第9章:それがあなたの子どもだった時

甲状腺の病気は子どもや10代には大人に比べ起こる頻度が少ないのですが、それでもこの年齢グループでは普通に見られる病気だと考えられています。子どもの甲状腺がちゃんと働いていない時、大人に見られるのとは違った影響が出てきます。例えば、甲状腺機能亢進症または機能低下症では成長や発育が妨げられることがあります。甲状腺疾患の家族歴のある家庭の子どもは、そのような家族歴のない家庭に生まれた子どもに比べ、甲状腺の病気を起こしやすいのです。したがって、家庭医または小児科医にどのようなものであれ、甲状腺の病歴があれば気を付けてもらうようにすることが大切です。こうすれば、医師が子どもの発育のパターンの変化に目を配ることができ、もっと重篤な症状が出る前に甲状腺の病気の芽を摘むこともできるかと思われます。

時に、子どもでは甲状腺の病気が成人に比べ、気付かれにくいことがあります。多くの子どもは気分が悪い時でもそれをあまり訴えず、助けを求めることもありません。しかも、正常な状態と異常な症状の違いもわからないのです。子どもの病気に気付くのは、普通、誰か他の人です。気を付けて見るのは、いらいらがひどくなったり、あるいは多動性(活動亢進状態)が増すことで、特に食餌中や就寝時間中にはっきりします(この種の多動性は子どもに多い行動障害である多動症と診断された子どもと混同しないようにしなければなりません)。学校の先生が学校での態度の変化に気付くことがよくあります。集中力の低下や手の震え、字を書くのがへたになるというようなことです。また、発育速度に変化があれば、そのことを小児科医に伝えるようにすれば、その変化が正常なものであるか、異常なものであるかを確かめてくれます。

子どもの中には何でも口に出してはっきり言う子がおり、病気の時には教えてくれます。そのような場合、どのように些細な症状のように思えても、すべて言うように気を付けて子どもに聞くようにしてください。その結果、甲状腺の病気が疑われる場合、できるだけ早く医師の注意を喚起することができます(この章の最後に、甲状腺の病気が疑われる場合に子どもにする質問の例を挙げております)。

希ではありますが、甲状腺疾患は出生時や胎内でも起こりうるものです。このような場合、医師があなたにこの問題に注意するように言うでしょうし、たいていは治療で治ります。この章の目的は、乳幼児や小児に起こることのある甲状腺疾患のタイプについて述べ、利用できる治療法の選択肢の概要についても述べることです。

胎児の甲状腺疾患

甲状腺機能低下症

抗甲状腺剤やヨード、そして時に母親の抗甲状腺抗体が胎盤を通り、赤ちゃんに甲状腺機能低下症を引き起こすことがあります。ただのヨード、これは咳止めシロップなどの薬に入っているのですが、胎児に甲状腺腫を生じることがあります。このために難産になったり、呼吸障害が起こります。この理由から、時に甲状腺クリーゼと呼ばれる極度の甲状腺機能亢進症のケース以外は、決して妊娠中にヨードを含む薬を使ってはなりません〈注釈:この記載は間違っています。妊娠中でもヨード剤を使用しても大丈夫なことは、伊藤病院の百渓先生の研究で分かっています〉

残念なことに、研究では羊水を吸引したもので甲状腺ホルモンやTSHのレベルを測定する方法が使われておりますが、胎内にいる赤ちゃんの甲状腺機能を測る簡単な血液検査がないのです。X線単純撮影でも甲状腺機能低下症の胎児での骨の発育の遅れがわかりますが、X線自体がもともとある病気よりもさらに胎児に害を与える恐れがあります。出生時の甲状腺機能低下症のスクリーニングは、現在北アメリカの全新生児に対し、ルーチンに行われていますが、これが赤ちゃんが甲状腺機能低下症であるかどうかを確かめ、また甲状腺ホルモン剤による短期または長期の治療が必要かどうかを決める最良の方法です。

