT3へ変換を行うのに必要なものです。動物由来のあらかじめ形成されたビタミンAを過剰に摂取すると、肝臓に蓄積し、毒性が出るレベルに達することがあります。ベータカロチンやその他のカロチノイドのような植物性ビタミンA前駆体には毒性がなく、食物中に見出されるもっとも強力な抗酸化剤です。ビタミンAの摂取源として私がお勧めするのは、色の濃い、葉菜類です。

ビタミンEは、酸化LDLコレステロールが血管細胞を損なうのをある程度防ぐことで、冠動脈疾患や卒中のリスクを減少させます。甲状腺にも効果があります。

最適な食餌は、たくさんの生の果物や野菜を含むものですが([表8]参照)、それ自体には必要なビタミン類や抗酸化剤が十分に含まれていません。残念ながら、スーパーで買うほとんどの果物や野菜は加工や保存、冷蔵がなされたものです。多くは食卓に届くまでに収穫後数週間から2〜3ヶ月経っています。生の食物に含まれるビタミンや抗酸化剤は不安定なため、加工法や収穫から消費までの間の時間差により、これらの必須栄養素の量が減ってしまいます。特に、食物中に含まれているセレンは、加工や保存、調理の間に簡単に失われてしまいます。

様々なビタミン類や抗酸化剤は毎日どの程度摂取すればよいのでしょうか。下に私がお勧めしている目安を挙げてみました。

[表9]毎日摂取する最適な栄養素レベル
ビタミンC 250〜1,000ミリグラム
ビタミンE 200〜800国際単位
ベータカロチンおよび混合カロチノイド ビタミンA活性として1,000〜5,000国際単位
セレン 50〜100マイクログラム
亜鉛 15〜20ミリグラム
リボフラビン(ビタミンB2) 1.5ミリグラム
ナイアシン(ビタミンB3) 15〜20ミリグラム
ピリドキシン(ビタミンB6) 25〜50ミリグラム
葉酸 400〜600マイクログラム

活動し過ぎの甲状腺である場合、甲状腺ホルモンレベルがまだ高い時でもビタミン類や抗酸化剤を飲むことをお勧めします。一方、甲状腺機能低下症の場合は、甲状腺ホルモンレベルが正常か、または正常に近い値になってから栄養剤を飲むようにした方が安全でしょう。これらの栄養剤が体内に蓄積するのを避けるためにこの注意事項を付け加えてください。

様々なハーブ製品の成分や甲状腺に対する有益な効果や有害作用についてはほとんどわかっていませんが、そのような影響のある恐れがあるということを知っておかねばなりません。例えば、人気のある調理用のハーブであるタイムには、甲状腺の活動性を抑える可能性のある精油が含まれています(19)。タイムオイル(含そう剤や充血除去剤に含まれ、また一部の人が疲労やうつ病、消化不良、および筋肉痛に使っている)は、大量に使用した際に吐き気や嘔吐、心臓や呼吸器の問題も起こすことがあります。1985年に行われた、普通の弛緩性ハーブであり、ウィルス感染症に使われるレモンバーム(Melissa officinalis)を含む4種類の植物の凍結乾燥エキスの研究で、甲状腺に関連した効果を持つ可能性が高いことが記録されています(20)。エキスが甲状腺を刺激する免疫グロブリン、バセドウ病で甲状腺を活動し過ぎにする抗体の活性を弱めることがわかったのです。

甲状腺ホルモンは甲状腺を持たない動物だけではなく、植物からも合成できます(21)。これは甲状腺ホルモンが食物連鎖で伝わる可能性があることを示唆するものです。もしそうであれば、甲状腺ホルモンは、体内で作り出される(太陽光との相互作用で皮膚がビタミンDを作ることができます)ものと食物から取り込まれるものの両方があるビタミンとホルモンの機能を併せ持つ化合物であるビタミンDのようなものである可能性があります。

