第13章:産後うつ病

ほとんどの女性にとって、この世に新たな赤ん坊をもたらすことは幸福と喜び、そして安堵を意味するものです。しかし、それはまた心配や責任、眠れぬ夜、そしてよくあることですが、大変なストレスをももたらすものであります。産後期(出産直後)に起こるホルモンの変化だけでなく、これらのファクターにより、相当数の女性が緊張や不安、および気分の変動を経験します。また多くが怒りや睡眠障害、発作的に泣くことなども経験します。ほとんどの女性では、そのような感情的変化が2日から1週間ほど続き、その後よくなります。しかし、中には軽度から中等度の気分変動が数週間続く人もおります(1)。出産した女性のほぼ15〜20%に軽度から重度の範囲にわたる長引く産後うつ病が出ます。これらの女性は自尊心の低下や啼泣発作(発作的に泣くこと)、感情の高ぶり、悲哀、睡眠障害、および過食または食欲低下などに苦しみます。

産後期は、女性が甲状腺機能障害になりやすい時期でもあります。それは産後かなりの期間にわたって非常に大きなホルモン変化が起こるためですが、親になって生活が変ることで、新たなストレスが加わることからもくる可能性が高いのです。多くの女性が甲状腺ホルモンバランスの乱れが原因の産後うつ病を経験します。産後期の甲状腺機能障害により、女性がストレスを強く感じたり、新生児がいることに伴う様々な要求に対処することが困難になることがあります。産後期の脳と甲状腺の間の相互作用は、免疫系への影響に止まりません。これは、甲状腺への自己免疫性攻撃を引き起こす有力なファクターであります。ただ、このメカニズムは、可能性としてはあるものの、ほとんどの産後甲状腺疾患の原因ではないのです。

昔からはっきりした産後精神障害は認識されていました。出産に関連した精神障害のパターンについては、1838年のフランス人Jean Etiennie Dominique Esquirolの報告(2)以来、様々な形の報告があります。それでも、産後の精神障害については、最近までほとんど話されることはありませんでした。そして、産後うつ病に苦しむ女性は自分の病気を恥じて隠していたのです。産後の病気、およびそのような病気が高い頻度で起こることと、その子どもや家族への影響に対して医療界が深刻に考え、認識するようになったのは1980年に、イギリスの医師(3)が産後精神病に関する協議会を組織したことから始まります。このことが産後精神病の知識と治療の進歩を促進するための国際組織の設立につながりました。精神科分野での科学的進歩、支援グループの結成、そしてメディアを通じた一般の知識の向上などにより、それまで産後の女性が隠していた様々な苦しみが明らかにされたのです。

過去20年間に、甲状腺の研究者は慢性甲状腺炎やバセドウ病を含む自己免疫性甲状腺疾患が産後期に高い頻度で起きることを明らかにしました。様々な形の自己免疫性の甲状腺ホルモンバランスの乱れが10%もの産後女性に起こるのです。ストレスを自己免疫性攻撃の引き金となる主なファクターとして関連付けることは、自己免疫性甲状腺疾患はそれ以外の時期の女性にも起こるので非常に難しいのです。しかし、ある研究でうつ病の症状のほとんどを経験する女性には、甲状腺機能が正常であっても高い頻度で抗甲状腺抗体が陽性であることが示されました(4)。この発見はストレスがバセドウ病だけでなく、いちばん多い自己免疫性甲状腺疾患である慢性甲状腺炎をも引き起こす可能性があるという証拠となるものです。また、そのことから精神─体の医療;家族と配偶者の支援;ストレスへの対処の仕方を学ぶこと;ヨガや太極拳、瞑想のようなリラクゼーションテクニックの利用が、産後期に非常に多い新たに加わるストレスやうつ病を女性が管理したり、緩和するのに効果があり、また甲状腺に対する自己免疫反応を最小限に抑える効果があることも示唆されています。

甲状腺ホルモンバランスの乱れを来たした産後女性の多くで、重要な素因となるファクターについてはたくさんの記録があります。自己免疫性甲状腺疾患の存在です。妊娠の最終三半期〈注釈:妊娠を3期に分けた場合、最後の1/3です〉に抗甲状腺抗体が陽性の女性は、産後に甲状腺機能障害を起しやすいのです(5)。ある研究で、産後に甲状腺機能障害がある患者の76%で、産後期に抗甲状腺抗体が陽性であるということが明らかにされました(6)。それでも、どの程度のストレスが産後の女性で甲状腺機能障害を起すのかわからないのです。