甲状腺機能亢進症

胎児が甲状腺機能亢進症である場合、この病気は胎児性甲状腺中毒症として知られています。これはバセドウ病の場合に起こるように、母親の甲状腺刺激抗体が胎盤を通るために起こります。それでも、胎児性甲状腺中毒症は多いものではありません。母親自身が甲状腺機能亢進症であり、抗甲状腺剤で治療を受けているほとんどのケースで、その薬が同じように胎盤を通るので、結局は赤ちゃんも治療することになります。しかし、母親の甲状腺機能亢進症が過去に起こったもので、すでに放射性ヨードあるいは手術による治療が行われている場合、甲状腺機能亢進症は治っているのですが、まだ血液中に甲状腺刺激抗体(TSA)が残っている可能性があります。母親は何ともなく、何の甲状腺機能亢進症の症状も出ていないため、胎児の甲状腺機能亢進症が疑われるようなことさえありません。胎児が甲状腺機能亢進症であれば、胎児の心拍数は正常範囲を超え、1分あたり160から180になります。そして母親の血液中に高レベルのTSAが存在します。

バセドウ病に罹っているか、あるいはその病歴がある女性は、妊娠後期にかならずTSAの検査を受けるべきです。胎児の甲状腺機能亢進症を治療しなければ、その結果として低出生時体重や小頭症、出産中の胎児窮迫、新生児心不全、および呼吸窮迫が起こることがあります。母親に妊娠中抗甲状腺剤を投与することで〈注釈:このような場合は母親は甲状腺機能低下症になりますので、甲状腺ホルモン剤を一緒に飲みます〉、このような状況では赤ちゃんの治療をすることになります。しかし、出産後はフォローアップの検査だけでなく、赤ちゃんの治療を継続する必要があります。

新生児の甲状腺疾患

多くの人は新生児と先天性の言葉を混同し、時にはお互いに互換的に使われることもあります。医学専門用語では、新生児とは出産後最初の28日間のことを言い、先天性とは単に“生まれた時点で存在するもの”を意味します。

新生児または先天性甲状腺機能低下症

新生児甲状腺機能低下症と先天性甲状腺機能低下症とは別のものです。最初のケースは、赤ちゃんに生まれつき甲状腺がありません。2番目のケースでは、正常と思われる甲状腺を持って生まれてきますが、生後28日を過ぎてから甲状腺機能低下症の症状が出てきます。これが先天性甲状腺機能低下症として知られているもので、新生児甲状腺機能低下症と治療法はまったく同じです。この場合、生まれた時に病気はあったのですが、症状は後になるまではっきり出てこなかったものです。先天性甲状腺機能低下症は新生児甲状腺機能低下症と同じくらい深刻なものです。脳の損傷が始まるまで症状がはっきりしないことがあります。1970年代半ばに新生児の甲状腺機能低下症のスクリーニングが導入され、先天性甲状腺機能低下症の発症を予防しながら新生児甲状腺機能低下症を見つけ出すことができるようになったのは素晴らしいことです。発育と脳の発達は甲状腺ホルモンへの依存度が高いため、赤ちゃんがひどい知的障害になったり、発育や体構造の欠陥または小人症になる可能性があるのです。

新生児甲状腺機能低下症は、母親の食餌中にヨードが欠乏している場合にも起こることがあります。これは、ヨードがいつでも手に入らない世界の僻地あるいは山岳地帯ではありふれたことです。事実、ヨード欠乏症が低開発国では知的発達障害のいちばん多い原因です。幸いに、北アメリカではこのような問題はありません。ここでは食卓に上る塩はすべてヨード化されています(減塩食でも必要を十分に満たすだけのヨードが含まれています)。

しかし、出生時に甲状腺機能低下症の診断を受けても、赤ちゃんに甲状腺ホルモン剤を与えることで深刻な結果を招かないようにすることができます。このようなケースでは、知能および身体的発育は正常になります。北アメリカではすべての新生児が生後約2日目にヒールパッドテスト(踵から血を採って検査すること)を行い、甲状腺機能低下症のチェックをしています。おおよそ4,000人に1人の割合で新生児甲状腺機能低下症の赤ちゃんが生まれてきます。

ヒールパッドテストは赤ちゃんの踵をつついて血液のサンプルを採り、それを検査施設に分析のために送るものです。通常は、この検査で赤ちゃんの甲状腺が正常に機能しているかどうかが確かめられます。希な例ですが、最初に行った検査でははっきりした結果がでないことがあります。このようなことが起こった場合は、普通、検査施設の方から家庭医だけでなく、赤ちゃんが生まれた病院へも通知が行きます。そして、赤ちゃんの血液検査をもう1度行う必要があるとあなたに連絡がなされます。もしあなたの子どもが実際に生まれた時点で甲状腺機能低下症である場合、内分泌病専門医と小児科医の診察を受け、毎日甲状腺ホルモン剤を投与することになります。

