第15章:ホルモンバランスの乱れの治療

甲状腺ホルモンバランスの乱れがあると診断されると、長い間その症状に苦しんできた人はほっとするはずです。なぜなら、自分達の問題が治療ですぐに消えてなくなると思うからです。早く自分の生活を取り戻し、再び具合がよくなって普通に働きたくてたまらないのです。甲状腺の検査結果が2〜3週間のうちに完全に正常になるだろうし、また具合がよくなり始めると医師が請け合うことがよくあります。通常の場合、患者が治療を受け始めると、少しずつよくなっていくのは感じますが、何週間も、あるいは何ヶ月もまだ完全によくなったようには思えないことがあります。多くの患者は、職場でも家庭でも、まだ具合が悪いということを他の人にはなかなかわかってもらえないのに気がつきます。

事実、一部の症状は“甲状腺が安定”した後にやっと治るのだと思われます。よくあることですが、甲状腺の病気を治してから後、私が言うところの甲状腺ホルモンバランスの乱れによる脳の“ショック状態”が原因で感情的影響がいつまでも残ることがあります。この回復期間を短縮し、症状が長引くのを避けるために、医師と協力してできるだけ早く正常な甲状腺ホルモンレベルに達し、それを維持する必要があります。また、甲状腺ホルモンレベルが大きく変動するようなことも避ける必要があります。このようなことは、あなたを診ている医師が甲状腺の病気の治療にほとんど経験のない場合に起こる可能性があります。

この章では、正しいホルモンバランスに至る方法と、その維持法を教えることにします。また、甲状腺の病気の治療中によく起こるたくさんの問題についても述べることにします。それについては、型にはまった治療法や治療中の甲状腺ホルモンバランスの乱れの影響について限られた知識しかないために、非常な苦しみを受けたケースに重点をおいてお話ししますが、同時にそのような落とし穴に陥らないようにする方法と回復を早める方法についても示すことになります。

ちゃんとした医師を見付けるには

治療の初期には、多くの患者が自分の感情と闘っています。その一方で、医師に自分の苦しみをわかって欲しいのです。それでも、自分の苦しみを打ち明けないよう自分を抑えているかもしれません。多くの患者は自分の症状に圧倒されてしまい、医師の同情と理解を必要とします。初期医療担当医から不活発な甲状腺の治療を受けている場合、あなたの担当医が薬の量の調節について詳しい知識を持っているか確かめてください。問題が生じたら、ぜひ専門医に紹介してくれるように頼んでください。

甲状腺機能亢進症の感情面への影響のため、孤立し、無力に思えるかもしれません。医師の態度があなたの感じ方に大きな影響を与えます。あなたには医師に甲状腺ホルモンバランスの乱れの性質とその影響を説明してもらう権利があります。医師の中には、治療中の甲状腺ホルモンバランスの乱れの感情的、精神的影響に取り組む気がなく、その代わりに専ら血液検査の結果を正常にすることにだけ力を入れる人がおります。患者の中にも、甲状腺ホルモンバランスの乱れの影響についてきちんと説明を受けていない場合、自分が病気なのではなくて、“頭がおかしい”のではないかと思う人がいます。単に血液検査を分析し、甲状腺の薬の量を合わせる以上のことを医師に期待すべきです。内分泌病専門医は、病気の動向を説明し、その結果起こる可能性があることをはっきり言っておかねばなりません。

カサンドラの活動し過ぎの甲状腺を薬で治療している間、内分泌病専門医の主な関心は薬の量を合わせ、何とか正常な血液検査結果になるようにすることでした。その間、カサンドラは説明し難い感情的問題を経験していました。
彼女はその医師との出会いを述べてくれました。

ほんのちょっと話しただけですぐに検査をするという具合でした。時々、先生はわたしが仕事をしないと言って私を責めることがありました。先生は私がほんとうに具合が悪いのだということがわからないのだと思いました。私は自分の不安やうつ病を何もかも言ったのに、ほとんど取り合ってくれませんでした。何ヶ月も2週間毎に通ったのです。

私は自分の症状を抑えるに十分な方法がとられていないと思っていました。私はものすごくその内分泌病専門医に対して腹が立ちました。たぶん私は良い患者ではなく、文句ばかり言う患者だったかもしれません。でも、私は具合がよくなりたかったし、まるで大きなブラックホールの中から這い上がろうとしているのに、誰の手も届かないというような感じでした。無力で、落ち込んでいました。どこにも逃げ場のない感じでした。自尊心はずたずたでした。

ある日、看護婦が私が診察室にいると言うと、先生が「また?」と言うのが聞こえました。先生は診療所を出ると何の連絡もくれないことが多く、診療所のスタッフが私に電話をしたり、私の薬の量を合わせることを手紙で知らせてくるという具合になっていました。

私は先生が症状面でも、感情面でももっと私が苦しんでいることをわかってもらえるものと思っていました。

カサンドラは大変な精神力の持ち主でした。彼女は正常になりたかったのです。彼女は理解したかったし、医師と十分にコミュニケーションをとりたかったのです。彼女は自分の感情的にまいってしまうような苦しみを一生懸命説明しようとしました。でも、彼女を診ていた医師は気に留めていない風でした。カサンドラと違い、多くの人は自分の苦しみを話すことに居心地の悪さを感じます。ひどい不安やパニック発作のある人の多くは、馬鹿にされるのではないかと恐れて自分の症状を医師に話しません。それでも、もっとよく理解してもらい、最適な治療を受けるためにはきちんと症状を話すことが大切なのです。医師とのコミュニケーションが欠けているために生じる不必要な苦しみを避けるために、あなたの感情面にも取り組んでくれる甲状腺専門医を選ぶようにしてください。

核医学専門医がバセドウ病患者の治療に携わることがよくありますが、これは甲状腺の治療に使う放射性ヨードの量を計算し、投与する医師であるからです。残念ながら、多くの核医学専門医がバセドウ病患者のケアを引き継ぐだけの能力があると思っていますが、治療の反応を評価するための適切な知識はほとんど持ち合わせていないのです。また、治療中の甲状腺機能亢進症の臨床的、感情的側面に対しても、非常に限られた知識しか持っておりません。活動し過ぎの甲状腺のある患者の中には、自分から、あるいは友人の勧めで核医学専門医のケアを求める人がおります。このために甲状腺ホルモンバランスの乱れがうまくコントロールされず、苦しみを長引かせることになり、さらには余計な葛藤や有害な感情的影響が加わることもあるのです。多くの核医学専門医は、適切な量の天然のホルモンを作り出すだけの甲状腺を残しつつ、部分的に甲状腺を破壊するちょうどよい放射性ヨードの量を定めるだけの能力と経験があると思っておりますが、そのようなことは大抵非現実的なものであります。

不活発な甲状腺の治療

私が説明してきたように、傷害を受けた甲状腺による甲状腺機能低下症では、TSHレベルが高くなります。TSHが高ければ高いほど、甲状腺機能低下症もひどくなります。医師の治療目標は、TSHを正常レベルにまで下げるに必要な量の甲状腺ホルモンを与えることです。一般的に、TSHレベルが高いほど、正常な甲状腺ホルモンバランスに達し、それを維持するために必要な甲状腺ホルモンの量も多くなります(1)。したがって、診断時に得られたTSHレベルを見て、医師が正常に近い甲状腺ホルモンレベルにするために必要な用量の範囲を予測することができます。そのため、医師が最初の2〜3週間はTSHをモニターせずに用量が最初に見積もった量に達し、2〜3週間の間安定するまで徐々に増していくのは希なことではありません(2)