植物成分がどのように甲状腺に影響し、植物が直接かなりのレベルの甲状腺ホルモンを供給できるのかどうかを確かめるには、まだ研究が必要です。しかし、今のところは、ハーブを使っている場合、濫用を避けてください。その効果や副作用についてはまだわかっていないからです。

ヨード:諸刃の剣

微量ミネラルであるヨードは、健康な甲状腺が甲状腺ホルモンを産生するのに欠かせない成分です。正常に機能するためには、甲状腺は1日150マイクログラムのヨードを必要としますが、ほとんどのアメリカ人の食餌中には、これをはるかに超える量が含まれています。アメリカでは、ヨードの摂取量は1日300マイクログラムから700マイクログラムの範囲にあります。大多数のアメリカ人にとっては、「食餌にヨードを補うと甲状腺によい効果がある」というようなアドバイスは科学的根拠がなく、本当は有害なものです。ヨードを多く摂取すると甲状腺に対する自己免疫攻撃を起こしたり、促進することがあります。研究者は、アメリカや日本で観察される自己免疫性甲状腺疾患の発生頻度の増加の原因の一部がヨードの過剰摂取ではないかと推測しています(22)。ヨードを多く含む食餌を摂っている地域では、甲状腺炎や甲状腺がんの有病率が高くなることが研究ではっきり証明されています(23)

食餌中のヨードの量が多すぎると、サイログロブリンと呼ばれる甲状腺内の分子量の大きな蛋白質によりヨードが取り込まれます。このタンパク質内で甲状腺ホルモンを作り出すプロセスが実行されます。ヨード化サイログロブリンの量が高くなると、免疫系がすぐに反応し、慢性甲状腺炎の特徴を示す甲状腺の炎症が起こります。動物の研究では、自己免疫性甲状腺炎がヨード摂取量の増加によりひどくなることが証明されています。多量のヨード摂取により、脂肪組織内へのヨード蓄積も起こります。脂肪から常にヨードが血液中に放出されることで、もともと甲状腺に病気がある人だけでなく、健康な人にも不活発または活動し過ぎの甲状腺が生じるおそれがあります。

最近、NASAの医師が、地上での研究に参加した人の一部に軽度の甲状腺機能低下症が観察されたため、私に相談してきました。このホルモンバランスの乱れは、被験者が多量のヨードを摂取し始めてから2〜3週間の内に起こりました。これらの人に与えられたヨードの量は1リットルあたり4グラムで、ヨードを加えて滅菌状態にした循環処理水を飲んでいる飛行中の宇宙飛行士の摂取量に匹敵するものです。ロシアでは、ヨードの代りに銀が使われています。地上被験者の一部では、ヨードの多量摂取の結果、最終的に甲状腺への自己免疫攻撃まで起きたのではないかと思われます。これらの人の中の1人には、軽度の甲状腺機能低下症の後に、持続性の軽度甲状腺機能亢進症になりました。宇宙飛行士と地上被験者の両者に甲状腺ホルモンバランスの乱れが起きる可能性について、私が警告したために、NASAは滅菌システムを変更し、ヨードを多く含む食餌を止めることにしました。

多量のヨードを不注意に摂取したり、投与したりすると、慢性甲状腺炎患者やバセドウ病患者の間に甲状腺ホルモンバランスの乱れを引き起こす可能性があります。過剰なヨードにより、バセドウ病患者の一部、特に治療を受けて正常な甲状腺機能を取り戻した患者に甲状腺機能低下症が起きることがあります。明らかに、海草から作った栄養剤を飲んだり(海草は特にヨードを多く含んでいます)、ヨード化塩を大量に使用することは、甲状腺疾患患者の健康に危険を及ぼす恐れがあります。

