第8章:あなたの家族はどうですか?

バセドウ病や橋本病は遺伝性の病気で、このような病気になりやすい傾向を父親か母親の片方から遺伝子の中に受け継いでいます。その親や、血のつながりのある他の親族の中に、すでにあなたと同じように活発すぎる、あるいは不活発な甲状腺がある人がいる可能性があります。その一方で、彼らには過去にも現在も甲状腺に何の問題も認められない場合もあります。しかし、これらの親族はバセドウ病に対してあなたと同じ遺伝的傾向を持っているため、気付かれないままの甲状腺の異常があるかもしれません。そして、それはあなたが発見の手助けをすることができるのです。

甲状腺機能障害の遺伝的傾向のある年齢の若い親族に、甲状腺の病気が起きた時は、大体活発すぎる甲状腺であることが多いようです。普通はほとんど気付かれないのですが、訴えに関してはかなりはっきりしており、神経質や心悸亢進、手の震え、体重減少、そしておそらく目の突出など、あなた自身が経験したのと同じ症状が含まれることになります。その一方で、他の親族-特に両親や祖父母のような50歳以上の人-には甲状腺機能低下症があることがあります。甲状腺機能低下症の症状は軽いことがあるため(寒く感じる、疲れ、エネルギーがない等)、これらの年配の親族はこれらの症状を“老化”の徴候としてただ受け入れている場合があります。そうではなくて、そのような症状が甲状腺機能低下症のためである場合、甲状腺ホルモンによる治療を受けると気分がよくなり、さらに健康になったと感じるはずです。そのような人の甲状腺は2つの理由から機能不全になりつつある可能性があります。まず、もっと若い時に不顕性の甲状腺機能亢進症があり、病気の自然経過で現在甲状腺機能低下症の方に向かって進行中である場合です。もう一つは、甲状腺が橋本病-慢性リンパ球性甲状腺炎-のために機能不全になりつつある場合です。

新しい研究から、家族の中で甲状腺の病気になりやすい傾向を遺伝的に受け継いだ一部の女性の助けとなるもう一つの新しい方法が提案されています。これらの女性は、妊娠後に甲状腺の機能障害を起こしてくるリスクが高く、そのため産科医や家庭医に家族的素因について言っておくことがそのような人にとっては助けになるはずです。甲状腺機能障害が気付かれないまま進んでいくようなことを最小限にするため、出産後何ヶ月かの内に診査とTSHの血液検査を受けるべきです。《第13章》でも述べますが、産科医は産後に甲状腺の病気を起こす危険性のある女性を見分け、生まれてくる子どもに甲状腺の機能障害の危険性があるかどうかを見るために、妊娠中に抗甲状腺抗体の血液検査を指示する場合があります。

これにはもう一つ別の面があります。この甲状腺のトラブルを起こす傾向を受け継いでいるあなた自身と親族全員が、それ以外のある種の病気を起こす確率も普通より高いのです。《第9章》でもっと詳しく説明しますが、体の様々な部分に関わっており、以下のようなものが含まれます。

毛髪 若白髪 30歳以前に白髪が見られる人は誰でも、“若白髪”とみなされます。
円形脱毛症(斑状の毛髪の喪失) 軽く、一過性のことが多いのですが、範囲が広く、長く続くことがあります。普通は頭部に現れますが、ひげなど他の毛のある部位に出ることもあります。
皮膚 白斑症(皮膚上の白い斑) 痛みのない白い領域が指関節や手首、ひじ、および首などに対称的に出ることが多い。
血液 悪性貧血(ビタミンB12の欠乏による貧血) 貧血(赤血球の減少)で、他の原因による貧血がないもの。
関節 慢性関節リューマチ 痛普通、対称的な変形を伴う関節炎で、特に手、手首および足が罹りやすい。朝のこわばりが一般的な訴えです。
眼球突出症(目の突き出し) 程度が軽い場合は、上の瞼が上がるだけの場合もあります。
代謝 糖尿性糖尿病(糖尿病) 普通、若年で始まり、インスリンによる治療が必要です。

糖尿病や若白髪になった人が皆甲状腺の問題を生じるようになると言おうとしているのではありません。むしろ、このような病気はバセドウ病や橋本病のある人とその親族に一般集団より高い頻度で起こる傾向があるということを言っているのです。この観察から考えて、その頻度はおそらく2倍であると思われます。
最初に、医師は治療が必要と思われるこれらの病気の一つが生じることに対して、あなたやあなたの家族をもっと注意を払って見るようになるでしょう。悪性貧血はそのような病気です。
最初は毎日ビタミンB12の錠剤を飲むことでコントロールできることもありますが、最後は毎月ビタミンB12の注射が必要になるのが普通です《第9章》
2番目に、このような病気の中には、甲状腺機能低下症よりはっきり出るものがあり、そのような病気の存在により、年配の親族の誰が甲状腺の問題の検査を受けるべきかをあなたや医師が知る手がかりを与えてくれます。家族全員が検査を受けなければならないわけではありません。多くの親族にとっては時間とお金の無駄になるからです。しかし、甲状腺に問題を起こすリスクの高い人を家庭医に見せるように勧めることはできますし、おそらくそうすべきでしょう。

バセドウ病に罹っている若い女性の家族の中で、甲状腺やそれに関連のある病気の捜し方は、この章の仮想家系図に示してあります[図26]