体内のホルモンレベルの変動が産後精神病の発生の原因の一部であると考えられてきました。産後の症状は、妊娠中に高かったホルモンのレベル(すなわちエストロゲンとプロゲステロン)が妊娠前の低いレベルに急速に下がることと結び付けて考えられることが多くなっています(7)。医師もホルモンの変化が自己免疫性甲状腺疾患の引き金を引く役割を果たすことを認めています。おそらく産後期特有のものは、ホルモン変化であり、それが妊娠中の免疫系の抑制と合いまって産後に自己免疫性疾患を起すのではないかと思われます。
産後うつ病は抗甲状腺抗体が陽性であることと甲状腺機能障害に関係しています。これも多いのですが、産前のうつ病は甲状腺の病気とは相関しないようです。

産後期に高い頻度でうつ病や甲状腺ホルモンバランスの乱れが起こるため、産後の女性がうつ病を含め、精神的、感情的症状を訴える場合、医師は必ず甲状腺機能検査を行うべきです。そうすることで医師と患者はうつ病の原因を知り、治療ができるという意味で大切なことですが、引き起こされた甲状腺ホルモンバランスの乱れを治しておくことが、女性の将来の健康のためには欠かせないことでもあります。甲状腺ホルモンバランスの乱れと併存する産後うつ病を治すいちばんの早道は、甲状腺ホルモンバランスの乱れを治療することです。そのバランスの乱れが産後うつ病の原因であったり、うつ病を悪化させたり、長引かせたりすることがあるからです。しかし、これだけでは十分でないことがあります。リラクゼーションテクニックや運動が再び元のように健康を取り戻す助けとなります。

産後うつ病と甲状腺ホルモンバランスの乱れはどのくらい多いのでしょうか?

1世紀以上前になりますが、ロンドン臨床家医会委員会は産後の精神的変化を引き起こすのに、甲状腺ホルモンバランスの乱れが役割を果たしているのに気がつきました(8)。最初の報告では、甲状腺ホルモン不足により高い頻度で精神病症状が出るということを力説するだけでなく、不活発な甲状腺を持つ患者の多くが産後に病気になることも指摘されています。それ以来、甲状腺ホルモンバランスの乱れが産後の気分変動を引き起こす重要な原因であることが明らかになってきました。

この章の最初に記したように、一般集団での軽度うつ病の発生頻度は全女性の15〜20%であると見積もられています。ほとんどの女性は数週間抑うつ状態になり、その後自然に回復しますが、その一方でいちばんひどいケースでは、うつ病が長くて1年続く場合があります。

多くの場合、女性自身も婦人科医も産後期に起こる感情的トラブルは新生児の世話をするせいだとしか思っていません。このような抑うつ状態を治療も受けず、あるいは配偶者や家族からの支えもなしに苦しみながらすごす女性が本当に多いのです。事実、産後うつ病に苦しんでいる女性の夫のほとんどは、自分達の妻の気分や行動の変化にうまく対処できず、それが女性をさらに孤立させ、うつ病を悪化させることにもなります。したがって、産後うつ病は診断されないことが非常に多く、またその症状はしばしばストレスのせいだとされてしまいます。重症の場合、精神医療や医療の介入なしにはこの抑うつサイクルを壊すのが困難であることが多いのです。

一般的に、うつ病の極端に重症なケースや、その人が自殺を図った場合にのみ精神科の助けが求められ、また産後うつ病に罹っている女性の多くは診断されていないため、私共は産後うつ病の真の発生頻度をつかんでおりません。

しかし、甲状腺ホルモンバランスの乱れが産後うつ病を引き起こしたり、悪化させることは明らかであります。

近年、産後女性の甲状腺機能を検査し、抗甲状腺抗体レベルを測定した研究がいくつかありますが、それでは全女性の5〜10%に産後自己免疫性甲状腺炎があることがわかりました(9)。これらの女性の半数から3分の2が産後期に甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、あるいはその両方を経験しています。ウィスコンシンで行われた研究では、産後6週から12週の女性の評価を行ったのですが、産後期の女性の11.3%に甲状腺疾患があり、6.7%に甲状腺機能亢進症か、低下症のどちらかがあることが示されました(10)。白人女性はアフリカ系アメリカ人女性に比べ、産後自己免疫性甲状腺炎に罹る頻度が高いようです(8.8%対2.5%)。