現在甲状腺機能低下症の治療にもっとも広く使われているタイプの甲状腺ホルモンである合成レボサイロキシンは、1950年代に出たものですが、1970年代始めに、研究者が動物から取った甲状腺抽出物では血液中の甲状腺ホルモンレベルが不安定で、一定しないということを発見してやっと広く使われるようになりました。乾燥甲状腺末には、製造者の調整法や甲状腺を取り出した動物のえさのヨード含有量によって様々な量のT4とT3が含まれています。また、同じ頃に、研究者が合成サイロキシン(T4)を飲むとその一部が体内器官でT3に転換し、そのためT4とT3のどちらも安定したレベルが得られることを発見しました。合成レボサイロキシンを用いて得られる甲状腺ホルモンレベルとTSHレベルの安定は、体内でのT4の寿命が非常に長いことにもよります。1日1回の割で飲めば、サイロキシンの錠剤により、体内器官で安定し、継続的なT3の産生ができるようになります。

製薬会社は25マイクログラム(または0.025ミリグラム)から300マイクログラム(または0.3ミリグラム)までの様々な力価のレボサイロキシン錠を作っています。いちばん多く使われている3種類のレボサイロキシンのブランド名(一般薬と区別するための名前です)は、シントロイドィ、レボキシルィ、およびレボトロイドィです。異なった力価のものが利用できることで、甲状腺ホルモン剤の用量を細かく調節しやすくなり、そのため薬を飲み続けている限り、血液検査の結果を正常な“検査値範囲”内に維持することができます。処方薬を受け取る際に、一般薬は処方量通りの正確な量の甲状腺ホルモンを含んでいないことがあるので(3)、一般薬を出されていないか確かめてください。

あなたのかかっている医師が正しい用量の調整を行わない場合、長いこと症状が続くことがあります。

セカンドオピニオンを求めて来たトレーシーは、私が最近診た患者ですが、最初に診断を受けてから正常な甲状腺ホルモンレベルになるまで1年半もかかっていました。彼女はこう言いました。「私がかかっていた先生は、私のTSHレベルを正常にするのに大変な苦労をしていらっしゃいました。私は4ヶ月毎に診察に行き、まだ具合がよくありませんと訴えていたんです。そして、血液検査は間違いなく私の言うことが正しいことを示しておりました。その先生の薬の量の合わせ方では、絶対に正常になることがなかったのです」

そのような問題を避けるために、私はほとんどの人で素晴らしい結果が得られる段階的に用量を増やしていく方法を開発したのです。最初のTSHレベルを見て、第1期の治療中に到達するすべき用量がわかるようになっています[表5]

重症の甲状腺機能低下症の人では、甲状腺ホルモンの初期用量を少なくし、必要な量まで徐々に増していくようにするべきです。高い用量の甲状腺ホルモンを急激かつ急速に投与すると、健康上の問題を生じることがあります。特に高齢者では注意しなければなりません。例えば、甲状腺機能低下症の間、心臓がゆっくり働き、低代謝の状態に適応していたものが、急激に甲状腺機能低下症を治すと、患者も医者も知らない心臓病がもともとあった人では、急速な心機能の亢進が起こり、心筋梗塞を誘発する恐れがあります。ほとんどの医師は1日25マイクログラムから始め、見積もった用量に達するまで、毎週25マイクログラムずつ増やしていく方法を取っています。甲状腺以外は健康である45歳以下の患者に対しては、用量をもう少し早く上げていく場合もあります。高齢者や心臓病、または不安症状のある患者では、用量を2週間毎に上げていくようにします。

治療初期に医師が高用量の甲状腺ホルモンを処方すると、警戒を要する重症の気分障害を引き起こすこともあります。そのような患者は高度の不安や感情的問題の病歴がある場合が多いのです。これらの症状は高用量の甲状腺ホルモンを飲み始めて、4日から7日後に起こってくることがあります。精神的影響が出たら、直ちに医師に甲状腺ホルモンの量を減らしてもらう必要があります。医師は躁病または過剰な甲状腺ホルモンに対するその他の反応のために、患者を入院させなければならないことがありました。患者が極度の興奮状態になったり、思考が著しく早くなったりして、不適切な行動を呈することがあります。中には幻覚や妄想さえ出る患者もいます(4)

高用量の甲状腺ホルモンは、現在ある不安障害を悪化させることが多く、これがあなた自身と医師を狼狽させる原因となる場合があります。ミラは49歳ですが、彼女の生活の中で相当なストレスを受けていました。そして、数年間にわたって汎発性の不安障害に苦しんでいました。彼女は間欠的にバリウム〈注釈:胃の透視をするときに飲むバリウムではありません。安定剤です〉やその他の薬を処方してもらっていました。その薬は不安のコントロールに効果があり、彼女はその間に自分の症状を管理する方法を学んでおりました。彼女が甲状腺機能低下症であると診断された時に、彼女の担当医は最初低い用量から始めて、徐々に量を増やしていく代りに、いきなり高用量の甲状腺ホルモンを最初から出したのです。薬を飲んで2〜3日すると、ミラには重症のパニック発作が出るようになり、不安症状も増しました。彼女は夜中に脈が速くなり、暑く、汗ばむような感じや“まるで誰かが首を押さえつけているみたい”な息が詰まる感覚が起きて、目を覚ますようになりました。
彼女は甲状腺ホルモンの錠剤を2週間ばかり飲みましたが、症状は悪化するばかりでした。彼女は1日に10回から15回もパニック発作を起すまでになりました。ついに、彼女は甲状腺ホルモン剤が原因かもしれないと思い、自分で飲むのを止めたのです。すると、不安やパニック発作の症状が消えてしまいました。後では、もっと少ない量でもパニック発作が引き起こされるようになりました。それはひどい悪循環になり、そのためにミラが症状の悪化と甲状腺ホルモン治療を結び付けて考えたのです。私が彼女にその症状の性質と原因をよく説明した後で、彼女はやっと段階的用量増加法を試してみることに同意しました。用量は最終的に増やされ、彼女の甲状腺ホルモンレベルは正常になりました。そして、ひどくなっていた不安症状もよくなったのです。事実、今ではミラが医師から甲状腺の病気の診断を受ける前より、不安に苦しむことが少なくなりました。ミラの不安障害はおそらく不活発な甲状腺によって引き起こされたものと思われますが、あまりにも多くの甲状腺ホルモンが突然体内に入った時、彼女の不安が悪化したのです。

あなたの甲状腺ホルモンレベルを正常値近くに持ってくると思われる予測量に達して、約6週間後に、普通は医師がTSH検査を行いますが、それによって用量を調節することができます。必要な調節量は新たに行ったTSH検査の結果に基づいて定められます。この調節がどの程度早く行われるかは、年齢や心臓病に罹っているかどうかに左右されます。

甲状腺ホルモンの用量は、TSHレベルが正常になるまで1〜2度、調整する必要があるでしょう。最初は、TSH検査の間隔を6週間より短くし、頻繁に受けることはしないでください。治療成功の基準は、最終的にTSHを正常範囲にし、それを維持することです。

甲状腺機能低下症の治療維持期に起こる問題

甲状腺の検査結果が安定すれば、医師が処方する甲状腺ホルモン剤の量が多すぎたり、少なすぎたりしないか確かめてください。ある研究で、甲状腺機能低下症患者の14%は飲んでいる甲状腺ホルモン剤が多すぎ、また18%が少なすぎるという結果が出ています(5)

多すぎる甲状腺ホルモン剤を飲んでいる人のTSHの値は低くなり、心臓病を起してくる恐れがあります(6)。閉経後の女性では、骨喪失が促進され、骨粗鬆症に罹りやすくなります(7)。ごくわずかな甲状腺ホルモンの過剰でも、いらいらしやすくなり、神経過敏状態や不安、あるいは軽躁病行動にひどく苦しむことになりかねません(8)