ある種の薬剤やX線撮影に使用する造影剤から、過剰なヨードを摂取することも甲状腺疾患患者に甲状腺機能障害を起こす危険性があります。例えば、肺疾患治療のために無機ヨードを含む去痰剤を常用すると、甲状腺腫と甲状腺機能低下症が起きることがわかっています。有機ヨードを含まず、安全なものと考えられているヨウ化グリセリン剤でさえ、甲状腺機能低下症を起こすことが証明されています。生命を脅かすような心律動疾患の治療に普通に使われているアミオダロンという薬は、大量のヨードを含んでいます。(1錠中に75ミリグラム)アミオダロンを飲んでいる人の内、おおよそ20%が甲状腺機能低下症になり、2%が甲状腺機能亢進症になります。まだヨード欠乏が問題になっている世界の一部の地域では、アミオダロンがアメリカよりも甲状腺機能亢進症を起こすことが多く、甲状腺機能低下症を起こす率は少なくなっています。

マーシーは35歳の主婦ですが、姉が2〜3年前に慢性甲状腺炎で、不活発な甲状腺であると診断を受けていました。彼女は太ったのと疲労が続くために医師の元に行きました。甲状腺の検査をしてもらいましたが結果は正常で、自分の症状の原因がわからないままであるのに失望し、栄養に関する本を読み始めました。その中の一冊に、毎日2,000から3,000ミリグラムのケルプ(昆布の一種)剤を飲むことが甲状腺の健康を保つ上で欠かせないと書いてあったのです。マーシーはその本で勧められていた栄養剤を飲み、たくさんヨードを摂れば姉のような甲状腺の病気になる可能性が少なくなり、自分の症状も軽くなるだろうと考えていました。しかし、その結果彼女はバセドウ病による甲状腺機能亢進症になり、甲状腺の破壊が必要になったのです。

一般的な食物の中でも、海産物にいちばん多くヨードが含まれています。これにはロブスターやカニ、牡蠣、またその他の貝類が含まれます。植物や乳製品も、その産地の土壌にヨードが含まれている場合、いくらかヨードを含んでいることがあります(沿岸地域の土壌には、内陸部の土壌よりも普通、高いレベルのヨードが含まれています)。それ以外のヨード含有量の高い食物は、パンと卵です。ヨード化塩は1グラム中に70マイクログラムのヨードを含んでいますが、ほとんどのアメリカ人にとっては最大のヨード摂取源となっています。

マーシーのように、自己免疫性甲状腺疾患に罹りやすい素因があることがわかっている人は、ヨードの摂り過ぎを避けるようにしなければなりません。親族の誰かが甲状腺疾患に罹っている場合は、ヨード化塩の使用をできる限り最小限に留めるようにしてください。一般的には、1日1ミリグラムを超えるヨード化塩を食餌から摂らないようにと勧められていますが、私は1日500から600マイクログラム以上摂らないようにお勧めしています。

ヨードが多すぎると甲状腺に害を与え、不活発なまたは活動し過ぎの甲状腺を起こすことがありますが、その一方で、食餌中のヨードが足りないと甲状腺腫や不活発な甲状腺が生じることがあります。血液中と甲状腺内のヨードレベルが低い場合、脳下垂体のTSH(甲状腺刺激ホルモン)による刺激の結果、甲状腺細胞の肥大と増殖が起こります。世界中で2億近くの人がヨード欠乏症とそれが原因の甲状腺腫に罹っています。土壌中のヨード含有量が非常に低く、そのために食物中のヨード含有量が低く、魚をあまり食べない一部の地域では、人口の50%以上に甲状腺腫があります。発育中の胎児の甲状腺の機能は、母親からのヨード供給に頼っているため、ヨード欠乏地域に住んでいる女性から脳に障害を持った子どもが生まれることがあります。この病気はヨード剤を飲むことで簡単に予防できます。
アメリカでは、ヨード欠乏症は1924年以来希なものとなりました。この年に食卓塩生産者がヨードを加え始めたからです。皮肉なことに、元々はヨード欠乏症と甲状腺腫を予防するために講じられた同じ手段が、今度は遺伝的素因を持った人の間に自己免疫性甲状腺疾患の発生率が高くなった原因の一つと考えられるのです。それでも、一部の人は軽度のヨード欠乏症に罹っています。バランスを取らなければならないのは明らかです。ヨード欠乏とヨード過剰摂取のどちらも避ける必要があります。