産後の甲状腺ホルモンバランスの乱れの持つ多面性

甲状腺ホルモンバランスの乱れは、出産後1から2ヶ月でもう起こる場合もあり、そのバランスの乱れは様々なパターンを呈することがあります。いちばん典型的なパターンには、次の3つの時期があります。2ヶ月から3ヶ月続く一過性または一時的な甲状腺機能亢進症が起こり、次に甲状腺機能低下症の時期があって、その後自然に甲状腺ホルモンレベルが正常に戻ります。相当数の女性で、産後7から8ヶ月までに甲状腺機能が正常に戻ります。要するに、産後期に起こる甲状腺ホルモンバランスの乱れは一時的なものですが、症状は出るということです。しかし、中にはバランスの乱れがいつまでも残る女性もおります。

このようなパターンになる理由は、慢性甲状腺炎に罹っている人に起こりやすい無痛性甲状腺炎(《第4章》参照)と同じで、急速な甲状腺細胞への自己免疫攻撃に関連したものです。第1期では、甲状腺細胞の破壊により、甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出し、そのため甲状腺ホルモンが過剰になって甲状腺機能亢進症になります。破壊が収まれば、甲状腺ホルモンレベルが下がります。このことで甲状腺機能低下症になる頻度が高いのですが、健康で適切な量の甲状腺ホルモンを作る細胞がなくなっていて、正常な甲状腺ホルモンレベルを維持できないからです。患者が甲状腺機能低下症になると、甲状腺細胞の再生が始まります。甲状腺が完全に回復し、甲状腺ホルモンレベルが正常に戻るまで数週間かかります。一般的に、甲状腺機能亢進症は産後2から3ヶ月の早い時期に起こる傾向があり、甲状腺機能低下症はもっと後になってから、大体産後4ヶ月あたりで起こるのが普通です。中には赤ちゃんを産んでから8ヶ月も経って起こる甲状腺機能低下症のケースもあります。

一部の女性では、甲状腺細胞の破壊とその結果起こる甲状腺機能亢進症が甲状腺機能低下症期を引き起こすほどひどくない場合があります。そのような女性では、数週間甲状腺機能亢進症が存在した後、正常な甲状腺機能を取り戻します。多くは系統的な検査を行わない限り、診断はつきません。

もう一つのよく見られるパターンは、一過性の甲状腺機能低下症が2ヶ月から3ヶ月続くものです。この後甲状腺機能が正常に回復するか、永久的な甲状腺機能低下症を起すかのどちらかとなります。後者の場合は生涯にわたる甲状腺ホルモン治療が必要になります。永久的な甲状腺機能低下症に進む女性には、甲状腺機能低下症が治る女性に比べ、もっと破壊力の強い慢性甲状腺炎がある可能性があります。中には寛解中のバセドウ病が出産直後に憎悪し、産後バセドウ病を起す女性もおります。

一度、産後甲状腺機能障害を経験したことのある女性の場合、今後妊娠した後に産後甲状腺機能障害を起してくるリスクがさらに高まるということを知っておく必要があります。また、産後甲状腺機能障害を起す女性の多くは、後になって何らかのタイプの甲状腺の異常をも起してきます。例えば、ある研究で産後甲状腺炎を経験した女性の23%に、24ヶ月から48ヶ月経ってから甲状腺機能低下症が見付かったことが示されています。このびっくりするような所見は、産後期に甲状腺機能低下症だけを経験した女性の半数が不活発な甲状腺であり続けるということなのです(11)。これは、産後期に一度自己免疫性攻撃が起こるか、悪化すると、さらに甲状腺の病気が起こりやすくなる可能性が高まることを意味します。産後甲状腺機能障害が女性の生殖可能年齢の最後の時期に起こった場合、永久的な甲状腺機能低下症になる危険性が後になって増してきます。また、理由ははっきりしませんが、何度も妊娠したり、以前流産した女性は永久的な甲状腺機能低下症になる危険性が高いのです。