かかりつけの内科医から甲状腺機能低下症の診断を受けた34歳の販売部長であるキャサリンのケースを考えてみましょう。彼女が貰った甲状腺ホルモンの用量は彼女が必要とする量を超えておりました。彼女は震えや不眠症、および心悸亢進が出始めました。彼女は自分の目が見開いたままになっているように見えることにも気付きました。彼女は軽躁病の症状をこう言い表しています。「私はちょっとの間もじっとしていることができませんでした。エネルギーが有り余って、家をきれいにしなければとか、長時間働かねばという強迫観念に取り付かれるようになりました。夜中に掃除をしようとして起きることもありました」

キャサリンは何かに取り付かれ、自分の体のコントロールがきかなくなったように感じました。心の奥深くで、いつもの自分とは違う人間になったことに気付いていました。彼女ははっきりした理由もなく怒りに駆られ、遠くまで自転車に乗って、怒りが静まるまでできる限り早くこいでいきたくてたまらないと感じるようになりました。

このような変化があまり急に起こったので、キャサリンは一体何が起きているのか理解できませんでした。彼女は頭がおかしくなりつつあるのではないかと思いました。心臓が早鐘を打つようにドキドキするため、寝ている間に心臓発作が起きるのではないかと思い、寝るのを恐れるようになりました。「本当に元どおりの自分─私がよく知っていて、愛している自分自身に戻りたくてたまりませんでした。この見知らぬ人間が恐ろしかったのです。再び健康を取り戻したいと思いました」彼女が飲んでいる甲状腺ホルモンの量を適切なレベルまで減らした後、やっとキャサリンは本当に再び健康だと思えるようになったのです。

改善していないように感じたり、もっと量を増やした方が具合がよくなるだろうと思って自分で勝手に量を増やしたり、医師に量を増やすように頼み込んだりしてはいけません。薬の量を増やすことで新たな問題が起きる可能性があります。患者の中には、医師に電話をかけ、検査/フォローアップなしに処方を変えてもらおうとする人もおります。このようなことをすると、甲状腺ホルモンの量の不足、または過剰が積み重なっていくことになり、大変な苦しみを生じることにもなりかねません。

ソフィアは3年間、1日150マイクログラムのレボサイロキシンを貰っていました。ある日、彼女は医師に電話をかけ、心悸亢進があることを話しました。本当は家族の健康問題のことで、不安があったせいで起きたものだったのですが、ソフィアのかかっていた医師は、薬の量を150マイクログラムから75マイクログラムに減らし、3ヶ月後に甲状腺の検査を受けに来るように言ったのです。個人的な問題のため、ソフィアは丸1年経つまで、フォローアップに行く時間が取れませんでした。その間、彼女には様々な症状がありましたが、ストレスのせいだと思っていました。

やっとソフィアがフォローアップを受けに医師の元へ行った時、正常な甲状腺ホルモンレベルを維持するに必要な量の半分しか飲んでいなかったため、検査で甲状腺機能低下症になっていることがわかりました。薬の量を合わせ直してから、彼女の症状は次第に消えていきました。実際、彼女は家族の問題にもっとうまく対処できるようになったのです。

甲状腺ホルモンを飲んでいる一部の患者にいまだに起こっている残念な問題がもう一つあります。これは一般医が患者に薬を止めるように指示して起きるものです。クリスタルは甲状腺機能低下症でしたが、彼女がかかっていた一般医から薬を止めるように言われました。その医師はクリスタルが甲状腺ホルモンを飲んでいる間、甲状腺の検査結果が正常であることを見てそう言ったのです。この医師が見過ごしたとと思われることは、治療のために検査結果が正常になっていたということです。薬を止めてから3〜4ヶ月後に、クリスタルはひどいうつ病に罹り、様々な甲状腺機能低下症の症状が出るようになりました。
彼女はその医師の元へ行き、自分の症状のことを話しましたが、医師はストレスのための症状であると言ったのです。私がクリスタルを検査して、甲状腺機能低下症であることがわかったので、甲状腺ホルモン治療を再開しました。そして、それ以来彼女はずっと具合いよくしています。

甲状腺ホルモン剤を飲んでいる時に、あなたがかかっている医師がTSHをモニターしていなければ、あなたが飲んでいる薬の量の過不足がきわめて大きくなっている可能性があります。残念なことに、多くの医師がT3とT4の検査を続けて行い、TSHの代わりにこれらの検査結果を元にして治療の方法を決めようとしていることが多いのです。T4とT3の結果は、患者の血液中の担体蛋白質に異常がある場合(《第14章》参照)に間違って解釈されやすいのです。さらに、数種類の薬も甲状腺ホルモンレベルを変化させることがあります。例えば、ダイランチンやアスピリンで、甲状腺機能は正常であっても、総T4の値が下がることがあります。

良好なホルモンバランスを得るためには、甲状腺ホルモン治療を受けている間、TSHを1リットルあたり0.2から2.0ミリ国際単位に維持する必要があります。2.0から4.5の間にTSHがある場合、幾分甲状腺ホルモンが不足している恐れがあります(《第14章》参照)。正常な甲状腺の状態に戻すには、ほんのわずか薬の量を増やすだけでよく、そうすることで著しく具合がよくなる場合があります。TSHが少なくとも3ヶ月から4ヶ月正常であっても、まだうつ病、あるいは疲労や皮膚の乾燥、および痛みなどの甲状腺機能低下症の症状が続いているのであれば、治療プログラムでT4とT3を組み合わせるようにすると改善が見られる場合があります(《第17章》参照)。血液検査の結果は正常であっても、体内ではまだT3が幾分足りないのかもしれません。

甲状腺ホルモン剤の効果を最適にするには

多くの食べ物や栄養剤、および薬が甲状腺ホルモンの吸収を妨げることがあります。例えば、甲状腺ホルモン剤と同時に鉄剤(硫化鉄)を飲んでいる場合、それが甲状腺ホルモンの一部と結合して吸収を妨げます。線維や炭酸カルシウムも、甲状腺ホルモンと一緒に飲んだ場合、ホルモンの吸収を妨げる場合があります。

甲状腺ホルモンと一緒に飲むと、やはり消化管でのホルモンの吸収を妨げて、その利用率を減少させる薬がいくつかあります。例えば、アルミニウムを含む制酸剤(マーロックス)やコレステロールを下げるのに使われる薬(コレスチラミン、クエストラン、コレスチド)およびスクラルファート(アルミニウムを含む潰瘍治療剤〈注釈:日本ではアルサルミンとい商品名で発売されています〉)などは消化管での吸収を減少させます。

このような抑制効果を避けるために、これらの薬の服用前後少なくとも4時間あけて甲状腺ホルモン剤を飲むようにしてください。甲状腺ホルモン錠を毎日同じ時間に飲むこと、できれば朝食前の空腹時にコップ2〜3杯の水と一緒に飲むようお勧めします。栄養剤や薬は昼食や夕食時に飲んでください。

体内から甲状腺ホルモンを排泄する速度を速める薬がいくつかあります。安定量の甲状腺ホルモン剤を飲んでおり、最近ダイランチン(フェニトイン)やテグレトール(カルマバゼピン)、あるいはフェノバルビタールを処方された場合、用量の変更が必要なことがあります。これらの薬を新しく処方されたことを甲状腺機能低下症を治療して貰っている医師に忘れずに言うようにしてください。そうすればその医師が甲状腺の再検査を行うことができるからです。

一般的に言って、甲状腺ホルモンバランスの乱れのある女性に対する経口避妊薬の使用は、適切な甲状腺治療剤を飲んでいる場合でも、きわめて安全です。非常に希ですが、エストロゲンを含む経口避妊薬によって、甲状腺ホルモン剤をわずかに増やさねばならなくなる場合があります。これはおそらくエストロゲンによって血液中の甲状腺ホルモン結合タンパクが増加するためではないかと思われます。安定量の甲状腺ホルモン剤を飲んでおり、経口避妊薬を飲み始めたか、あるいはホルモン補充療法を受け始めた場合、エストロゲンを飲み始めてから3ヶ月後に医師にTSH検査を行なってもらうようにしてください。その頃までに、血液中のレベルは安定しているはずで、そのためTSH検査結果も用量調節の目的に対し、信頼できるものとなります。乳がんの治療に使われる抗エストロゲンであるタモキシフェンを1年以上飲んでいる場合、必要な甲状腺ホルモンの量が多くなることがあります(9)

どのくらいの頻度で再検査を行うべきか?