生まれたばかりの赤ちゃんと一緒に退院する前に、用心のため医師にヒールパッドテストまたは甲状腺機能検査が行われたかどうかを聞きましょう。何らかの理由で検査が行われていない場合、検査を頼み、かならずその結果を自分で確かめるようにしてください。

新生児甲状腺機能亢進症

甲状腺機能亢進症は、甲状腺機能亢進症の母親から生まれた乳児にのみ起こります。ほとんどのケースでは報告されていませんが、甲状腺機能亢進症の母親から生まれた赤ちゃんの70人に1人の割合で起こります。

先に述べたように、新生児甲状腺機能亢進症は胎児の甲状腺機能亢進症が見つからなかった時に起こるものです。幸いなことに、このタイプの新生児の甲状腺機能亢進症は、赤ちゃんの血液中に母親の抗体が残っている間しか続きません。通常、3から12週間です。ほとんどの甲状腺機能亢進症の女性はごく低いレベルのTSAしか作らないので、この病気は軽いのが普通です。

たまに、出生時に甲状腺機能亢進症が重篤な場合、飛び出した目や過敏性(普通よりひどい)、赤みの強い皮膚、そして頻脈など典型的な甲状腺機能亢進症の症状を赤ちゃんがすべて備えて生まれてくることがあります。このような赤ちゃんは身長が高く、やせている傾向があり、食欲旺盛であるにもかかわらず、ちっとも体重が増えないことがあります。また頭蓋骨にも奇形がある場合があります。一部の胎児はこの病気のために生まれる前に死んでしまいます。甲状腺機能亢進症の乳児はかならず抗甲状腺剤で治療されます。放射性ヨードは決して乳児に与えられることはありませんし、病気自体が8から12週間の経過しかとらないため、乳児に甲状腺切除術を行う必要はありません。しかし、時に非放射性ヨード(すなわちただのヨード)が使われることがあります。

小児の甲状腺疾患

先天性甲状腺腫

子どもには数種類の先天性甲状腺腫があります。これらのケースでは、甲状腺機能は普通正常であり、唯一の異常が非常に大きな甲状腺腫です。治療法は、甲状腺ホルモン剤の投与ですが、これによって脳下垂体のTSH産生が遮断されるため、甲状腺腫が小さくなります。甲状腺腫は特にちょうど生理が始まる頃の思春期の女子に多く見られます。《第7章》でも述べましたが、エストロゲンにより血液中の結合サイロキシンレベル(活性または遊離サイロキシンと反対に)が増加することがよくあり、エストロゲンレベルはちょうど生理が始まるころにピークに達するのです。

時に、子どもの首に甲状腺腫があるように見えることがありますが、実際のところ、この腫れは皮下脂肪が多いか、あるいは甲状腺内の1個またはそれ以上のしこり、または結節が成長したために起こるものです。子どもがものを飲み込む際に子どもの喉仏と一緒に動かないようであれば、それが皮下脂肪であることがわかります(誰にでも喉仏はあり、男性では思春期に大きくなるだけです)。大きくなった皮下脂肪は無害です。もし結節がある場合は、結節ががん性のものに変化しているかもしれませんので、すぐに検査をうけるべきです。《第5章》でも述べたように、子どもに甲状腺結節が生じた場合は、統計学的に良性より悪性である確率が高いのです。子どもの甲状腺がんについてはこの章の後の方で述べます。首の前の方に腫れがある子どもはすべて、できるだけ早く医師の診察を受けるべきです。

橋本甲状腺炎(慢性甲状腺炎)