産後の甲状腺ホルモンバランスの乱れが精神や気分に及ぼす影響

産後期には、甲状腺ホルモンバランスの乱れが精神の健康に及ぼす影響を無視できません。ウォルターリード陸軍医療センターのClifford C. Hayslip博士等(12)は、産後甲状腺機能低下症に罹っている女性は、産後甲状腺機能障害のない女性に比べ抑うつ状態にあり、集中力や記憶に障害が出るだけでなく、その他の訴えもずっと多いことを明らかにしました。産後期に甲状腺機能低下症になった女性の約70%が、甲状腺機能が正常な女性に比べて、不注意になり、ミスも多くなります。これらの女性は疲労や体重増加、寒さに耐えられない、および神経質になったことも訴える傾向があります。産後甲状腺機能低下症のある女性のほぼ半数が悪夢を見ますが、それに比べ正常な甲状腺機能を持つ女性では5.5%です。

産後うつ病のある女性は、乳児に必要な世話ができないことに大変な罪悪感を抱きます。様々な理由で抑うつ状態になりますが、それは一人一人違います。間違いなく、ストレスや母親としての役割を果たすことへの無意識の恐れ、結婚生活の軋轢、夫や家族の支えがなかったり、支えがないと思い込むことが産後うつ病の一因となっております。

産後うつ病や不安は、他の種類のうつ病と同じように、軽いものから非常に重いものまであります。出産後の時期に起こることのあるいちばん希な病気は、産後精神病で、幻覚や譫妄、および不安興奮が特徴です。精神病が治療により落ち着いてきたり、よくなったりした後にうつ病が起こる場合があります。産後精神病のほとんどのケースは、甲状腺ホルモンバランスの乱れで引き起こされるものではありませんが、希なケースではそのようなバランスの乱れがあると推測されています(13)。

産後期に甲状腺ホルモンバランスが気分や感情に及ぼす影響はほとんど一般に知らされていないため、新しく母親になった人の多くが、彼らの家族と共に生涯でいちばん喜びを感じるであろう時期に重大な病気にかかる危険に曝されています。多くの例で、産後甲状腺疾患によるうつ病は後になって起こるのですが、大抵の場合、産後甲状腺疾患によるうつ病と産後うつ病は区別できません。そして、産後うつ病のある女性の多くが、産後甲状腺疾患が原因のうつ病の悪化を経験します。それでも、普通の産後甲状腺機能障害のある多くの患者には、何のうつ病の症状も出ないのです。

キャシーは36歳で、産後甲状腺機能障害の症状がいくつか出ておりました。彼女は甲状腺機能が正常に戻り始めてからやっと診断を受けたのです。彼女の症状は最初甲状腺機能亢進症をうかがわせるもので、それは2ヶ月続きました。その後3ヶ月間甲状腺機能低下症になりました。しかし、彼女も教育病院の麻酔医である彼女の夫も、彼女の症状がすべて子どもが生まれたことと、新しい町へ引っ越したことからくるストレスのせいだと思っていたのです。
キャシーは彼女の症状を次のように述べてくれました。

赤ちゃんを産んでからじっとしていられなくなったように感じました。私は娘が生まれた後も動き回っていましたので、とうとう子宮から再び出血してしまいました。私は母乳を与えていましたが、動き回り、物事を何もかも自分でしようとしていました。

娘が4ヶ月になった時、私は26ポンド(12キロ)もやせていました。暑くて、震えがあり、いつも汗ばんでいました。クロゼットの中に座って、泣き、ひどく腹立たしかったのを覚えています。脈も速くなっていました。私達は単にストレスのせいだと思っていました。
2ヶ月後、落ち込んだ気分になり、突然ひどく疲れたように感じました。やせた分を取り戻し、それにプラスして15ポンド(6.8キロ)も太ってしまいました。皮膚は乾燥していました。とても眠くてたまらず、娘が昼寝をする時には一緒に寝ていました。私は医師のところに行きました。そうして先生が私の甲状腺が大きくなっていると言ったんです。

キャシーが述べたのは甲状腺機能亢進症により引き起こされる多動と軽躁病の時期の後に、甲状腺機能低下症により引き起こされる抑うつ期が続くということです。

対照的に、学校の教師であるジャスミンは、2人目の子どもを産んで1週間後に啼泣発作や気分変動、そして怒りに駆られる時期が出始めました。徐々にですが、彼女の性格が変わっていき、症状も悪化しました。彼女は29歳で、以前は健康であり、過去にうつ病に罹ったことはありませんでした。
産後期に始まった不活発な甲状腺が原因で、子どもが生まれてから起こったことをどのように彼女が言い表しているかここに挙げてみます。

