第12章:不妊と流産

現代のように正確な甲状腺検査ができる時代になる以前であっても、医師は甲状腺ホルモンバランスの乱れが生殖に及ぼす影響に気付いておりました。20世紀になったばかりの頃、医師は不妊や更年期を改善するため、女性に甲状腺ホルモンを投与したのです。今日の医師は、適切な甲状腺ホルモンレベルが、性ホルモン(すなわちエストロゲンとプロゲステロン)の産生と排卵を起こすためのホルモン周期に欠かせないものであることを認識しています。甲状腺ホルモンが過剰であっても、またこちらの方が多いのですが、甲状腺ホルモンの不足があっても、生殖系のホルモンの作用に変化が起こり、時には排卵しなくなることがあります。排卵し、受胎しても、甲状腺ホルモンバランスの乱れのためにプロゲステロンの不足が起きることがあり、そのため子宮が胚の着床に適しないようになることがあります。それが正常な妊娠を妨げるのです。

ここ10年の間に不妊医療には数々の重要な進歩がありました。でも、甲状腺ホルモンバランスの乱れと生殖障害や不妊、および流産とのつながりについての研究結果はあまり発表されていません。

甲状腺が不活発であっても、活動し過ぎであっても、不妊や流産の問題が起きることがあり、また妊娠の転帰に影響が出てきます。それでも、甲状腺機能低下症の方が機能亢進症よりはるかに多いので、甲状腺に関係した不妊や流産は甲状腺機能低下症が原因で起こる頻度が高いのです。このため、この章ではこのような問題の原因として、不活発な甲状腺に主に焦点をあててお話することにします。

不妊症はありふれた病気です。医師は、子どもを持てる年代の夫婦の6組に1組に不妊の問題があると見積もっています(1)。近代的な不妊治療法を使えば、費用も時間もかかることが多いのですが、そのような夫婦の約3分の2は治療できますし、妊娠に成功します。

不妊症は一種の慢性の病気と見なすことができます。この状態に苦しんでいる人は、そのうちによくなるんではないかとか治療で治るんじゃないかなどという絶え間ない、しかし不安定な希望を抱いています。妊娠できないということで、心理学者のEric Erickson言うところの“沈滞と個の減退(2)”という状態になっていくことがあります。多くの不妊カップルは、子どもがいないということが頭を離れず、子どものいる他の人を見て自分達が劣っていると感じるようになります。数え切れないほどの医師への予約、その費用、仕事への影響、そして毎月繰り返される今度こそはという希望や期待が最後には夫婦の重荷になり、自分達の生活を見失ったような気持ちになって、それがうつ病や結婚生活の問題を生じることがあります。

甲状腺ホルモンバランスの乱れの治療を受けている女性が不妊治療プログラムを始める時、まず自分達の甲状腺の病気が受胎や正常な妊娠を妨げている可能性があるなどとは思ってもおりません。それよりさらに心配なことは、不妊カップルの治療に携わる生殖腺病専門医や婦人科医の相当数が、ほんのわずかな甲状腺ホルモンバランスの乱れが不妊をひどくしたり、あるいはそれが原因で不妊が起きている可能性があることを知らないことです。それだけでなく、そのような医師の多くはごくわずかな甲状腺の異常を突き止めることの重要性も認識しておりません。

ごく軽度の甲状腺機能低下症がどの程度の頻度で不妊の一因となっているかはわかりませんが、最近の研究では重要な原因ファクターであることがはっきり証明されました。ある研究では、不妊治療クリニックに紹介される女性の25%に軽度の甲状腺機能低下症があることが示されています(3)

不妊の問題がある場合は、不妊治療に2年もの歳月を費やす前に婦人科医と甲状腺ホルモンバランスの乱れがある可能性について相談するようにしてください。そして、甲状腺の検査をするように頼んでください。甲状腺ホルモンバランスの乱れがTRH(TSH放出ホルモン)刺激試験でしかはっきりわからない場合がよくあります(4)。軽度の甲状腺機能低下症が見付かった患者の中で、甲状腺ホルモン治療で不妊症が治る人もおります。