小児と10代の若者に見られる甲状腺腫の原因で、一番多いのは橋本病です。これは普通、6歳以上の子どもで、甲状腺疾患の家族歴のある女の子に起こります。甲状腺腫以外は、橋本病が進行しない限り、他に甲状腺機能低下症の徴候はないのが普通です。子どもの橋本病は早期に見つかるのが普通ですが、これは甲状腺腫がどこか悪いところがあるというはっきりした徴候となるからです。小児や10代の若者では、橋本病の治療は大人と同じです。一生涯甲状腺ホルモン剤を飲むことになります。治療を開始すれば、甲状腺腫は小さくなりますが、子どもでは甲状腺腫がかなり大きくなるので、小さくなるのに少々時間がかかることもあります。一般的に、子どもの橋本甲状腺炎は身体的にも精神的にも不可逆性の発育障害を起こすことはありません。甲状腺機能低下症が診断されないでいれば、正常な発育をひどく妨げることがあります。しかし、重症のケースであっても、治療すればすぐに発育は正常に戻ります。そして、甲状腺機能低下症により引き起こされた有害な影響は何であれ、元に戻せます。

私がインタビューを行ったある母親は、まったく健康であった娘が9歳で突然成長が止まったと話しました。彼女は不思議に思って子どもをかかりつけの小児科医のもとに連れていき、ただそういう“時期”にあるのだと言われました。甲状腺の病気のことを知らず、また甲状腺の家族歴もなかったため、その母親は小児科医の診断を受け入れました。2年ほど成長が止まった後で、いつもは明るい女の子が信じられないほどのろまになり、疲労するという徴候を見せ始めました。彼女は情報を覚えていることができず、短期記憶の喪失があるようでした。さらに、子どもが物事にまったく集中できないように見えました。そして、ひどくむくんできました(これは《第2章》で説明した粘液水腫の古典的な症状です)。その母親は数件の医師を回ったあげく、やっと小児病院で内分泌病専門医に紹介されました。その内分泌病専門医は直ちに重症の甲状腺機能低下症であるとの診断を下し、その子に甲状腺ホルモン剤を投与しました。何日かの内に子どもは気分がよくなり、この時点で12歳だったのですが、正常な成長と発達が始まりました。今ではまったくの健康体です。この例外的な話しは、甲状腺機能低下症が子どもの発達にひどい悪影響を与えることがあっても、完治できる病気であることを教えてくれます。この母親は甲状腺ホルモン剤は奇跡の薬であると言っておりました。

バセドウ病

バセドウ病も子どもに起こりますが、普通は12歳以降に発病します。子どもでは目の合併症は希ですが、起こる可能性はあります。通常は、血液中の甲状腺ホルモンの作り過ぎにきわめて敏感な子どもにバセドウ病が起こります。その結果、子どもはすぐに非常に具合が悪くなります。子どもの甲状腺機能亢進症の症状ははっきりわかることがあり、甲状腺腫や突き出した目は見てわかる徴候です。しかし、症状がもっと軽微で、ゆっくりと発症することも多く、例えばいらつきなどはなかなかわかりにくいのです。注意して見る必要があるのは、異常な疲れやすさ(消耗から来るものです)や衣服がすぐに小さくなることで示される急激な成長が突然に始まること、子どもが暑い天候を急に嫌うようになることで示される暑がり、あるいは爪の成長が速くなることなどです。心悸亢進やひどい発汗などの古典的な成人の症状は子どもでは気付かれないのが普通ですが、抱いたり、風呂に入れたりして毎日子どもと接触している親が気付くことがあります。子どもが何かスポーツをしている場合、肩や腿の筋肉が弱くなるのも気を付けておかねばならない徴候です。最後に、子どもが異常に感情的(例えば、理由もなく泣いたりする)場合、その犯人はおそらく甲状腺機能亢進症です。

バセドウ病の子どもが具合悪くなった時は、その病気の原因をできるだけ早く調べます。甲状腺機能検査は、悪いところを見つけるために小児科医がルーチンに行う検査です。しかし、甲状腺スキャンは不必要な放射線被爆を避けるため、子どもにはめったに行われません。診断がつけば、治療が開始されます。甲状腺ホルモンのレベルが正常に戻れば、子どもはまた元気になります。子どものバセドウ病が、正常な成長や発達に永久的な傷害を与えることはないのが普通です(時に骨の発達が影響を受けることがあります)。バセドウ病が診断されないままであれば、一次的に何らかの問題が子どもに生じるかもしれませんが、それは治療で元に戻ります。例えば、甲状腺機能亢進症の結果として起こる急激な成長は、その後長期間成長が止まることで相殺されます(子どもに目の合併症があれば、長期的に永久的な視力障害が起きることがあります)。