カルシウムとビタミンD

活動し過ぎの甲状腺があると、長い間に相当量の骨が失われます。甲状腺ホルモン剤を過量投与されている甲状腺機能低下症患者も骨を失う危険に曝されています。閉経後であればなおさらこのリスクが高くなります。長期にわたって甲状腺ホルモンのレベルが高い状態が続いていると、骨粗鬆症に関する他のリスクファクターもある場合は、特に懸念が大きくなります。このファクターには、やせた女性あるいは白人女性、糖尿病に罹っていることであること、喫煙、あるいは骨粗鬆症の家族歴があることなどが含まれます。

この理由から、十分なカルシウムを摂るようにしなければなりません。乳製品(残念ながら動物性脂肪をたくさん含んでいます)に加え、[表10]のような食べ物にカルシウムが多く含まれています。

食餌から摂るカルシウムが少なすぎ、乳糖不耐性または低脂肪食にする必要があって乳製品が食べられない場合、少なくとも1日1,000ミリグラムのカルシウム元素を食餌に補うようにしてください(例えば炭酸カルシウムの形で)。乳製品を摂っている場合であっても、毎日のカルシウムの必要量を満たすだけのカルシウムが摂れていない場合があります。カルシウム剤はほとんどの人にとってその解決法となります。ただし、カルシウム剤は便秘を起こすことがあります。カルシウム剤を飲んでいる間は、便秘の軽減や予防のため、必ず運動をし、1日8から16オンス(1オンスは29.6cc)の水を飲むようにしてください。運動には、骨喪失がさらにひどくなるのを防ぐ効果もあります。

最適な食餌:すべてを組み合わせて

健康的な栄養食は、体重のコントロールや変性疾患の予防、明るい気分の維持、そして寿命を延ばすために欠かせないものです。おそらく甲状腺疾患患者にとっては他の誰よりも大事なことであると思われます。甲状腺ホルモンが体重増加を防ぐために食べた食物の種類に応じて体が代謝を調節できるようにする主要ファクターの一つであるからです。[表11]に私が甲状腺にやさしい食餌としていちばんよいものであり、もっとも重要であると考えるものをまとめました。

運動の効果

甲状腺疾患患者からよく運動してもよいかと聞かれます。私はまだ甲状腺機能低下症、あるいは甲状腺機能亢進症である間は、激しい運動はお勧めしません。甲状腺ホルモン欠乏がある場合、運動で筋肉を傷める危険性があるからです。甲状腺機能亢進症がある場合も激しい運動は避けるようにしなければなりません。心臓や筋肉、呼吸器系など体の多くの部分の機能がいくぶん損なわれているからです。しかし、甲状腺ホルモンレベルが正常になったら、運動を多いにお勧めします。体重のコントロールができるだけでなく、気分や自尊心に関係する生理学的効果も生み出すからです。これは甲状腺ホルモンバランスの乱れを経験した人にとって欠かせないものです。

定期的な運動は、緊張や怒り、そして錯乱を和らげます。運動トレーニングは気分の改善、うつ病や不安の緩和に効果があります。そして、ストレスを感じることも減ってきます。研究では、意識的運動(ゆっくりした優雅な動きの組み合わせと穏やかな精神を心に描くこと)は、男性よりも女性の方に健康感を増強する効果がはるかに高いのです。私は男女共に太極拳やヨガ、あるいは他のタイプの意識的運動をするように勧めています。これは気分の改善を促進するようです。何らかの形の筋肉や骨に対する負荷運動と合わせて、意識的運動やその他の精神─体テクニックを行うと、甲状腺疾患患者の自尊心を高めるのに非常な効果が見られることがあります。