不妊治療クリニックに来る患者には、ルーチンに甲状腺の検査は行われていないので、ごく軽度の甲状腺機能低下症がある多くの女性が何とか妊娠しようと長いことあがいております。マリアは33歳ですが、不妊治療プログラムに2年近く耐えてきました。彼女はかなり長いこと甲状腺機能低下症の症状が出ていたのに、担当の婦人科医が不妊治療を始める時に甲状腺のチェックをしていなかったことを知り、大変な怒りを覚えました。彼女は私にこう言いました。「なかなか体重が減らず大変苦労していました。そして、その他にもはっきり甲状腺の徴候が出ていましたし、先生はこの分野には詳しいのでちゃんと見て取れるんだと思ってたんです」マリアは甲状腺ホルモン治療を始めて2ヶ月後に妊娠しました。

過去4年間に、私はごく軽い甲状腺機能低下症のある5人の女性を治療しましたが、その人達の不妊症は甲状腺ホルモン治療を始めてから2〜3ヶ月の内に治ったのです。甲状腺の問題が突き止められる前に、全員が配偶者との関係に変化を生じただけでなく、大変な感情的、経済的重荷に苦しんでおりました。その内4人は自分達の結婚生活を続けていけるのだろうかと思っていたのです。不妊は通常夫婦どちらにも影響しますが、大体は不妊症に罹っている方の罪悪感や非力感、挫折感、そして自尊心の低下が大きいのです。しかし、女性の方を責めがちな文化を考えると、不妊症の女性の方が男性よりも一層罪悪感や苦しみが大きくなります。そして、自分が不適格者であるという気持ちがさらに募るのです。

ストレスと不安の重荷

非常によくあることですが、女性が不妊症である場合、夫は妊娠することは妻の責任だと彼女に感じさせます。
ある患者が自分の状況を次のように話してくれました。

夫は妊娠するのが私の“仕事”だと言いました。私はセラピストからこう言われたのを覚えています。「毎月妊娠していないことがわかると、とても惨めになる理由は、ご主人がそれが仕事だとおっしゃったからだと思いますよ。つまり仕事に失敗したわけでしょう」
主人はそれが私の唯一の目標だと考えていました。私が自分の値打ちを妊娠検査の結果が陽性か陰性かということで測るようになりました。ですから、検査の結果が陰性と出るたびに、私は完全に打ちのめされたように感じたのです。それで一層落ち込んでしまいました。私は黙って耐えていたので、これらすべての感情に対処するのはとても大変なことでした。心は悲しみで一杯でした。

一般的に言って、不妊のカップルは自分達の問題を悪いことのように思ったり、悲しんだり、あるいは恥じたりするので、他人とそれについて話すことはありません。親身な支えがないことで、不妊の人またはカップルは孤立したように感じ、この問題によってもたらされる感情の激変により一層苦しむことになるのです。RESOLVEは、不妊の問題を抱える女性のための国の支援グループですが、国内各地のすべての主要都市で定期的に集う会があります。RESOLVEのメンバーは互いに医学情報を交換したり、感情面の支えを行って助け合っています。

甲状腺機能障害に罹っている女性への不妊の影響は、その女性が甲状腺ホルモンバランスの乱れに気が付いていない場合はさらにひどくなります。女性の感情に対する甲状腺ホルモンバランスの乱れの様々な影響が、苦しみを耐え難いものにし、配偶者との間の争いを募らせます。大抵の場合、女性が甲状腺機能低下症でなければ、自分の悲しみを友人や親族に隠すことができるでしょう。それが不妊と関係したものであるからです。ところが甲状腺機能低下症だと、例えそれがごく軽いものであったとしても、甲状腺ホルモンバンスの乱れのため、うつ病が悪化し、不妊のストレスに対応できなくなってしまいます。このようなエスカレートを予防する手段をとらねばなりません。不妊の問題で、うつ状態がますます募っていくようであれば、TSH検査を受けてください。