一部の医師は、ある特定の量の甲状腺ホルモン剤で患者の甲状腺機能が正常に戻ったら、甲状腺の検査を年1回行うよう勧めています。しかし、不安定な甲状腺の病気がある場合もあります。慢性甲状腺炎の患者に、ある時期には他の時期より活動性が高くなるようなバセドウ病が併発していることもあります。慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症に罹っており、安定量の甲状腺ホルモン剤を飲んでいる場合、バセドウ病の突然の発症と甲状腺を刺激する抗体の産生によって、必要な甲状腺ホルモン剤の量が減ることもあります(10)。希ですが、それで急激な甲状腺機能亢進症の発病が起こり、甲状腺ホルモン治療の中止が必要になることもあります(11)。私が診ている甲状腺機能低下症患者のうち数人で、頻繁に甲状腺の活動の変動が見られます。慢性甲状腺炎に冒された甲状腺に残っている活動性は、変化するものであり、時間の経過と共に変動するということを知っておく必要があります(12)。この結果、不活発な甲状腺のある患者では、頻繁に甲状腺ホルモン剤の量の調節が必要になる場合があります。活動し過ぎから不活発な状態に変わるような非常に不安定な甲状腺の活動性を有するごく少数の患者では、正常な甲状腺ホルモンレベルを維持するために手術で甲状腺を取ってしまうことを勧めざるを得ません。

1年に1回の検査では、甲状腺の活動性の重大な変化を見過ごしてしまう可能性があります。一部の患者は甲状腺ホルモンの過剰あるいは不足の影響を受けているのに、そのことを知らないでおります。安定量の甲状腺ホルモン剤の投与を受けている患者に、甲状腺ホルモンレベルの変化が起こるのは普通であるため、6ヶ月毎に定期的な甲状腺の検査を行い、その検査結果を症状の注意深い評価と合わせて、詳しく調べてもらうことをお勧めします(13)。バセドウ病の治療によって甲状腺機能低下症になった場合は、少なくとも最初の間はもっと頻繁に検査を受ける必要があると思われます(3ヶ月毎または4ヶ月毎)。

3年前に、管理医療保健プログラムを担当している医師がワンダを甲状腺機能低下症と診断しました。甲状腺ホルモン剤を飲んで彼女の症状は治まりました。彼女は再検査を受け、同じ量の薬を続けて飲むように言われました。2〜3ヶ月後、彼女は家庭で大変なストレスを受けるようになりました。彼女はいろいろな症状を訴えましたが、彼女を診ている初期医療担当医は甲状腺機能低下症が原因かもしれないとは思いもしなかったのです。彼女は自分の甲状腺の病気が薬を飲んでいる限りちゃんと治療されているのだという説明を受けていました。

ワンダはこう言いました。「私はくたくたに疲れ果てていました。家に入るとすぐに横になり、6時半にはもう寝ていました。ものすごく落ち込んでいました。私が初期医療担当医にめまいがすると言ったら、車酔いの薬を出してくれました。でも1回飲んだだけでとても気分が悪くなったので止めました」

ワンダがやっと再検査を受けたのは2年後ですが、その時にはかなりひどい甲状腺機能低下症になっていました。甲状腺ホルモン剤の量を調節して、彼女の疲労やその他の症状はよくなりました。そのような経験をした後、ワンダは健康保険の内容と医師を変えることにしました。

多くの患者が、不活発な甲状腺とは甲状腺が働かなくなったということを意味し、生涯同じ錠剤を飲むだけでよいと信じています。したがって、診察や検査など必要ないと思い、薬の再処方を電話で済ませようとするのです。これは不幸な結果を招くことがあります。

活動し過ぎの甲状腺の治療とその副作用

バセドウ病による活動し過ぎの甲状腺であると診断された場合、使える治療を理解することで医師と一緒にいちばん良い選択肢を選ぶことができます。

治療の選択肢

現在バセドウ病の治療には、主に次の3つの方法が使われています。抗甲状腺剤の投与、放射性ヨードで甲状腺のかなりの部分を破壊する方法、および手術で甲状腺のかなりの部分を取り除いてしまう方法です。これは、この病気の原因よりもむしろ結果に対処する方法です。

抗甲状腺剤

医師が正常な甲状腺ホルモンレベルの維持のため、そしてできれば寛解してくれることを願ってメチマゾールやPTUのような抗甲状腺剤を6ヶ月から2年間(平均1年間)処方することがあります(数ヶ月治療した後で寛解したならば、正常な甲状腺ホルモンとTSHレベルの維持のためそれ以上薬を飲む必要がありません)。抗甲状腺剤は甲状腺に取り込まれ、そこで甲状腺ホルモンの産生を妨げます。この薬には免疫系への作用もあり、甲状腺への自己免疫攻撃を弱めます。一般的に、この類の薬のどれか一つを少なくとも6ヶ月から1年飲むと、30%から50%の患者は寛解します(14)。出産可能年齢にある女性で、軽度の甲状腺機能亢進症と小さな甲状腺腫のある人は、このタイプの治療によく反応します。

メチマゾール〈注釈:メルカゾール〉は体内に長く留まるので、1日に30ミリグラム以下しか必要としない場合は、1日1回飲むだけですみます。一方、PTUは1日3〜4回飲む必要があります。どちらの薬であれ、経験を積んだ医師であれば、大抵は治療を続けている間甲状腺の機能を正常範囲に維持できるものです。

いくつかちょっとした副作用が治療中に起こることがあります。多くは自然にあるいは患者が他の薬に切り替えると治ります。一部の例で、そのような症状がいつまでも続き、薬を止めなければならない場合があります。副作用には次のようなものがあります。

  • かゆみ
  • 皮膚の発疹
  • 蕁麻疹
  • 関節痛
  • 発熱
  • 胃腸障害
  • 金属の味

抗甲状腺剤の副作用の一つで、しばしば患者を悩ますものは、無顆粒球症です。これは骨髄の反応で、突然白血球を作るのが止まってしまいます。この恐ろしい合併症は、治療の最初の3ヶ月に起こることが多いのですが、非常に希なので、要らぬ心配はしないようにしてください。ある研究で、毎年この薬で治療を受けた人10,000人あたり3人にしかこの合併症が起きていないということが示されています(16)〈注釈:この論文だけ、頻度が異常に低いです。他のすべての研究では、無顆粒球症は1,000人で3〜4人です。こちらの方が正しいです。引用文献が不適切です>〉。医師は普通、白血球数をモニターしませんが、治療中は甲状腺の検査を受ける度に白血球数を調べてもらうようにした方が安全でしょう。喉の痛みや口内炎、あるいは感染が起きた場合は、そのことを医師に知らせ、白血球数を調べてもらうようにしなければなりません。白血球数が下がっていると敗血症になることがあります。大抵の場合、医師は病室に隔離し、抗生物質や白血球数を適切なレベルに上げる薬で治療するように勧めます〈注釈:白血球数だけでは不十分です。白血球の一種の顆粒球数も同時に測るべきです。白血球数が正常の無顆粒球症があります〉

