第14章:高齢者の甲状腺の問題

ここに2つの非常にはっきり異なったタイプの甲状腺機能亢進症があり、非定型的なタイプを無表情性甲状腺機能亢進症と呼んでよいかもしれない。これには目に現れる徴候も甲状腺腫もなく、頻脈や心臓の動きの異常に襲われることもない。
また、基礎代謝速度は遅く、明らかな活動化反応はない。そのため、長い間には診断されず見逃されることも少なくない。

Lahey FH. 非活動性(無表情性)タイプの甲状腺機能亢進症
New England Journal of Medicine, 1931; 204: 747

65歳以上で甲状腺の病気が生じた場合、20、30歳代の若い時に比べ、気がつかないまま進む可能性が高くなります。これは高齢者の甲状腺機能亢進症や低下症の症状や徴候が非常に現れにくく、若い人のものとは異なっているためです。老化に伴って起こる体の中の身体的変化によって甲状腺ホルモンの作用のしかたが変わってくることがあります。
また、新しい家庭医を持つ可能性もあります。前の先生が仕事を止める場合もあるでしょうし、あなたが引っ越したのかもしれません。もし、そうであれば新しい先生はあなたのことをよく知らず、新しく生じた甲状腺の病気の些細な変化を見逃す可能性があります。

甲状腺機能亢進症

一度甲状腺機能亢進症が疑われたら、その診断は若い人と同じように簡単につくはずです。血液検査ではTSHの濃度が低いか、あるいはまったく存在せず、一方で甲状腺ホルモンレベルが増加しています。放射性ヨードの取り込みが増加しており、甲状腺スキャンで甲状腺全体に弥漫性の取り込みが見られたら、その病気はバセドウ病です。
スキャンで1つ、またはそれ以上の活動している孤立性の領域が見られたら、その病気が中毒性甲状腺結節、あるいはプランマー病であることを示しています。

治療上の重要な相違

医師は高齢者に生じた甲状腺機能亢進症の治療には、おそらく非常に慎重になると思われます。というのは、さらに甲状腺ホルモンレベルが上がることによって、内在する心臓病が悪化する恐れがあるからです。医師が年齢の若い人の甲状腺機能亢進症を、アテノロールやプロプラノロールのようなベータ遮断剤で頻脈のような症状をコントロールしながら、放射性ヨードで治療することは珍しくありません。しかし、高齢者では、医師は放射性ヨードの使用にもっと慎重になる傾向があります。これは、この治療法によって一次的に甲状腺ホルモンレベルが増加することがあり、そのため不整脈やアンギーナを誘発する可能性があるためです。したがって、医師は抗甲状腺剤(PTU〈注釈:日本ではプロパジールまたはチウラジール〉またはタパゾール〈注釈:日本ではメルカゾール〉)で治療を始める方法を選ぶと思われます。4から6週間ほどこれらの薬剤を飲めば、甲状腺ホルモンレベルは正常になるはずです。この時点で医師は抗甲状腺剤を中止し、数日後に放射性ヨードを使って治療することができます。放射性ヨードが活動し過ぎの甲状腺を永久的にコントロールするには2〜3ヶ月かかるので、この間に甲状腺ホルモンのレベルが再び増加するようなことがあれば、医師が甲状腺の機能をコントロールし、心臓の合併症を防ぐために抗甲状腺剤を一次的に再スタートするか、またはベータ遮断剤を処方することがあります。

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症は、高齢者ではなおさら気付くのが難しくなります。しかし、高齢者では甲状腺機能亢進症よりずっと多いのです。フラミンガムの研究として知られている大規模な継続中の集団調査では、60歳までに女性の16.9%、男性の8.2%に血液中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)レベルの上昇が現れており、甲状腺の機能が落ちてきている徴候があることが報告されています。その他の世界中で行われている研究を見ると、これらの人の多くが実際に甲状腺機能低下症に進行することが示されています。

甲状腺機能亢進症がそうであるように、機能が落ちつつある甲状腺の症状は些細なものであり、高齢者では簡単に見逃されてしまいます。ある程度の疲労や寒気、便秘、忘れっぽさ、筋肉のつり、髪が抜ける、そしてうつ病は年を取るにつれてそうなるものと思われていますが、本当は甲状腺の機能が落ちている徴候である場合もあるのです。

簡単な診断

甲状腺機能低下症が疑われたら、普通、診断を確かめるためにはTSHの血液検査だけですみます。
脳下垂体は機能が落ちている甲状腺を刺激しようとするため、TSH濃度が増加します。TSHが増加していれば、医師が治療に必要な甲状腺ホルモンの量を定めるために、甲状腺ホルモンのレベルも測定し、甲状腺の機能不全の程度を知ろうとするでしょう。

甲状腺の治療:少ない量から始めて、ゆっくりと量を増やしていく

心臓病が潜在している可能性があるため、医師はおそらく非常に低い量のサイロキシン投与で、甲状腺機能不全の治療を始めるようにするでしょう。1日おきにわずか25マイクログラムの投与量で治療を開始し、TSHレベルが正常になるまで毎月徐々に量を増やしていくやり方は珍しいものではありません。そのようなやり方であれば、アンギーナや不整脈のあるような患者でも普通は容易に治療に耐えることができ、甲状腺ホルモンレベルが正常になってくるにつれて、大多数の患者では心臓の状態の改善もみとめられます。

甲状腺結節とがん

年を取ってくると、甲状腺結節ができやすくなってきます。多くは非常に小さいもので、普通の健康診断ではめったに気付かれることはなく、また幸いなことにがんを含むものはほとんどありません。しかし、医師が甲状腺にしこりを見つけた場合は、甲状腺ホルモンとTSHの血液検査、そして放射性ヨードによる甲状腺スキャンで調べることを勧めるでしょう。スキャン画像上で、結節へのヨード集積が正常であることがみとめられたら、そのしこりが無害なもので、おそらく医師は定期検診時に頚部を再チェックし、甲状腺機能低下症をみるためにTSH検査を行うだけでよいとするでしょう。

甲状腺スキャンで、結節内へのヨード集積がみとめられない場合、結節内にがんがないかどうか調べるため、細針生検を勧めることがあります。生検標本内にがん細胞が見付かったら、結節は取ってしまわなければなりません。そして、放射性ヨードによる追加治療が適用されることもあります。幸いに、これらの治療は普通の場合、高齢者に重大な危険性を及ぼすものではありませんし、病気は治癒するのが普通です(甲状腺結節の診断と治療に関する詳細については《第10章》)。

まとめ

高齢者の甲状腺の病気は、一度疑われたらその診断の確認と治療は簡単であるのが普通です。問題は、病気が徐々に、しかも知らぬ間に起こるため、あるいはそのような症状があっても加齢の正常な現れとして受け入れられてしまうために、気付かれないまま過ぎてしまうことです。

50歳以上の女性と60歳以上の男性はすべて、また特に家族の中に甲状腺疾患や自己免疫に関連した病気に罹った人がいる場合、定期検診時に甲状腺の診察と時々TSHの血液検査を受けるようお勧めします。また、そのような家族歴のある人は時々血液中のビタミンB12のレベルを測定も受けるべきです。甲状腺疾患を起こしやすい家族では、ビタミンB12欠乏症は珍しくなく、またなかなか気付かれないものですが、それでも貧血や神経学的、あるいは精神的に変化を起こすことがあり、ビタミン剤で治療できますし、治ることが多いのです《第9章》
最後に、あなたが甲状腺、あるいは自己免疫性疾患のある若い人であれば、これらの指標を使って高齢の親族の中から甲状腺の病気の人を見分ける助けとなるでしょう。

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