ただし、子どものバセドウ病の治療は大人とは違います。抗甲状腺剤がまず最初に選択されますが、これは子どもの甲状腺が放射線に感受性が高く、そのため放射線の被爆の結果、腫瘍が生じてくる可能性があるため、通常、放射性ヨードは子どもや思春期の若者には使わないからです。大抵の場合、甲状腺機能亢進症は2〜3週間以内に治まってきます。しかし、時に数ヶ月間抗甲状腺剤を飲まなければならない子どももいます。心拍数を減らすためにプロプラノロールが時に使われます。ただし、一部の子どもは抗甲状腺剤にアレルギー反応を起こします。アレルギーは発熱や蕁麻疹、あるいは皮膚の発疹などの形で出るのが普通です。抗甲状腺剤を飲んでいる子どもの300人に1人は無顆粒球症と呼ばれる病気を起こしてきます。これは、子どもの白血球数が著しく減少し、免疫系に悪影響を及ぼします。子どもが抗甲状腺剤を飲んでいる場合、喉の痛みや口内炎、発熱のような症状には気を付けておくようにしてください。もしそのような症状が出た場合、直ちに医師に知らせ、抗甲状腺剤をすぐに中止するようにしてください。この時点で、甲状腺機能亢進症がまだ治まっていない場合、甲状腺切除が行われることがあります。

時に、子どもではバセドウ病が大人の場合よりずっと重篤なことがあります。このため、抗甲状腺剤をまったく使わないで、唯一の方法として勧められるのが甲状腺切除術であることもよくあります。甲状腺切除を受けた後、子どもが甲状腺機能低下症になった場合、生涯甲状腺ホルモン剤を飲むことになります。子どもの甲状腺切除は安全なのが普通ですが、子どもは小さくて手術が難しいため、カルシウムレベルをコントロールしている副甲状腺を傷つけてしまうことがあります。このようなことが起こったら、子どもは生涯カルシウム剤を飲むことが必要になるかもしれません〈注釈:実際は、ビタミンDを飲むのです。ただ、カルシウム剤だけ飲んでも効きません。ビタミンDは、摂取したカルシウムを腸から吸収させる作用があります〉。もう一つの危険性は、うっかりと声帯を傷つけてしまうことです〈注釈:この記載も正確には間違いです。声帯を動かす反回神経を傷つけることです〉。これでしゃがれ声になることがあります。はっきり言っておくべきですが、医師がミスをおかすことはめったにありません。しかし、親に放射性ヨード治療も選択肢として勧める医師も時々おります。

亜急性甲状腺炎

時に、年齢の高い子どもに甲状腺の炎症が起こることがあります。普通、これは何らかのウィルス感染の後遺症です。子どもは典型的な風邪の症状を訴えますが、首に甲状腺腫または圧痛が見られます。これは一次的なもので、アスピリンかコルチゾンで治療できます。もっと詳しいことは《第4章》をご覧ください。

子どもの甲状腺がん

今、多くの子どもたちが甲状腺がんの診断を受けています。特にチェルノブイリ原発事故の結果、ロシア、ベラールーシ、ウクライナで多くなっています。核実験や原発事故のどちらからも放射性降下物が出ますが、これがこの世界的な小児甲状腺がんの増加の犯人であることが突き止められました(《第6章》《第11章》参照)。もし、家族や友人にチェルノブイリ事故の結果生じた子どものがんに取り組んでいらっしゃる人がいれば、誰か翻訳できる人に本書のこの項と他の部分の内容を伝えてください。このような情報は現場では手に入らないのです。そして、情報を伝えるべきなのです。

甲状腺がんの検査

《第6章》で述べたように、甲状腺髄様がんは家族内に伝わるタイプの甲状腺がんです。これは比較的希ではありますが、それでも北アメリカで約50,000人が罹患しています。最近、新しい血液検査で出生時に甲状腺髄様がんのスクリーニングができるようになりました。この血液検査はルーチンに行われるものではありませんが、この種の甲状腺がんに罹りやすい傾向のある家族では、新生児の甲状腺髄様がんに関係した遺伝子の検査を受けることができます。この検査は99%の精度があると考えられています。この検査はミズーリ州セントルイスのバーンズ病院のチームが開発したものですが、ここでは甲状腺髄様がんの様々な研究が行われています。このチームは甲状腺髄様がんの病歴のある2家族の研究で、家族内の47名の人のがん検査を行った結果を報告しています。5名の成人にすでにがんが生じていることがわかりました。その家族内の子ども5名がそのがんを起こす遺伝子を持っていることがわかりました。これはその子どもたちが成長した時にがんを生じ易いということを意味します。