肝障害も、抗甲状腺剤のもう一つの希な合併症です。これは重篤なことが多く、やはり治療の最初の3ヶ月間に起こりやすいのです。この理由から、医師は定期的に肝臓の検査を行うのが普通です。肝臓の検査で異常が見られたら、直ちに薬を止めなければなりません。

希ではありますが、それ以外の抗甲状腺剤の深刻な副作用には次のようなものがあります。

  • 骨髄での赤血球、白血球、血小板産生の抑制(再生不良性貧血)
  • 血小板減少症
  • 狼瘡(SLE)と同じような症状を起す血管の炎症(脈管炎)

薬に対する耐性が高ければ、望んでいる寛解のチャンスを得るために、少なくとも8から12ヶ月間、薬を飲み続ける必要があります。治療中は、2ヶ月毎に再検査を受け(TSHだけでなく、遊離サイロキシン指数とT3もチェックする)、用量を合わせる必要があります。通常は、投薬の必要性が減り、病気の活動性が落ちてくるにつれ、用量を少しずつ減らしていきます。治療の終わり頃に、ほとんどの医師が薬がなくても正常なままであるかを見るため、突然薬を中止します。メチマゾールに関しては、私は大体、薬を中止する前に最初1日あたり5ミリグラムの量になるまで1日5ミリグラムずつ薬の量を減らしていき、次に1日おきに5ミリグラムの量に落とし、それから5ミリグラムを週2回飲むようにします(水曜日と日曜日)。少なくとも2ヶ月間、5ミリグラムを週2回飲んでいる間にTSHが正常に維持されている場合のみ、薬を中止すべきです。もしTSHが正常でなければ、また甲状腺機能亢進症が起こることがあり、悪循環が再発する可能性があります。甲状腺ホルモンレベルは正常であっても、TSHレベルが低い場合、甲状腺がまだ薬を必要としていることを意味します。このような場合、再び正常なレベルにするためには、薬の量を増やす必要があります。この時点で、別の治療法に進んでもよいし、あるいは薬を止める前にもう6ヶ月薬を続けてもよいのです。

放射性ヨードで甲状腺の相当の部分を破壊する方法

もう一つの治療法は、放射性ヨードで甲状腺の相当の部分を破壊するものです。この方法は簡単です。少量の放射性ヨードの飲み薬を与えられます。その量は一定(10〜20ミリキュリー)であるか、甲状腺のサイズと放射性ヨード取り込み試験(《第14章》参照)を行ってわかった甲状腺の活動性のレベルを元にして決められるかのどちらかです。この方法は、中毒性結節や多結節性中毒性甲状腺腫に好んで使われるタイプの治療です。医師は、この方法が嚥下困難を含む首の圧迫症状を起している非中毒性甲状腺腫の治療にも有効であることを見出しました(17)。バセドウ病患者に対しては、薬では寛解する可能性がないか、薬の副作用が出た場合にこの方法を選ぶようにすべきです。医師は男性や55歳以上の人にこの方法を多く勧めます。

最初から放射性ヨードが選択された場合でも、一部の医師は放射性ヨード治療の前に2ヶ月間抗甲状腺剤を処方し、まず甲状腺ホルモンレベルを正常に下げるようにします。私はいちばん最後の方法を選ぶことが多いのですが、こうすると患者は感情的にも身体的にも改善し、病気や治療の選択肢についてもっといろいろ学ぶ時間がとれるからです。最初に薬を使えば、甲状腺が薬に反応しやすい状態であるかどうかを確かめることもできます。

大抵の場合、これで甲状腺機能亢進症から重症の甲状腺機能低下症への急速な移行が予防されます。放射性ヨード治療の2日から5日前に抗甲状腺剤を止め、治療の3日から5日後にもっと少ない量からまた始めるように言われます。飲んでいた薬がPTUであった場合、放射性ヨード治療の3週間から4週間前にタパゾールィに切り替えてあるか確かめてください。最近の研究で、PTU治療が甲状腺の放射性ヨード治療への抵抗性を増すという結論が出たからです(18)

放射性ヨード治療の目的は、残った組織が甲状腺ホルモンを過剰に作らないよう十分な量の甲状腺組織を破壊することです。組織の破壊は治療後何日かの内に始まり、数年にわたって続く場合もあります。多くの患者は放射性ヨードが速やかに甲状腺全部を破壊すると思い込んでおりますが、実際は一部しか破壊されません。事実、破壊される甲状腺の量は人により様々に異なりますが、これは甲状腺の放射性ヨードの破壊効果に対する感受性のレベルが異なるからです。

アメリカでは多くの医師がこの方法を好んでおりますが、それは安全で効果が高いからです。ヨーロッパの多くの国と日本では、医師が薬をまず試す方を好みます。放射性ヨード治療は1回では十分でないことがあります。放射性ヨードで治療を受けた患者のほぼ30%近くが1回以上の再治療を必要とします。そして、この方法で治療を受けた人の大多数が時間が経つと甲状腺機能低下症になります。治療後数年で、放射性ヨードで治療を受けた人の70%が永久的な甲状腺機能低下症になります。ごく希に放射性ヨードで治療を受けた後何年も経ってから再び甲状腺機能亢進症になる人がいます(19)

この方法は妊娠中に使ってはなりません。女性で、妊娠可能年齢である場合、医師はこの治療を行う前に妊娠検査を行うのが普通です。この治療法は、中等度から重度の眼症がある人では、目の状態が落ち着くまで避けるようにしなければなりません。この治療で患者の15%に眼症が起きたり、悪化することがあるからです。この理由から、一部の医師は放射性ヨード治療を行った後、数週間プレドニゾン(目の筋肉の炎症を抑える副腎皮質ホルモン剤)を処方しますが、これにより眼症の発生率が減少する可能性があります。最近イギリスとウェールズで行われた研究で、放射性ヨードによる治療を受けたバセドウ病患者の死亡率がそれ以外の集団より高いということが示されました(20)。しかし、その死亡率増加は治療と関連したものではなく、むしろ甲状腺機能亢進症が骨粗鬆症や心臓病などの他の病気の副作用をどの程度ひどくしたかということに関連しているようです。

多くの人は、放射性ヨード治療の選択肢について話を聞いた時、長期的に健康への悪影響が起きるのではないかと心配します。この治療が甲状腺がんや白血病を引き起こすという科学的証拠は今までのところありません。しかし、胃がんや咽頭喉頭部がん、あるいは食道がんのリスクが増すということについては論議があります。例えば、最近行われたある研究では、治療後に胃がんの発生率が、特に若い人で増加する可能性があるという結論が出されています(21)。このような懸念については、まだ十分な意見の一致が得られていないため、子どもや思春期の患者に対してはまず薬で治療し、放射性ヨード治療は最後の手段とみなすのが安全であると思われます。

以前放射性ヨードで治療を受けた女性から生まれた子どもに、遺伝的欠陥が起きるリスクが著しく増えるということはありません。それでも、放射性ヨードで治療を受けた場合は、治療後6ヶ月以内の妊娠を避けるようにしてください。妊娠可能年齢にある間に放射性ヨード治療を受けたことで、将来の世代に何らかの遺伝的影響、あるいは発がん性に対する影響があるのかどうかについては不明です。