私は子どもがかわいくて仕方ありませんでしたが、それ以外の回りにいる人は皆大嫌いでした。皆、物事をちゃんとできませんでした。私はくたくたになりました。私がしたいのは赤ん坊の世話とテレビを見ることだけでした。私はどんどんやせていき、それでもちゃんと食べていませんでした。母乳が十分に出ませんでした。ものすごく気分が悪くて、もうタフだなんて言えませんでした。

主人をとても愛していたんですが、時々見るのも嫌になることがありました。そしてこう考えるんです。「何で彼と結婚したんだろう。この消耗しきった私を見てごらんなさいよ」私は赤ちゃんの世話をし、働き、家もきれいにしていようと頑張っていました。でも私にはそのどれ一つとしてちゃんとするだけのエネルギーがなかったんです。洗濯物が山をなし、家の回りのものにホコリがたまっていくにつれ、私はますます落ち込み、エネルギーもなくなっていきました。どこにも出口がないように思えました。

ジャスミンのケースは、明確な産後うつ病です。そのために結婚生活に影響が出ていました。TSH検査で、甲状腺機能低下症であることがわかりました。甲状腺ホルモン治療で彼女のうつ病は治り、元どおりの彼女に戻りました。彼女のうつ病は甲状腺ホルモン治療に反応しましたが、今日に至るまで彼女のうつ病がすべて甲状腺機能障害によるものであるのか、それとも不活発な甲状腺が彼女の産後うつ病を悪化させたのかはっきりしません。
最近私が診察したもう一人の若い女性も抑うつと不安状態にありました。彼女は産後甲状腺機能障害に罹っていましたが、彼女の主治医は彼女の不安を赤ちゃんの世話をするためのストレスによるものだと片づけてしまったのです。
彼女は自分の症状のいくつかを次のように述べてくれました。

私は子どもを抱くのが恐ろしかったので、主人が長いこと息子の世話をしていました。私は泣きました。自分が子どもを傷付けようとしている悪夢にもうなされました。なかなか眠れませんでした。2時間ほど寝て夜中に目が覚め、それから2〜3時間寝返りしてようやく眠りに落ちるという具合でした。

最初、一般医のところに行きました。先生は抗うつ剤をくれました。息切れがするようになりました。私の脈もちょっと速くなっていました。私はベッドから出て歩き回り、ソファーに横になりました。私の生活の中に、何もうつ病の原因になるようなことはありませんでした。とても素晴らしい主人と小さな息子がいるのですから。

産後甲状腺炎が診断され、治療を受けた後、彼女は甲状腺の病気が治り、症状も消えました。

グレースは29歳ですが、女の子を産んだ後の産後甲状腺機能低下症のため大うつ病に罹った時のことを話してくれました。彼女はご主人が出張がちで、母親もがんの治療のため入院したばかりであったため、一人取り残されたように感じていました。
彼女が言うには

約4週間ばかり、私は朝起きて何とか普通にやっていました。子どもを産んで6週間経って、私は完全にノイローゼになってしまいました。まだガウンを着たままで、その日のことを何にも思い出せないのです。ある夜、私は店に行き、調合乳を買いました。そしてミルクの作り方についての説明を全部書き留めました。そして座ったきり全然動けなくなったんです。その間私は生きるのをやめたくなったんです。子どもは育てたかったけれど、今回りで起きている、あるいは私が起きていると思っていたあらゆることに対して私はうまくやっていけないとその時感じていました。そのことをはっきり言いあらわすなんてできないと思えました。私が必要としているこのような類の助けなど誰も聞いてくれないだろうと思いました。休みが必要だったのです。私は産後の大うつ病だと診断されました。そして数日後、重症の甲状腺機能低下症だと言われました。

グレースは甲状腺ホルモン剤と抗うつ剤で治療を受けました。数ヶ月後、彼女は元気になり抗うつ剤は中止しました。うつ病が再発することはありませんでした。患者が抑うつ状態にある時、特に産後の母親がそうである時には必ず甲状腺の病気の検査をすることの重要性をこの例からも改めて強調したいと思います。