女性が不妊治療薬を飲んでいる間に起こる不安のため、甲状腺の病気により引き起こされる不安が、どのような種類であれ、一層ひどくなるのが普通です。今月は妊娠しているのだろうかとか、これで生活がどのように変るのだろうかということを心配しているのです。信じ難いほどの不安に直面しているため、妊娠検査の結果がマイナスであったことに対する失望がさらに大きくなることがあります。その結果、女性の中にはPMS〈注釈:月経前症候群〉の悪化や怒り、気分変動、いらいら、そして夫との口論が増す人もいます。

セックスなどしたくないと思っている時にも性交をしなければならない甲状腺機能低下症の女性は、しばしば罪悪感や不適格感がさらに強くなることがあります。夫に思いやりの気持ちや支えようという気持ちがない場合、あるいは妻にセックスへの興味がないことを誤解するような場合、夫婦の間で口論が起きたり、溝が深まったりするようになります。ロザリンは33歳の秘書ですが、結婚して5年になります。3年間にわたって妊娠しようと頑張り、つらい不妊治療を受けましたがうまくいきませんでした。しかし、不妊の原因は軽度の甲状腺機能低下症であったのですが、それはもう子どもを持つのをほとんどあきらめたころにやっと見付かったのです。
ロザリンが言うには

妊娠しようと頑張ることから信じられないくらいのストレスを受けました。毎月毎月、私達は何千ドルものお金を費やしました。私は往復2時間かけて、毎月10回から12回診療所に通わなくてはなりませんでした。はっきりした理由もなく、試している不妊治療プログラムは私には効果がありませんでした。さらに悪いことは、他の人が誰も支えにはなってくれないと感じたことです。誰かに私達がやっていることを話したとしても、こう言われるだけですから。「あら、ただリラックスするだけでいいのよ。私と仲のいい友達はご主人と2度目のハネムーンに行ったら、妊娠したのよ」私の場合は、妊娠するかどうかにリラックスすることが無関係だということが分かっていました。とうとう、私はいちばんの親友にさえもそのことを話さなくなりました。

私の不妊が生活のあらゆる面に影響していました。主人は極端に内気な人で、私以外の人とは誰とも物事を話し合うことがありませんでした。そのことでさらにつらくなりました。私のPMSはますますひどくなり、自分が泣いたり、悲しんでいることに気付くことが度々ありました。大変な不安を感じ、夜も眠れませんでした。

その月のセックスをしなければならない時期が来ると、私はそれを恐れるようになりました。主人に触られることも嫌になり始めました。医者からいつ、どのようにセックスするか、つまり何を、どこに、どれくらいの時間するようにということですが、そのようなことを言われるので、不妊治療を受けているとセックスの重要な面である親密さや自然さがなくなってしまうんです。それは思っているのとは違うんです。私にとって、そんなことはただストレスが募るだけという結果になりました。

一体何が起きているのか分かりませんでした。何一つ理解できませんでした。主人との喧嘩や口論は何ヶ月もの間エスカレートしていくばかりでした。私達はセラピストのところへ通い始めました。時には週に5日、あるいは7日通ったこともあります。

私はヒステリックになりました。私は大声でわめき散らし、荒れ狂いました。毎月の妊娠していないことに対する失望は大変なものでした。待って、待って、それから考えました。今度こそは妊娠しているだろう。でもだめかも、いいやそんなことない、多分大丈夫…それから、間違いなく妊娠していないことが分かるんです。私は完全に打ちのめされました。何もかも、医師の診察を受ける必要がある時やあれやこれやしなければならない時に合わせて予定を組まなければなりませんでした。もうやめてしまいたいと思ったことが何度もあります。主人も同じだったと思います。

私は自分に問い続けました。「こんなことするだけの値打ちがあるのだろうか」私が費やした時間やその他の不便さは別にして、5万ドル以上は使いました。それは私達のポケットから払ったお金です。

何度も失敗を繰り返していたので、ロザリンは本当に落ち込んでしまいました。彼女はその時のことをこう言っています。「とうとう仕事を辞めてしまい、家にいました。料理もせず、何にもせず、1日中ただ家でごろごろしていました」