一般的に、家族内に誰であれ、この種の甲状腺がんに罹った人がいれば、あなたの赤ちゃんにこの血液検査をしてもらうようにすべきです。赤ちゃんの検査がプラスであっても、赤ちゃんが甲状腺がんであるという意味でなく、ただ将来甲状腺がんになる可能性があるということです。子どもが10代になったら、このタイプのがんを定期的にスクリーニングしてもらうようにすべきです。《第6章》でも述べましたが、このタイプのがんは早期に発見すれば、手術や放射性ヨード〈注釈:甲状腺髄様がんには放射性ヨードは効きません〉でほぼ間違いなく治すことができます。

子どもが甲状腺がんの診断を受けた時

《第5章》《第6章》で述べたように、子どもの甲状腺またはその周囲に硬く、痛みのないしこり、または結節があれば、甲状腺がんの疑いがあります。子どものしこりの中には甲状腺炎によって引き起こされたものや、結局は良性の嚢胞であるとわかるものもありますが、子どもの甲状腺やその周囲にしこりが見つかった場合は、そのしこりががん性である可能性が高いのです。

子どもの甲状腺結節の調べ方は、大人のものと同じです。したがって、放射性ヨードも使われます(《第5章》参照)。このような場合、甲状腺がんのリスクの方が放射性ヨードで起こるかもしれないリスクよりも大きいと考えられるからです。結節が悪性であるとわかった場合、治療は手術の後に放射性ヨードを使って行われます。繰り返しますが、甲状腺がんのリスクの方が大きいため、“子どもには放射性ヨードを使わない”というルールの例外となります。さらに、子どものがんがもっと進んでいて重症のケースでは、放射線の外部照射が必要なこともあります《第6章》で甲状腺がんの治療法を詳しく述べています)。治療の後、子どもは生涯甲状腺ホルモン剤を飲む必要があり、最初の数年間は3ヶ月から6ヶ月毎にフォローアップを受ける必要があります。

いちばん難しい部分は、子どもにがんであることを告げることです。普通の場合は、子どもの主治医から親や保護者に知らされます。そして、子どもにそれを告げるのは親や保護者の役目となります。どのがんでもそうですが、ほとんどの子どもは、十分に理解できるほどの年になっていれば、その言葉自体を恐ろしがるでしょう。しかし、いちばん悪いのは子どもに病気のことについてうそをつくことです。どの子どもも理解の程度は様々ですが、10歳以下の子どもに対しては、ほとんどの場合、甲状腺の手術を受ける必要があると告げるのがいちばんよい方法です(本当に幼い子どもであれば、甲状腺が病気になったので、手術が必要だと言うことができます)。それから、優しく子どもにこれから先起こることに対しての心構えをさせるようにします。子どもが手術室に行く時に、パニックにならないように、ちょうど冒険物語のように病院旅行のお話で説明した方がよいと思うかもしれません。子どもが過去に扁桃腺を取ってもらったことがある場合、それを引き合いに出して、甲状腺の手術はそれと同じようなものだと言ってもよいでしょう(扁桃腺切除術がひどい経験でない限りは)。

学齢前の子どもであれば、お気に入りのぬいぐるみの動物か、人形を病気に見立てた治療ごっこの方法も使うことができます。その動物か、人形も手術が必要なので、一緒に病院に行くのだと説明し、工作紙で甲状腺を切り抜いて、その動物か人形に貼り付け、やさしい言葉で、動物や人形の甲状腺の働きや、なぜその甲状腺の手術が必要なのかを説明します。おそらくあなたが子どもを手術のために病院か、総合病院の小児科病棟に連れていくことになるでしょうが、そのような病院や小児病棟には子どもと仲良くなって、子どもの恐怖を和らげ、質問に答えてくれる子ども専門のソーシャルワーカーや心理療法士、あるいはチャイルドケアワーカーが配置されているのが普通です。また、病院で他の子どもと会う機会もあり、子どもがさびしい思いをしなくてすみます。疑いなく、あなたの子どもはもっとひどい病気の子どもに病院で出会うことになります。白血病や嚢胞性線維症、心臓病、腎不全、エイズなどに罹っている子どもたちです。そのような子どもたちと出会うことで、他の子どもたちに比べ、甲状腺の手術がどれ程簡単なものかが理解しやすくなるでしょう。