甲状腺の相当な部分を手術で取り除く方法

甲状腺の相当な部分を手術で取り除く方法(甲状腺亜全摘術)は特別な状況でないかぎり、アメリカではあまり使われておりません。例えば、放射性ヨードを使わない方法を選んだ患者や、薬に対する反応が出た患者、あるいは非常に大きく甲状腺が肥大しており、眼症が懸念される患者に対しては、甲状腺の一部を手術で取る方法が選択肢となり得るものです。甲状腺性眼症に罹っている人の一部で、甲状腺を完全に取り除くと症状の一部がよくなる場合があります。手術のもう一つの利点は、症状をすぐにコントロールできるということです。しかし、手術のために生じることのある甲状腺クリーゼのような合併症を避けるため、患者は手術の前に薬で治療を受けなければなりませんん(22)

私は、薬に反応しない、あるいは薬に対する耐性がない子どもや思春期の青少年に手術を勧めることが多いのです。大抵の場合、手術で病気が治り、甲状腺ホルモンレベルの変動とその気分や行動に対する悪影響を防ぐことになります。薬で治療を受けている妊婦で、重大な副作用が出た人は、妊娠中に手術で治療ができます。

手術を受けることに決めた場合は、甲状腺の手術を続けてきて、経験を積んでいることがはっきりしている医師を選んでください。これはとても大事なことです。なぜなら、甲状腺を手術で取ると声が出なくなったり、副甲状腺(カルシウム代謝をコントロールする甲状腺の真後ろにある4個の小さな内分泌腺)を傷つけて低カルシウムの問題が生じることがあるからです。いちばんよい結果を得るために、過去2年から3年の間に少なくとも年10例から15例の甲状腺の手術を行った外科医を選んでください。医師の実績を尋ねるようにしてください。バセドウ病患者に対して取られる方法は甲状腺亜全摘術ですが、中には眼症のある人に対して目の病気に効果があるよう甲状腺全摘術を勧める医師もおります。しかし、甲状腺全摘術では低カルシウム症や神経の損傷のような合併症を起す可能性が高くなります。またこの事も覚えておく必要がありますが、甲状腺亜全摘術を受けた人のほぼ30%で、将来再び甲状腺の活動し過ぎが起こってきます。もしそのようなことが起きたら、放射性ヨード治療が最良の方法となります。すぐに妊娠を予定している場合は、手術がいちばんよい方法となります。

甲状腺ホルモン不応症の人(甲状腺ホルモンレベルが高く、TSHは正常もしくは高い)の多くは、バセドウ病による活動し過ぎの甲状腺であると誤診され、不必要な甲状腺亜全摘術を受けていると思われます(23)。しかし、そのような手術は有害であり、患者の健康を将来的に損なう可能性があります。

正しい決断を下す

バセドウ病による活動し過ぎの甲状腺であると診断されたばかりであれば、医師と3つの治療の選択肢について話し合い、どの方法を選ぶかについてのアドバイスを受けねばなりません。患者の中には自分がこの決断を下す過程に積極的に参加し、責任を分かち合う方がよいという人もおります。ひどい眼症がある場合、放射性ヨード治療に飛びついてはいけません。眼症が悪化する恐れがあるからです。また、バセドウ病に罹っているのであれば、医師が甲状腺にしこりを捜したかどうかを確かめてください。まだ論議はあるものの、研究では、バセドウ病患者には甲状腺がんのリスクがわずかに高い可能性があるということが示されています。しこりがある場合は、放射性ヨード治療を受ける前に穿刺吸引生検(《第20章》参照)を行わねばなりません。この治療が後で行う生検の結果に影響するからです。がんが存在する場合、活動し過ぎの甲状腺としこりに対する治療は手術となります。

一部の内分泌病専門医は、バセドウ病による活動し過ぎの甲状腺のある患者すべてに、同じ治療法を勧めています。これが2〜3人の内分泌病専門医に診てもらった患者が治療に関して異なった意見を聞かされる原因です。実際に選択する方法は、年齢や妊娠可能年齢の女性であるかどうか、甲状腺の活動し過ぎの状態がひどいものであるかどうか、また診断を受けるまでにどれくらいの期間、甲状腺機能亢進症になっていたかどうかなど、いくつかのファクターによって異なります。私が説明したとおり、甲状腺のサイズやひどい眼症があるかどうかも、決断を下すにあたって考慮しなければならないファクターです。

クレアは他のバセドウ病患者と同じように、病気に対する知識が全くなく、初めて内分泌病専門医の診察を受けた時に混乱してしまいました。
彼女が言うには

私はこの医師の診察を受けに行きました。でも最初の診察は満足なものではありませんでした。先生は検査結果の報告が載っている小さな紙切れを持って部屋に入り、こう言ったのです。「そうですね。バセドウ病ですね。この錠剤をまず飲んでもらう必要がありますね。毎日飲むようにしてください」それからこう続けたんです。「でも、それはあまり効かないでしょうね。じゃあ、それはもういいことにして、先に進んで、放射性ヨード治療をすることにしましょう。治療を進めるのやスケジュールを立てるのは私に任せてください。2週間以内にちゃんとできますから」私はその態度が気にくわなかったんです。まだ何が何だかわからないままでした。主人のかかりつけの医師のところに戻り、他の人を紹介してくれるよう頼みました。

クレアには軽度の甲状腺機能亢進症と小さな甲状腺腫がありました。彼女は別の内分泌病専門医により、タパゾールで1年間治療を受け、寛解しました。薬を止めてもう2年経ちますが、彼女の甲状腺は正常な状態を保っています。もし、彼女が放射性ヨード治療の方に進んでいたら、たちまち甲状腺機能低下症になったかもしれません。誤った形の治療を受けるのを避けるには、内分泌病専門医に他の治療よりある一つの治療を勧める何か特別な理由があるのかを尋ねてください。

アドリアーナは33歳の会計士ですが、正しい形の治療を受けていなかったために、1年以上も不必要な苦しみを味わいました。彼女が内分泌病専門医の診察を受けた時にはすでに大きな甲状腺腫があり、ひどい甲状腺機能亢進症になってから2年ほど経っていました。彼女は最初に医師と出会った時のことをこう話してくれました。「どのような治療が使えるかを話し合いました。私が理解したことは、まず甲状腺機能亢進症をコントロールするために薬を飲むことから始めなくてはならないということでした。そして、2〜3年以内に薬が効いてこないようだったら、甲状腺を破壊するために放射性ヨードを使い、それでもだめだったら手術をすることができるということでした」彼女はその内分泌病専門医の診療室をPTUの処方箋を持って出ました。

アドリアーナは1年半抗甲状腺剤を飲みましたが、寛解には至りませんでした。アドリアーナのように最初から大きな甲状腺腫があり、ひどい甲状腺機能亢進症になっている多くの患者は、薬では永久的な寛解は得られず、最初から放射性ヨードのようなもっと根治的な治療を考慮すべきです。アドリアーナは5錠から6錠のPTUを1日3〜4回飲んでいましたが、甲状腺ホルモンレベルが正常になることはめったにありませんでした。その一方で、もうちょっと早く放射性ヨード治療を受けることもできただろうと思います。

彼女はこう言っています。「薬の量はいつも増えたり、減ったりしていました。あまり度々量が変わるので、まるでローラーコースターに乗っているみたいでした。私は先生がちっとも私の言うことやどれ程具合が悪いかをわかってくれないと思っていました。ちょっとはよくなりましたが、症状の多くはそのまま続いていました。まるで山火事を消火器で消そうとしているようなものでした」

病気の治療に薬が選択された場合、毎日処方された通りにきちんと飲む必要があります。そうしないと、病気が長引き、将来いつまでも悪影響が残る可能性が高くなります。特に広場恐怖症は一種の不安障害で、これに罹った人は大抵のものを怖がるようになり、家から外に出たり、見知らぬ人に会うのを嫌がるようになりますが、これは甲状腺機能亢進症が引き金になって起こることがあります。広場恐怖症になったり、不安障害の他の症状が出ている場合は、放射性ヨード治療を受けた方がよいと思われます。