ロザリンのような女性の多くが自分達の状態が頭から離れなくなり、自分で不妊の原因を探そうとするようになります。
ロザリンも結局は図書館に行って、自分で調べることを思い付きました。

私は、ありとあらゆる不妊の本を見ました。ある本に甲状腺のことが書いてありました。今度は先生が、その検査をすると150ドルもかかるといって難色を示しました。私はこう思ったんです。ここに来る度に500ドルもかかっているんだからあと150ドルくらい余計にかかったってどうってことないじゃないかって。先生が検査をしてくれることになって、それから先生が驚いたことに、私に甲状腺機能低下症があるということが分かったんです。この時は私も腹が立ちました。5万ドルも使う前に、1年早くこの検査をしてくれなかったことに対してです。

甲状腺ホルモンを飲み始めると、具合がよくなってきました。寒気とか、乾燥、髪の毛などです。ちょっとばかり悪くなって、それは2ヶ月ほど続きました。甲状腺ホルモン剤を月曜に飲み始めたら、火曜日には妊娠できるだろうと考えるかもしれませんが、そのようなわけにはいきませんでした。それでも、生涯の内で最悪の状態から抜け出す最初の1歩だったのです。

また、自分で調べていなかったら、誰か私の甲状腺の病気を見付けてくれる人がいただろうかとも思いました。甲状腺機能低下症との診断を受ける前に不妊のための手術さえ受けていたんです。今では、そのようなことは必要なかったと思っています。

ロザリンが経験したような不必要な苦しみを避けるため、生殖腺内分泌病専門医に不妊の検査の一環として甲状腺の検査をしたかどうかをたずねてください。していないのであれば、検査をするよう頼んでください。

不適切なホルモン治療で不妊になる場合

すでに甲状腺が不活発であるとの診断が下り、治療を受けている場合、甲状腺ホルモンバランスの乱れの修正が不十分であったり、飲み過ぎたりして不妊が起こることがあります。甲状腺機能低下症の治療のために甲状腺ホルモンを飲んでいる人は、妊娠を試みる前に治療が適切であるかを確かめてください。量が足りなくても不妊が起こることがあります。

ある夜、私は素人の人が作った患者支援グループに、軽い甲状腺機能低下症が健康に及ぼす影響について話していた時のことです。私がスライドを映しながら、わずかな甲状腺ホルモンの不足が不妊と流産の両方の原因となる場合があると説明しているうちに、私の後ろに座っている若い女性の顔に目が行きました。彼女ははっきりとわかるほど元気付き、満たされない表情から、何やら安堵し、希望が出てきたような表情に変りました。講演の後で、彼女は甲状腺ホルモンがどの程度わずかに足りなければ排卵に影響が出るのかということについて2〜3質問をしました。そして、自分が甲状腺の病気であり、私の診察の予約を取りたいという気持ちを伝えたのです。彼女は妊娠することができず、欲求不満の状態にあり、ストレスレベルも高くなっていると言いました。1週間後、フェリシアが私の診療室にやってきました。
彼女が言うには

私は19歳の時に甲状腺機能低下症の診断を受けました。それから医師から甲状腺ホルモン剤を処方されて飲んでいます。私の甲状腺ホルモンレベルは過去8年間同じであると思います。1年に1回内科に行ってTSH検査を受けてきました。そして非常に安定した状態にありました。先生は時たま薬の量を調節したかもしれませんが、うんと変ることはありませんでした。4年前に結婚して、すぐにでも子どもが欲しいと思っていたんです。最初、私達はなるようになるさという態度を取っていました。実際に予定の日に合わせてするなんてことはあまりなかったんです。子作りに真剣になったのは結婚して1年半くらいしてからです。でも何も起こりませんでした。私はずっと婦人科医にかかっていますが、その先生がたまたま不妊の専門医だったんです。