うつ病の病歴がある患者に産後甲状腺ホルモンバランスの乱れが起きた場合、甲状腺ホルモンバランスの乱れにより、うつ病が引き起こされることが非常に多いのです。ヒラリーは何年もの間、うつ病が繰り返し再発し、間欠的に薬を飲んでいました。彼女に最悪のうつ病症状が出たのは、2人目の子どもを産んだ後でした。彼女を診ていた精神科医は、ヒラリーが2度自殺未遂をしてからやっと産後甲状腺機能低下症のことを考えたのです。

産後うつ病と甲状腺ホルモンバランスの乱れがある女性の中には、抗うつ剤と精神科の治療が必要となる人もいます。夫の支えやカウンセリング、そして甲状腺ホルモンバランスの乱れの医学的治療が本人と家族のうつ病に対処する能力を高めます。甲状腺ホルモンバランスの乱れを見逃すと、うつ病の症状のコントロールが難しくなってしまいます。

ダイアナは甲状腺機能低下症によるうつ病に罹っていました。彼女は産後うつ病であるという診断を受けましたが、甲状腺ホルモンバランスの乱れの検査は受けていませんでした。抗うつ剤で治療を受けたのですが、病気は改善しませんでした。
彼女が言うには

息子が生まれるまで何にも病気に罹った覚えがありません。7ヶ月か8ヶ月後に私は完全にうつ状態になりました。私を診た医師の一人は出産後こんなに長く続く産後うつ病はありえないと言いました。基本的に、自分は値打ちがないのだと思っていました。何もしたくありませんでした。別の医師はプロザックをくれ、次にゾロフトを出してくれましたが、どちらも効き目はありませんでした。婦人科医が血液検査をしてくれるまで、誰も甲状腺を調べてくれませんでした。その血液検査で甲状腺機能低下症であることがわかったのです。

産後うつ病と産後甲状腺機能障害が同時に起こった場合、うつ病の唯一の原因として甲状腺疾患をはっきり関連付けることはできません。甲状腺ホルモンバランスの乱れは単にその一因となるファクターに過ぎないことがあるからです。研究では産後うつ病と産後甲状腺機能障害の間に関連性があることが示されていますが、甲状腺疾患が存在しなくてもうつ病が起こったかどうか定かでないのです。ほとんどの医師は産後の症状を深刻にはとらないのです。これは文化上、女性は産後期にある程度の気分変動が起きたり、感情が不安定になるものだと思われているからです。私達の社会は、これらの新しく母親になった人達に“それに耐え抜く”ように一方的に期待します。そして、時には産後うつ病の圧倒的な感情的、身体的影響に耐えることを強いることさえあるのです。医師や配偶者、そして家族は新しく母親になった人に症状を無視し、「赤ちゃんのことを考えなさい」、そして自分が“感じるはず”の喜びのことを考えなさいとよく言います。産後うつ病と産後甲状腺機能障害の発生頻度は高いのにもかかわらず、医師はどちらの病気も無視することが多く、また産後期に抑うつ状態にある女性の甲状腺検査をすることも思い付きません。この傾向は、母親と乳児双方に対する重大な影響を防ぐために変えなければならないものです。

覚えておくべき重要なポイント

  • 一部の女性では、甲状腺ホルモンバランスの乱れが産後うつ病を悪化させます。悲しみや啼泣発作、配偶者との間の溝に圧倒されたり、赤ちゃんの面倒を見ることができない場合は甲状腺をチェックしてもらいましょう。
  • 産後期の甲状腺ホルモンバランスの乱れは、一過性の甲状腺機能亢進症から次に甲状腺機能低下症となり、その後正常な甲状腺機能に戻るというパターンを呈することが多いのです。
  • しかし、中には一過性の甲状腺機能亢進症だけ、あるいは一過性の甲状腺機能低下症だけを経験する女性もいます。それ以外の人はバセドウ病による永久的な甲状腺機能亢進症または慢性甲状腺炎による永久的な甲状腺機能低下症を起します。
  • 一度出産後に甲状腺にトラブルが起きると、その後の妊娠で甲状腺の病気になるリスクが高くなります。また、永久的な甲状腺機能低下症に進む危険性もあります。
  • 産後期は女性がいろいろなものに影響されやすい時期です。多くの女性で甲状腺ホルモンバランスの乱れが産後に起こっています。

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