活動し過ぎの甲状腺に悩んでいる人の多くは、最初からプロプラノロール(インデラール)のようなベータ遮断剤を処方してもらう方が治りが早いのです。私は大抵、40から60ミリグラムのプロプラノロールを1日4回、最初の3週間出して、それから抗甲状腺剤治療で甲状腺ホルモンレベルを下げながら、次の1〜2週間で、量を半分に減らすように言います。もっと経過の長い抗甲状腺剤の治療を受ける場合、アルプラゾパム(ザナックス)のようなトランキライザーも飲むと効果が高くなることがあります。第2章で、甲状腺ホルモンバランスの乱れにより生じたストレスが、如何にいつまでも続くものであるかということとそのストレスが如何にバセドウ病の活動性に影響を与えるかということを説明しました。精神─体のリラクゼーションテクニックを用いてストレスや不安を減らすことは、間違いなく効果があります。しかし、不安症状を緩和するために数週間薬を使う必要もあるかもしれません。こうすることで寛解に至る確率が高くなります。

イタリアからの報告の中で、ベンゾジアゼピン系精神安定剤のブロマゼパム(レキソタン〈注釈:日本でも同じ名前で発売されている〉)を7ヶ月以上飲んだ女性は、最初の2ヶ月だけトランキライザーを飲んだ女性よりはるかに寛解率が高かったとなっています(25)。この差は驚くべきもので、7ヶ月以上トランキライザーを飲んだ患者のうち再発したのは25%だけですが、2ヶ月しかブロマゼパムを飲んでいない患者では75%に再発が見られたのです。この報告を書いた人は、最初の1ヶ月は3ミリグラムを1日2回、その後は1.5ミリグラムを1日2回飲むように勧めています。

どの方法を選んだにせよ、がっかりすることもあるということを知っておく必要があります。例えば、1年以上薬を飲んで、反応しないことがわかり、別の方法を試さねばならないという場合もありますし、放射性ヨードで治療を受け、6ヶ月か1年経ってまた放射性ヨード治療が必要になるというようなこともあるのです。そのような期待外れに対する心構えをしておかねばなりません。時には、最初に選んだ治療法が効かず、別の方法を考えなければならないこともあります。

激しい変動を避けるために医師と協力して対処する

薬か、放射性ヨードのどちらで治療を受けていようと、甲状腺ホルモンレベルの変動が起こり得ます。しかし、周期が大きく、早い変動を最小限に留めるためには医師と協力して対処する必要があります。大きな変動があるとコントロールが失われ、不安やエネルギーレベルの変動、怒り、および気分変動を含む重大な感情的、身体的苦しみを味わうことがあります。感情的に不安定になると、脳内の化学作用に変化を生じ、甲状腺がうまくコントロールされた後であっても、精神的苦痛を受けやすくなります。薬で治療を受けている間に量の調節がスムースにいかず、甲状腺機能の変動が起きた場合、挫折感や失望感を味わい、いつまでも症状が続くのが普通です。苦しみが消えてなくなるだろうという最初の期待は医師に対する怒りと自分が苦しんでいるのを咎められているような気持ちに変わります。

ケイティーは薬の量の調節がうまくいかず、不適切なコントロールが行われたバセドウ病患者の例です。ケイティーが薬を飲み始めてから3ヶ月後に、医師が甲状腺機能低下症であるとケイティーに言いました。「疲れて、寝てばかりいるようになったのですが、まだ不安がありました。それから、先生が薬を中止し、2ヶ月後に来てくれと言いました。2ヶ月後、元の症状が全部戻ってきました。先生は前より少ない量のPTUを出しましたが、2ヶ月後、やはり甲状腺機能亢進症がありました。こんな変動にはもう我慢できませんでした。別の医師を捜さねばなりませんでした」

ケイティーのような災難に合わないよう、薬を飲み始めてから6週間後にかならず再検査を受けるようにしてください。その後は、2ヶ月毎に再検査を受ける必要があります。治療継続中に再検査の都度、甲状腺ホルモンレベルが正常であれば、私は甲状腺機能低下症の発生を防ぐため、薬の量を減らしていきます。これが甲状腺ホルモンレベルの大きな変動を避ける最良の方法です。

一部の初期の研究では、甲状腺をブロックする一定量のメチマゾールとメチマゾールによる甲状腺ホルモン不足を補うサイロキシンを組み合わせて使うことによって(ブロック─補充療法と呼ばれます)、寛解率が上がることが示されています。高用量のメチマゾール(1日30から40ミリグラム)をサイロキシンと一緒に投与されます。サイロキシンの量は正常な甲状腺の検査結果を維持するように調節されます。しかし、もっと新しい研究では、ブロック─補充療法が寛解率を上げることにつながるということが確認されませんでした。このブロック─補充療法では、治療の間を通じて甲状腺ホルモンレベルを安定させることができますが(26)、高用量の抗甲状腺剤による副作用が増える恐れがあります。

放射性ヨードで治療を受けた人にも激しい変動が起きることがありますが、それは最小限に留めたり、防ぐことができるものです。多くの患者は放射性ヨードのカプセルを飲めば、甲状腺が破壊され、それでお終いと思っているのですが、実はそうではありません。放射性ヨードは初期に甲状腺に対し“爆発的”な影響を及ぼし、それが数ヶ月続きます。そして、破壊効果は治療開始時から始まり、1年、時には何年も続くことがあります。しかし、さらに物事をややこしくするのは、放射性ヨードに対する感受性や敏感性が人によって様々に異なることです。これが、放射性ヨードで治療を受けた後、甲状腺ホルモンレベルが数ヶ月高いままであったり、あるいは2〜3週間の内に一挙に低いレベルにまで下がってしまうことがある理由です。治療後すぐに甲状腺機能低下症になったとしても、甲状腺が回復し、また甲状腺機能亢進症になる場合もありますし、甲状腺機能低下症のままになってしまうこともあります。研究では、放射性ヨードで治療を受けた人の15から20%が最初の6ヶ月以内に一過性の甲状腺機能低下症になり、それが数週間続くことが示されています(27)。このような条件下で、医師が永久的な甲状腺機能低下症になっているのだと思い、高用量の甲状腺ホルモン剤を投与し始めると、2〜3週間後に甲状腺の機能の一部が回復した際に、簡単に甲状腺機能亢進症になってしまう場合があります。

治療後、数ヶ月の間に起こる甲状腺ホルモンレベルの不安定性が、身体的、感情的健康を損なうことがあります。私は、治療が原因で激しい甲状腺ホルモンレベルの変動が起きた後、明確な線維性筋痛の出た患者を数人診ております。

放射性ヨードで甲状腺が破壊されている間、正常またはできるだけ正常に近い甲状腺ホルモンレベルを維持するに必要なだけ、治療を続けて受ける必要があります。抗甲状腺剤を止めたために、治療の2〜3日後に甲状腺機能亢進症の症状が悪化することがあります。放射性ヨード治療を受けたある女性はこう言っています。「甲状腺機能低下症になる前に、甲状腺機能亢進症がひどくなるだろうという説明は受けていませんでした。ひどい不安で夜中に目を覚ましました。先生が放射性ヨード治療の後にどんなことが起きるか説明さえしてくれていたら、たぶん私が感じた不安や激しい感情の動きはもっと軽くなっていたでしょうに。なぜそんなことになるか知っていればよかったのです」

放射性ヨード治療の後は、高用量の抗甲状腺剤を飲まないようにしてください。少量の抗甲状腺剤は、放射性ヨードが効いている間に、甲状腺ホルモンレベルを正常に戻す効果があると思われますが、高用量では放射性ヨードの作用にその効果が加わるため、一挙にひどい甲状腺機能低下症の状態になってしまう可能性があります。放射性ヨード治療を受けた後、4週間経ってから再検査を受ける必要がありますが、そうすれば医師が薬の量を合わせることができるからです。