妊娠を誘発するための薬剤治療を何度も受けましたが、うまくいきませんでした。私の甲状腺の病気が何か関係あるのだろうかと不思議に思っていたところでした。

私はフェリシアに何か他に症状がないかと尋ねました。彼女は「寝汗がひどくなって、髪が抜け、皮膚が乾いてかさかさになったのに気付いています。つまり、ブラシをかけたらカサカサの皮膚が粉みたいになって落ちてくるでしょうね。特に下肢がひどいですね」結婚生活にも重大な影響が出ていました。夫は彼女を常に責め、そのために彼女は自分に悪いところがあるかのような気持ちになっていました。
彼女はこう説明してくれました。

そのために私は女性以下であるように感じました。薬やタイミングや排卵検査などとの闘いをまったく知らない女性を妬むようになりました。

最悪だったのは、主人との間に溝が出来始めたことです。セックスはだんだん嫌な仕事になってきました。あまりにも子どもを作ることに一生懸命だったので、自然なものでも楽しいものでもなくなってしまったからです。それから、その月の終わりが来て、まだ妊娠していないとしたら、また少なくとも1ヶ月まるまるこのようなことを続けなければならないんです。もういまではすっかり嫌気がさしています。

フェリシアが持ってきた記録を調べて、彼女が0.15mgの合成L-サイロキシンを飲んでいるのに、過去2年間のTSHレベルが6.0と4.5であることに気がつきました(正常なTSHレベルは1リットルあたり0.4から4.5ミリ国際単位です)。彼女のTSHレベルが高いという事実は、彼女が十分な量の甲状腺ホルモンを飲んでいないことを示唆するものです。そうであれば、軽度の甲状腺ホルモンの不足が不妊の原因である可能性があると考えました。私はL-サイロキシンの量を0.175mgに増やし、2ヶ月待ってから排卵誘発剤を再び開始するように言いました。

2ヶ月後、フェリシアは排卵誘発剤を使うことなくすぐに妊娠しました。「私達はこれがこんなに効き目があるなんて思いもしませんでした。今まであれほどいろいろやってどれもうまくいかなかったんですから。2年間もいろんな薬を試してうまくいかなかったのがほんのちょっと薬の量を増やしただけですぐ妊娠したなんってすごいですね」

彼女が妊娠6ヶ月で再度私の診察室に来た時、彼女は幸福でしたが、同時に腹も立てていました。彼女はこう言いました。「私の内科の先生は、私が不妊症に苦しんでいることを知っていたんですよ。それがいちばん腹の立つことです。誰も甲状腺が問題だと思わなかったために、時間とお金をうんと無駄にしたような気がします」

不妊の問題がある女性は皆、甲状腺のチェックを受けるべきです。この簡単な検査で不妊に関連した苦しみや精神的ストレス、そして経済的重荷を減らすことができるのです。ほんの些細な甲状腺ホルモンバランスの乱れであっても、不妊が起こることがあり、それは治すことができます。同じように、現在甲状腺ホルモンバランスの乱れの治療を受けているか、過去にそのような病気の治療を受けた女性は、妊娠を試みる前に徹底的に検査をして貰うようにしてください。

不妊以上のこと:流産の場合

不妊と同じくらいに難しいのですが、その苦労は流産による心の傷に比べたら色褪せて見えます。流産した多くの女性、特に何度も繰り返して流産を経験した女性は大変なストレスを受け、自尊心の低下やうつ病、結婚生活の軋轢に苦しむことがあります。

習慣性流産は遺伝的な問題や様々な病気によって起こりうるものですが、甲状腺ホルモンバランスの乱れのある女性の間で高率に習慣性流産が起こることも証明されています。妊娠と甲状腺の病気との関係はかなり前から知られています。30〜40年前、繰り返し流産する女性を婦人科医は甲状腺ホルモンで治療していました。それが相当数の女性でそれ以上の流産を防ぐことになると気付いていたからです。最近の研究で、ごくわずかな甲状腺ホルモンバランスの乱れで習慣性流産が起こり、正常な妊娠の維持が出来なくなることが示されました(5)。甲状腺が不活発にならないほど軽い慢性甲状腺炎でさえ、流産に関係していることがあるのです(6)。研究では妊婦の2から3%が甲状腺機能低下症であるという結論が出ました(7)。不活発な甲状腺は流産の原因となるだけでなく、先天性異常やその他の病気の原因となることがあり、胎児と妊婦の両方の健康を損ないます(8)