Jon Kabat-Zinnは、マサチューセッツ大学医療センターのストレス緩和クリニックの設立者兼院長ですが、「ヨガには単にリラックスさせたり、体を強く、柔軟にする以上の大きな効果がある。体の状態や健康状態のレベルに関わりなく、自分自身のことを知り、自分を全体的に捉えることのできるもう一つの方法である」と言っております(24)

最近、David Brown博士が、週3回の運動─トレーニングプログラムの効果を比較しました。これには中等度〜強度の歩行(心拍予備量の65から75%)、軽度〜強度の歩行(心拍予備量の45から55%)、リラクゼーション反応を併用した軽度〜強度の歩行(ポータブルカセットプレーヤーとヘッドフォンを装着)、そして週3回、5分間の意識的運動(太極拳)が使われました(25)。博士は、意識と運動を合わせた方法が、単に歩くだけよりも精神的健康にはるかに大きな効果を持つことを示しました。瞑想やリラクゼーションテクニックでは、思考が音や言葉、祈祷、あるいは一連の言葉の上に構築され、集約されます。マイナスの思考は、集約された考えで打ち消されます。このようなテクニックは、激しい運動を行うことのできない高齢者だけでなく、うつ病や不安、慢性疲労症候群、および心臓病にかかっている人にも適しています。

精神─体テクニック

  • バイオフィードバック
  • ダンス/運動療法
  • 誘導イメージトレーニング
  • アートセラピー
  • 瞑想
  • 音楽療法
  • ヨガ
  • 太極拳
  • 自助支援グループ

甲状腺ホルモンバランスの乱れがあり、血液検査の結果が正常になる前の期間は、1日15分から20分歩くというような軽い有酸素運動だけをなさることをお勧めします。これにより心臓と肺が強くなり、甲状腺ホルモンが正常になってくるにしたがって、体の新たな要求に適応できるようになります。この治療段階では、激しい無酸素運動や筋肉を鍛えるような運動はさけてください。この時期は、筋肉の代謝が非常に落ちているか、亢進しているかのどちらかであるため、筋肉の損傷を起こさずには満たすことができないほどの要求が筋肉にかかる恐れがあるからです。

甲状腺疾患患者に対し、最適な身体的、精神的健康をもたらすようデザインされた健康プログラムに、運動を入れなければならない主な理由が3つあります。

  1. 運動、あるいは規則的な身体活動はエンドルフィンレベルを押し上げ、落ち込んだ気分を和らげます。
  2. 運動により、筋量が増加します。このため、長期的には代謝が促進されます。したがって、血液中の甲状腺ホルモンレベルが正常になった甲状腺機能低下症および甲状腺機能亢進症患者のどちらにも、体重コントロールに欠かせないものです。
  3. 運動により、心機能が改善され、体や脳の血管の損傷を予防します。循環器疾患のリスクの減少は将来への投資です。老化に伴って生じる認知障害のリスクを最小限に抑えることができます。

どのような種類の心臓病にも罹っていないとすれば、これら3つの長期目標を満たす運動プログラムに従い、そのプログラムを3段階に分けて実行してください。

第1期

これは開始期で、この間は1回30分から60分だけ週3回耐久運動を行います。これには次のようなものが含まれます。

  • ウォーキング
  • 階段昇降運動
  • 水泳
  • クロスカントリースキー
  • 自転車こぎ
  • ジョギング
  • 足踏み運動
  • サイクリング
  • ボートこぎ

第2期

これは、週3回から週6回の耐久運動を行っても大丈夫な状態になったら、2ヶ月目から始めることができます。このステップアップ期は、1ヶ月から2ヶ月取るようにしてください。1週目に運動を週3回から4回に増やし、第2週目に週5回にし、3週目に週6回にします。徐々に耐久運動の回数を増やしている間に、強化トレーニングプログラムを始める必要があります。強化運動の目標は1回30分、週3回がよいでしょう。