急激に甲状腺機能低下症になったり、甲状腺ホルモンレベルの大きな変動を避けるために、放射性ヨード治療後、6ヶ月間メチマゾールとサイロキシン併用療法を使うことを医師と話し合ってください。私はこの方法をたくさんの患者に使ってきましたが、その結果は素晴らしいものです。放射性ヨード治療の1週間後に、私は30ミリグラムのメチマゾールを1日1回飲むように処方します。これで甲状腺ホルモンレベルが正常に近くなります。メチマゾール開始から1週間後に、75マイクログラムのサイロキシンで甲状腺ホルモン補充を加えます。その後6ヶ月間は、2ヶ月に1度、サイロキシンの量の調節が必要な場合があります。一般的に、これらの量の調節はごくわずかなものです。6ヶ月後、メチマゾールを中止します。そして、甲状腺の検査結果に応じてサイロキシンの量を調節します。サイロキシンの量は、甲状腺の検査結果が正常であれば半分に減らします。患者がわずかに甲状腺機能亢進症である場合は、甲状腺ホルモン剤の服用を中止させます。患者がメチマゾールを中止し、サイロキシンの量の調節をしてから2ヶ月後に、再び甲状腺ホルモン剤の量を調節するか、正常なまたは正常に近い甲状腺機能を維持するために中止します。治療後6ヶ月安定させた後に簡単に補正できる甲状腺ホルモンの変動がある方が、放射性ヨード治療の著しい影響によりなかなかコントロールできない変動が何度も起こるよりずっとよいことです。この治療プロトコールにしたがっている間、私は患者に甲状腺の検査を行う度に、白血球数と肝機能の検査を行うようにしています。

妊娠中の甲状腺ホルモンバランスの乱れの治療

女性が妊娠している場合は、甲状腺ホルモンの需要が著しく増加します。中等度のヨード欠乏地域では、妊婦の甲状腺が肥大することが多いのです。このことは古代から知られておりました。古代エジプトの象形文字にははっきりとそのことが表わされています。母親の甲状腺は、母親自身とおそらく発育中の胎児のために余分に甲状腺ホルモンを作らなければならないのです。ヨード欠乏地域では、甲状腺がヨード欠乏を克服しようとして妊娠中に甲状腺腫の発生率が増加します。しかし、ヨード供給が適切であっても、妊娠中に甲状腺のサイズが増すことがあります。

出産可能年齢にある女性の間では、不活発な甲状腺が非常によく見られます。妊婦の2〜3%が、妊娠初期の3ヶ月に検査をすると甲状腺機能低下症であると見積もられています(28)。甲状腺機能低下症のため、甲状腺ホルモン剤を飲んでいる妊婦は、甲状腺ホルモン剤の必要量が著しく増加することが多く、研究者はこれらの女性の80%で用量を増やす必要があると見積もっています。これは甲状腺ホルモンの必要量の増加と血液中の甲状腺ホルモンを運ぶ蛋白質のレベルが高くなることの両方を反映しています。正しい甲状腺ホルモンバランスが取れていなければ、甲状腺機能低下症の妊婦は流産したり、先天性奇形の子どもを産む確率が高くなります(29)。もう一つ可能性があることは、胎児の精神発達が妨げられることで、赤ちゃんの将来の知的成長に有害な影響が出る恐れがあります。

不活発な甲状腺のために妊婦が甲状腺ホルモン剤を飲んでいる場合は、甲状腺がうまくコントロールされているかどうかを見るのに症状をあてにすることはできません。このため、妊娠期間中を通じて適切な甲状腺ホルモンレベルを確実に保つため、定期的な甲状腺の検査が必要になります(2ヶ月毎)。妊娠中に甲状腺ホルモンレベルが正常から外れていることがわかっても、すぐにコントロールができないというわけではありません。

妊娠しており、バセドウ病で引き起こされた活動し過ぎの甲状腺がある場合、抗甲状腺剤で治療を受けなければなりません。妊娠前にメチマゾール(タパゾール〈注釈:日本ではメルカゾール〉)を飲んでいたのであれば、医師がプロピルチオウラシル(短縮してPTU)に切り替えるかもしれません。これはメルカゾールで皮膚欠損症と呼ばれる希な頭皮の先天性異常が起こる可能性があるからです(30)〈注釈:メルカゾールと皮膚欠損症の関連性については今のところ不明である。それより、妊娠中にメルカゾールからPTUに変更する方が危険と考えます。母親のPTUによる副作用の方が余程、頻度も高く、もし重篤な副作用を起こせば胎児にも悪影響を及ぼすのは明らかである。PTUに変更するのなら妊娠を計画する前に変更しておく方が、安全と考えます。ただ、PTUに変更した場合に、折角メルカゾールで副作用が出ない安全な時期なのに、また副作用を2〜3ヶ月間心配しなければならないのは賢明な選択ではないように思います。因みに、わたしは今までにメルカゾールによる頭皮欠損症は経験がありません。〉

タパゾール(メルカゾール)が原因で、皮膚欠損症と呼ばれる希な頭皮の先天性異常が起こるということについては、かなり疑わしいのですが、多くの医師は妊娠中にPTUを使う方が安全だと思っています。妊娠が進むにつれて、バセドウ病の活動性が落ちてきます。そのため、抗甲状腺剤の量を少しずつ減らして行き、妊娠期間中を通じて甲状腺ホルモンレベルを高めの側に留めるようにしなければなりません。PTUは胎盤を通過し、量が多すぎると胎児に甲状腺機能低下症を起す可能性があります。妊娠の末期に近くなると、甲状腺に対する免疫攻撃が著しく下がるため、もはや薬を飲む必要がないということもあります。しかし、頻繁なモニターは欠かせません。妊娠中で、活動し過ぎの甲状腺に罹っている場合、私は出産まで毎月検査を受けるようお勧めします。そうすれば最小限の量の薬で、甲状腺ホルモンレベルを正常範囲の上限に近いレベルに保つことができるからです。

ただし出産後は、病気の活動性が増すことが多く、出産後に甲状腺ホルモンレベルが高くなるのを防ぐために薬の服用を再開したり、量を増やさねばならないことが多くなります。抗甲状腺剤は母乳中に出てくるのですが、メチマゾールよりPTUの方が明らかにその量が少ないのです。それでも、研究では1日20ミリグラム以下のメチマゾールであれば、新生児に対して安全であることが示されています。

覚えておくべき重要なポイント

  • 甲状腺疾患の治療に関する知識が豊富で、あなたの感情面にも対処できる医師を選びましょう。
  • 甲状腺機能低下症と診断されたら、最初に飲む必要がある甲状腺ホルモン剤の量は、最初のTSHレベルがどの程度高いかによって異なります。
  • 甲状腺ホルモン治療で最適な結果を得るには、薬を朝食前に飲み、その吸収を妨げるような薬と一緒に飲むのを避けるようにしてください。
  • 不活発な甲状腺の治療を受けており、甲状腺検査の結果が正常になったら、約6ヶ月毎に再検査を受ける必要があります。
  • 活動し過ぎの甲状腺であれば、決断を下す前に治療の選択肢について聞き、医師と話し合ってください。副作用についても聞いておくようにしましょう。どの治療も完全ではありません。しかし、バセドウ病の治療についての専門的知識のある医師を選びましょう。
  • 治療中は、大きな甲状腺ホルモンレベルの変動が起きるのを避けるため、医師と協力して対処するようにしてください。このような変動はあなたにとってつらい経験となるかもしれませんし、ホルモンバランスの乱れが直った後も長引く症状に苦しめられる恐れがあります。

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