エミリーは幸せな結婚をし、35歳で最初の子どもが生まれました。2年後、2人目を作ることに決め、5ヶ月前にバースコントロール用のピルを飲むのを止めました。
その直後、彼女が言うには

私は冬に備える熊のように太り始めました。唯一の違いは、私はぽっちりしか食べていなかったのと、毎日運動していたことでした。体重の問題が私の生活のすべてに影響してきました。いつもひどく疲れて落ち込んでいました。そして、ただひたすら眠りたかったのです。助けを求めることに決めた時、やせるための診療所に行ったのです。

医師は私に甲状腺腫があることを告げ、やせるためのプログラムを始める前にかかりつけの医師に診てもらうよう勧めました。かかりつけの医師から妊娠していると言われた時、私は太ったのとひどい倦怠感は妊娠のためだと思いました。妊娠ですっかり嬉しくなって、甲状腺の病気のことは無視してしまいました。

エミリーはすでに子どもの名前を考えていましたが、第1三半期〈注釈:妊娠を3つの時期に分けて、その最初の時期のことです〉の終わりに流産してしまいました。彼女はどうしてそのようなことになってしっまったのか理解できず、夫や家族に申し訳ないと思いました。彼女の罪悪感やうつ病は、通常流産によって引き起こされるものよりはるかにひどく、おそらく甲状腺機能低下症のためと思われます。

私はエミリーの話しを聞きながら、彼女を診た医師が甲状腺腫を見付けていたのに甲状腺の機能検査をしなかったのにちょっとびっくりしました。振り返ってみれば、彼女には甲状腺機能低下症の症状がたくさん出ていたのは明らかです。流産はおそらく甲状腺機能低下症に関連したものだと思われます。なぜなら、2ヶ月後に行った検査で、彼女の甲状腺が不活発であることが実際に示されたからです。

エミリーの甲状腺ホルモンバランスの乱れは早いうちに見付かりました。そのため、彼女は1回しか流産しないですみました。何ヶ月か後に、エミリーの甲状腺ホルモンレベルは治療によって正常に戻り、妊娠を継続するのに何の問題もなくなりました。数度流産したことのある女性は、甲状腺の病気の検査を受けるべきです。医師が疑いもしないような些細な甲状腺ホルモンバランスの乱れであっても、妊娠の継続ができなくなる場合があるのです。

覚えておくべき重要なポイント

  • 甲状腺ホルモンバランスの乱れ、特に軽度の甲状腺機能低下症が、見逃された不妊の問題の原因である場合があります。
  • 不妊治療を受けるために2年間費やす前に、婦人科医と甲状腺ホルモンバランスの乱れの可能性について話し合い、甲状腺の検査をして貰うようにしましょう。ホルモンバランスの乱れがTRH刺激検査でなければはっきりしない場合も多いのです。
  • 不妊のために抑うつ状態になることがあります。妊娠するという“仕事”に失敗したためです。甲状腺ホルモンバランスの乱れがあると、うつ病が悪化し、不妊からくるストレスにうまく対処できないことがあります。不妊治療を受けている間にうつ状態がひどくなるようであれば、甲状腺ホルモンバランスの乱れがある可能性も考慮してください。
  • 性欲がないのに、セックスをしなければという気持ちで板挟みになっている場合、甲状腺ホルモンバランスの乱れが性欲の低下と不妊の両方を起している犯人である可能性がることを考慮してください。
  • 甲状腺機能低下症の治療で、甲状腺ホルモン剤を飲んでいる場合、妊娠を試みる前に治療が適切であるか確かめるようにしてください。薬の量が多すぎても少なすぎても不妊を引き起こすことがあります。
  • 甲状腺の病気は見逃されやすい習慣性流産の原因でもあります。最後まで妊娠が続かないということが何度も繰り返して起こる場合、甲状腺をチェックして貰うようにしましょう。

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