放射性ヨード治療も病院で行われます。小さい子ども(10歳以下)に対しては、放射性ヨードは病気を治すための特別なカプセルまたは液体(子どもがカプセルか液体のどちらを投与されるかに応じて)だと説明してもよいでしょう。かならず、そのカプセルや液体が害のないものだという事実を強調してください。隔離や治療後の注意事項を説明するのに、その特別なカプセルまたは液体が効き目を現すためには、非常に特殊な指示に従わねばならないのだと説明できます。それから、いろいろな注意事項や隔離の手順について、“特殊な指示”としてただありのままに説明してください。親または保護者の中には、幼い子どもに対して特別という言葉の代りに魔法という言葉を使いたがる人がおりますが(例えば、“魔法のカプセル”とか“魔法の液体”)、これはよい方法ではありません。

そのことで何が本当で、何がおとぎ話なのかという子どもの認識を混乱あるいは歪めてしまうおそれがあります。さらに、“特殊”という方が“魔法”というよりも放射性ヨードの解釈により近いものです。魔法という言葉は科学よりむしろ魔術を連想させるものです。もっと大きい子どもあるいは科学に興味を持つ子どもに対しては、放射性ヨードのことをもっと科学的な用語を使って説明することができます。そして、実際に子どもに放射性物質について教えることになります(もっと詳しいことは《第11章》をご覧ください)。この分野についてあまり詳しくないと感じた場合は、子どもと一緒に放射能のことについての説明が載っている科学の本を見るか、学校の先生に頼んでそれがどのように作用するのかすべて説明してもらうようにしてください。あなたと学校の先生とで、子どもが自分で放射能について調べ、放射性ヨードや放射能についてクラスで話すスペシャルプロジェクトの監督をすることもできます。

子どもが外部照射療法も受けなければならない場合、小さな子どもに対しては、放射線のことを病気を治すための特殊な光、またはエネルギー光線だと説明してください。また、この光またはエネルギー光線のせいでとても喉が痛くなるという事実にも心構えをさせておかねばなりません。子どもが今までに扁桃腺炎に罹ったり、扁桃腺切除を受けたことがある場合、その痛みが扁桃腺炎や扁桃腺を取った時のものと同じだと説明してください。繰り返しますが、もっと大きな子どもや科学狂の子どもには、もっと科学的な説明をする方がよいのです。

大きな子どもやもっと大人びた子どもに対しては、大人と同じように扱ってください。保護しようとしたり、赤ん坊みたいに扱わないようにしてください。これは「あなたはがんに罹っている」とはっきり言うことではなく、なぜ手術が必要なのか、それで何が起こるのか、そしてその後でどのような治療が必要になるのかをきちんと話すということです。

甲状腺ホルモン剤を飲んでいる子ども

子どもが甲状腺機能低下症または機能亢進症のどちらかであるか、あるいは甲状腺がんの治療を受けた場合、最終的に甲状腺ホルモン剤が生涯にわたって処方されることになります。子どもは成長と発育をし続けているため、甲状腺ホルモン剤を飲んでいる子どもは少なくとも6ヶ月に一度は用量をモニターしてもらう必要があり、時折用量の調整が必要なことがあります。家庭医や小児科医が子どもの甲状腺ホルモン剤の用量を管理することになる場合が多いのですが、思春期に達する前は内分泌病専門医に紹介してもらう方がよいでしょう。そうすれば、薬の量が多すぎたり、少なすぎたりするために性的発達に何か異常が起きても、すぐに調べて対処することができます。甲状腺ホルモン剤を飲んでいる女の子では、月経が始まったら婦人科(内分泌病専門医に加え)の診察も受け始める方がよいのです。そうすれば、月経や気分の浮き沈み、周期などに問題が起きても、専門的な対処ができます。