第3期

これは後で、維持プログラムをいつでも行える状態になった時に行うもので、週6回の耐久運動と週3回の強化トレーニングを組み合わせて行います。

エアロビクス(有酸素)運動は、心臓を強くし、その効率を高めます。気分を改善し、カロリーや脂肪の燃焼に効果があります。これは再び自分の健康を管理できるようにするどのような運動プログラムにも欠かせないものです。40歳以上の人、あるいは心臓病の病歴のある人は、医師にチェックしてもらう必要があります。運動プログラムを始める前に、健康状態と心臓病の有無を見るために、医師が心臓負荷試験を勧める場合があります。負荷試験は、長いこと診断されないままの甲状腺機能低下症があるほとんどの人にとって意味のあるものです。

甲状腺に影響を及ぼす薬

甲状腺疾患患者は、市販の薬が自分の甲状腺機能に影響するのではないかと思うことがよくあります。甲状腺機能低下症であれ、甲状腺機能亢進症であれ、血液中の甲状腺ホルモンレベルが比較的安定している限り、風邪薬や充血除去剤を飲むことについてあまり心配する必要はありません。プソイドエフェドリンを含んでいる一部の風邪薬で、甲状腺機能亢進症の人に、震えや神経質、睡眠障害、頻脈のような甲状腺ホルモン過剰症状が出やすくなる場合があります。プソイドエフェドリンを含む充血除去剤の服用も、甲状腺機能亢進症や心臓病がある場合は注意しなければなりません。また、甲状腺機能低下症であり、まだ甲状腺ホルモンレベルが低い状態であれば、眠気を催す効果のある抗ヒスタミン剤も避ける必要があります。甲状腺が不活発であるか、活動し過ぎであるかにかかわらず、カフェインの摂り過ぎが不安症状を増し、心拍がさらに速くなるということを頭に入れておくようにしてください。

甲状腺ホルモンレベルが低い場合、睡眠薬や安定剤は避けてください。安定剤が粘液水腫性昏睡を引き起こすことも珍しくありません。これは甲状腺ホルモンレベルが非常に低いことに関連した危険な状態です。特に高齢者では注意が必要です。甲状腺ホルモンレベルが低いと、これらの薬を体内から排泄するのが遅くなるため、半覚醒状態を引き起こすことがあります。

静脈炎やある種の脳血管疾患の治療に使われる血液を固まりにくくする薬、ワーファリン(クマリン)を飲んでいる甲状腺疾患患者は、望ましい抗凝固作用のレベルの維持に必要な薬用量に、甲状腺ホルモンレベルが影響することを知っておかねばなりません。甲状腺ホルモンレベルが高くなったり、低くなったりすると、ワーファリンの用量を変える必要があります。

甲状腺ホルモンレベルはその他の多くの薬のレベルにも影響します。甲状腺ホルモンバランスの乱れがある場合に量の調整が必要となる薬には、ベータ・ブロッカーやジギタリス(鬱血性心不全に使われます)があります。テオフィリンは抗喘息薬ですが、これも量の調整が必要になる場合があります。喘息に使われる薬の多くは、甲状腺ホルモンの作用を高めます。一部の抗喘息薬は、甲状腺ホルモンレベルが高い時には避けるようにしなければなりません。

心臓病治療薬のアミオダロンを飲んで、軽度の甲状腺機能低下症が起きた人は、TSHのモニターをしてもらうようにしなければなりません。しかし、医師は甲状腺の不活発さの程度が著しいものでない限り、甲状腺ホルモン剤を処方してはなりません(TSHが20を超える場合)。多くの患者で、甲状腺機能低下症は一過性のものであり、時間が経つ内にそのような薬を飲み続けていたとしても、TSHは正常になります。

アミオダロンの使用による甲状腺機能亢進症はもっと問題が複雑です。というのは、甲状腺ホルモンが過剰であると、心拍が不正になったり、アミオダロンがこの問題をコントロールする効果が下がることがあるからです(26)。アミオダロンによる甲状腺機能亢進症はすぐに治さねばなりません。しかし、アミオダロンによって引き起こされる甲状腺機能亢進症には2つのタイプがあります。タイプIは、甲状腺のヨードの取り込みが増したことか、あるいは甲状腺ホルモンの産生量が増したことによって起こるものです。タイプIIは、薬の甲状腺に対する毒性によるもので、これが甲状腺細胞を傷つけ、甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出すのです(無痛性甲状腺炎および亜急性甲状腺炎で起きることと同じ《第7章》参照)。甲状腺機能亢進症を起こしている主要メカニズムがどちらであるか確かめることは、治療方法が異なるので、医師にとって大事なことです。その他に、インターフェロンやインターロイキン-2のような薬も甲状腺への自己免疫攻撃を引き起こすことがあります。この結果、甲状腺の機能障害が起こります。

なかなかよくならないうつ病に罹っている多くの人は、一連の抗うつ剤を必要とします(《第16章》参照)。この結果甲状腺ホルモン剤の量を増やさねばならなくなることがあります(27)。甲状腺の病気があることがわかっており、抗うつ剤の投与を受けている人は、検査をより頻繁に受け、甲状腺ホルモン剤の量を合わせてもらうようにしなければなりません。そうでなければ、抗うつ剤のうつ病治療効果が落ちる恐れがあります。

リチウムも甲状腺機能低下症を起こすことがあります。これは甲状腺からの甲状腺ホルモン放出を阻害し、甲状腺がヨードを蓄積するようにさせるからです。研究では、リチウムが慢性甲状腺炎タイプの甲状腺への自己免疫攻撃を促進することが示されています。このため、慢性甲状腺炎を悪化させたり、甲状腺の傷害を引き起こすこともあります。気分変動障害のためリチウムを飲んでいる人の相当数が、不活発な甲状腺であるということがはっきりしています。それよりも希ですが、リチウムが甲状腺への自己免疫攻撃に関連した活動し過ぎの甲状腺を引き起こすことがあります。患者がリチウムを中止した後に、あたかもリチウムの中止の反動で活動し過ぎを起したように見える甲状腺機能亢進症が起きることはめったにありません。

元々慢性甲状腺炎のある人では、リチウムによりさらに甲状腺機能低下症が深刻な状態になり、双極性障害に伴う精神症状との混同が生じる恐れがあります。この理由から、リチウムで治療を受けている躁うつ病の患者は、甲状腺の検査を定期的に受けることが多いのです。甲状腺が正常であっても、リチウムで軽度の甲状腺機能低下症が起きることがあり、軽度の甲状腺機能低下症が気分変動にもたらす有害な影響を最小限に抑えるため、軽度の甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモン剤で治療しなければなりません。甲状腺ホルモン剤による治療は、リチウム誘発性の軽度甲状腺機能低下症がある躁うつ病患者の躁病症状発現を避ける効果があると思われます。

アルコールとニコチン:甲状腺の敵

多量のアルコール摂取とうつ病はしばしば一緒に起こります。アルコールは正常な甲状腺ホルモンバランスになるのを妨げます。これは、うつ病でアルコール中毒のある甲状腺機能低下症の患者が、薬を飲まなくなったり、不規則な薬の飲みかたをするようになるところまで、自分に構わなくなることがあるからです。そのために、別の悪循環に陥ってしまいます。アルコール摂取も過剰なカロリー摂取の原因となり、体重増加のリスクが高くなります。