甲状腺ホルモン剤を飲んでいるもっと小さな子どもに対しては、がんの項で述べたような治療ごっこの方法をここでも応用することができます。例えば、気分がよくなるためには毎日甲状腺ホルモン剤の錠剤を飲む必要があることを子どもが理解することが大切です。子どもには、甲状腺ホルモンの錠剤を一種のビタミン剤だと言ってもよいでしょう。学齢前の子どもには、ぬいぐるみの動物または人形も薬を飲まなければならないのだと説明することができます。ここでも、大きな子どもはもっと科学的な説明の方に反応します。

幼児、よちよち歩きの子ども、および錠剤を飲めないもっと小さな乳児に対しては、錠剤を砕いて食べ物に混ぜることができます。他の錠剤と違い、甲状腺ホルモン錠は苦くありません。甘い味がするので簡単に分からなくすることができます。事実、甲状腺ホルモン錠はかみ砕きやすく、かんで飲めるビタミン剤と同じです(ただし、この事は普通、ラベル上に表示されていません)。子どもが錠剤を飲み込まずにかみ砕いて飲んでもよいのか医師に尋ねてください(多分大丈夫なはずですが、2重にチェックした方がよいでしょう)。

また、子どもに自分で薬を飲むことに対し、責任を持つように教えることも大切なことです。子どもに毎日甲状腺ホルモン剤を飲むよう習慣付けるため、曜日毎にスロットの付いたピルボックスを求めてもよいでしょう。あるいは、カレンダーから子どもが自分で薬を飲んだ日付を消していくようにさせてもよいでしょう。そうすれば薬をきちんと飲んでいるか確かめることができます。

一般的に、甲状腺の病気のある子どもは、治っているにしても、この病気は生涯続くものであることを理解しなくてはなりません。甲状腺機能低下症の子どもに対しては、薬を止めたらすぐに甲状腺の病気が再発するということを理解しなければなりません。甲状腺機能亢進症で、抗甲状腺剤を飲んでいる子どもも同じ結果に直面します。最後に、甲状腺機能亢進症か、がんのために甲状腺を破壊したり、手術で取り除いた子どもは、薬を止めると甲状腺機能低下症になるということを理解しなければならないのです。

適切な質問をすること

親として、子どもの症状を医師に伝えることができるのはあなたです。あなたは医師と子どもの間の仲介者です。あなたは子どもの甲状腺疾患を診断に重要な役割を持っています。誤診を防ぐ第1歩は、かならず子どもがかかっている医師に家族歴をすべて話すことです。甲状腺疾患が家族に伝わっている場合、医師は成長の異常などある種の症状に特に注意を払うでしょう。

次に、疑わしい症状や徴候に気付いた場合、子どもを座らせて、どんな具合か本当のところを聞くようにしてください。ここに一連の質問のサンプルを挙げます。

  1. この頃、疲れている(または感情的な)ように見えるけど、今日は具合はどうなの?
  2. よく眠った? 夢を見ていたの?(夢は子どもがREM睡眠、すなわち深い眠りに達したことを示します。眠れないのは甲状腺機能亢進症の徴候であり、眠り過ぎるのは甲状腺機能低下症の徴候です)
  3. いつ目が覚めたの? まだ眠いの?
  4. 前にお通じがあったのはいつだったっけ?
  5. お通じはどうだった? おかゆみたいにやわらかかった、それとも硬かった? 色は薄かった、それとも濃かった?(これは下痢や便秘の徴候を知る助けとなります)
  6. お腹いっぱい食べてるように感じる? ご飯を食べた後、お腹いっぱいに感じるそれともまだお腹が空いてる?
  7. 夜寒く感じたり、暑すぎるようなことはないの?
  8. 何もわけはないのに悲しくなったことはある?
  9. 走り回ったり、遊んだりした後で疲れたと感じるの?
  10. 時々心臓が速く打つことに気づいているの?

これらはあなたの疑いを確かめる必要がある一般的な質問です。《第10章》で述べますが、推測から診断を導き出すため、できる限り多くの情報を子どもの医師に伝えることが大切です。《第10章》では、あなた自身の主治医であるか、子どもの主治医であるか、それとも祖父母の主治医であるかにどうかにかかわらず、医者を思い切り利用する方法について述べることにします。

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