喫煙はほとんどの重要臓器に害を与えます。そして甲状腺も例外ではありません。喫煙は体内に甲状腺を弱めるような物質を蓄積させます。例えば、2,3-ハイドロキシピリジンはT4からT3への変換を妨げます。喫煙により、バセドウ病と甲状腺性眼症が悪化することがあり、甲状腺への自己免疫攻撃に寄与している可能性もあります(28)。妊娠前にヘビースモーカーであった妊婦の間で、甲状腺への自己免疫攻撃の程度がひどいということがはっきりしています。

体重コントロールに対する甲状腺ホルモン剤の不適切な使用

甲状腺ホルモンは、肥満治療クリニックの患者にあらかじめ甲状腺の検査を行わずに処方されることが非常に多く、このような診療は心臓病がある患者や感情的に不安定になりやすい患者にとって危険なものとなる可能性があります。処方される薬の量も、しばしば正常な甲状腺が作り出す量を超えています。T3の投与を受けており、低カロリー食も摂っている太り過ぎの人は、ダイエットだけを行っている人よりはるかに体重の減少が大きいのです。したがって、甲状腺ホルモン治療が減らしたいだけ体重を減少させるのに効果的であるかもしれませんが、その結果これらの患者は甲状腺ホルモン過剰になり、甲状腺機能亢進症の症状が出るようになります。最初はやせて嬉しいかもしれませんが、不安や気分変動、怒り、集中力低下を生じ、そして時には虚弱になることさえあるのです。他の人では、アンフェタミン様の効果を生じ、軽躁病の状態を引き起こすこともあります。私は、バセドウ病患者にうかつにも甲状腺ホルモン治療を行なってしまい、重大な精神障害の原因となった永久的な甲状腺機能亢進症の状態を引き起こした例をこの目で見ています。

体重コントロールに甲状腺ホルモンを使うことのもう一つの欠点は、ダイエット中はT3が筋肉の破壊の程度を増加させるということです。これは、一時的な体重減少に対して高い値を払うことになります。長期的に見れば、T3のもたらす結果は失望に終わることが多いのです。ほとんどの人はまた元どおり太ってしまいます。

近年、天然の乾燥甲状腺剤が自然食品の店頭や通信販売でさえも手に入るようになりました。このことが一般の人の健康に害をもたらしており、甲状腺ホルモンの飲み過ぎの原因であると思われます。例えば、ダイエット用の錠剤であるEnzo-Caps(エンゾキャップス)を飲んだ人が甲状腺機能亢進症になったのです(29)。これはパパイヤやにんにく、およびケルプ(昆布の1種)の“天然食品”から作られたカプセルで、処方箋なしで買うことができます。Enzo-Capsの分析で、1カプセル中のT3とT4の含有量が60から120mgの乾燥甲状腺に匹敵することが明らかになりました。同様に、数年前に日本の様々な地域で、痩せ薬を飲んだ100名の日本人女性が、知らぬ間に甲状腺機能亢進症になっていたのです。これはBasetsuperというもので、甲状腺ホルモンを含有していました(30)。これらの女性の内、3分の1に精神的な問題が生じました。その内2人は精神病院に入院する必要があり、そこで医師からこの薬の依存症であるという診断が下されました。したがって、私は肥満治療クリニックで診療を受けるか、体重コントロールのための薬を飲むことにした際に、ぜひ飲んでいるものに十分な注意を払うようにしていただきたいのです。

覚えておくべき重要なポイント

  • 甲状腺疾患患者の気分の改善や体重コントロール、そして病気を予防する最良の食餌は、精糖や動物性脂肪が少なく、複合炭水化物と蛋白質を多く含む食餌です。
  • かならず適切な量の抗酸化剤やビタミン類を飲むようにしてください。甲状腺の損傷を減らし、体内での甲状腺ホルモンが効率的に作用するようになります。このような栄養剤は体と脳の健康を保つ効果があります。
  • ヨード摂取量の正しいバランスを取る必要があります。多すぎると、甲状腺に有害ですし、少なすぎると甲状腺の働きが悪くなります。

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