この家族の甲状腺の病気は、母親の父から母親に、そして患者に遺伝しているようです。したがって、患者の母方の叔母と叔父は、父親から遺伝子の半分を受け継いでいるので甲状腺の病気の診査を受ける必要があります。白斑症と甲状腺腫のある叔父と糖尿病のある叔母は、甲状腺の病気の徴候やそれに関連した病気の徴候がなく、明らかに健康な患者の叔母に比べ、後になって甲状腺機能低下症を起こしてくる可能性が高いと思われます。患者の母親は、若白髪があるためだけでなく、甲状腺機能亢進症の娘がいることで、甲状腺の問題を起こす“危険にさらされている”のです。

甲状腺機能亢進症の患者の兄弟の一部と患者の子どもの内一人は、すでに甲状腺の病気になりやすい傾向を遺伝している徴候を示しています。しかし、実際に治療が必要な問題(甲状腺機能亢進症)を生じたのは姉一人だけです。

誰が検査を受けるべきでしょうか?

甲状腺機能低下症はずっと後になって出てくる病気であるため、我々医師はこの病気を捜す場合、年齢が50歳以上で、甲状腺の病気に罹りやすい傾向が伝わっている患者側の親族のみを見るようになります。例の中では、母方になります。患者の多くで、特に病気が軽い場合は甲状腺機能低下症はわかりにくいため、具合が悪く見えたり、感じたりしてもしなくても、母方の親族を検査することになります。もし、若い親族が甲状腺機能低下症のようであったり、感じたりする場合は、そのような人も医師の検査を受けることができますが、どこも悪くないと感じる場合は検査を勧めることはありません。

同様に、この仮想の家系の中の母方の親族全員が甲状腺機能亢進症の検査を必要とするわけではありません。この病気が起こった場合は、かなりはっきり現れるのが普通であるため、若い、または年配の親族で、異常に活発であり、頻脈、またはその他の甲状腺の機能が過度であることをうかがわせる証拠のある人に限定すべきです。

先に述べたように、女性が妊娠した場合、甲状腺の機能障害を起こす危険性のある女性をスクリーニング(洗い出し)するための検査を勧めるでしょう。

そのことを視野に入れるながら、あなたまたはあなたの親族に甲状腺あるいはそれに関連した問題がある場合、家族を見て、調べ、誰が甲状腺機能低下症あるいは甲状腺機能亢進症のチェックを受けるべきかどうかを知ることができるでしょう。家族の評価を行うと、おそらく父方か母方のどちらかの側の親族で、甲状腺の病気または甲状腺に関連のある病気がある人が数人見つかると思います。対照的に、もう一方の側の家族にはおそらくそのような病気は、まずほとんどないでしょう。[図27]は、あなたが家系図を通じて、様々な甲状腺の病気や関連疾患をたどっていけるように私共が考え出した模式図です。

家族の“甲状腺側”の50歳以上の人は皆、医師による甲状腺機能低下症の検査を受けた方がよいでしょう。50歳未満の人は、不活発で、“疲れきった”感じがする親族しか甲状腺機能低下症の検査を受ける必要はありません。最後に、異常に活発(頻脈、発汗の量の増加、神経質等)に見える親族は、医師により甲状腺機能亢進症の検査をしてもらうことができます。

甲状腺の病気のスクリーニング(TSH検査)

医学的診察に加え、甲状腺機能低下症か、あるいは甲状腺機能亢進症かがわかる簡単な検査があります。1回分の血液サンプル─これはどの時間に採取したものでもかまいません─で甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分析を行うことができます。甲状腺機能低下症では、血液中のTSHレベルが増加しており、一方甲状腺機能亢進症では、TSHレベルが低くなっているか、血液中にありません。

これらの病気はどの程度深刻なものでしょうか?

ここでは家族内に遺伝する甲状腺疾患に焦点をあてているため、患者にその両親や子どもが病気になる可能性について、不必要に心配させている危険性があります。実際は、甲状腺のトラブルで深刻な、あるいは生命を脅かすような問題はめったに起こりません。甲状腺機能低下症のある人は、何年もの間、おそらくちょっと疲れやすいといった以外は何の症状もない、軽い甲状腺機能低下症であることがあります。同様に、甲状腺機能亢進症の人は、全く健康に見え、そう感じることもあります(それでも幾分エネルギッシュであり過ぎることはあるでしょう)。

私共は、遺伝のパターンに注意を喚起し、軽い病気のある患者を見つけ、それにより生活の質を向上しようとしているのです。例えば、甲状腺機能低下症のある年配の人は下がった甲状腺ホルモンのレベルが上がれば、もっと元気になり、実のある生活ができる可能性があります。そして、甲状腺機能亢進症のある若い人は、病気のコントロールがなされることによって、落ち着きを取り戻し、身体的にも強く感じるようになります。

病気を捜すことで、あなたの家系の“甲状腺側”の年配の親族にもし悪性貧血が見つかれば、別の意味でも助けることになると思われます。この病気は、甲状腺機能低下症のように非常にゆっくり進行するので、気付かないでいるままのことがあります。それだけでなく、貧血(赤血球数の低下)のため、不活発さあるいはぎこちなさが起こったり、神経系が冒されるためにバランスが失われたりします。筆者はバセドウ病か、橋本病のある患者、あるいはそのような家系の“甲状腺側”の人で、年齢が60歳以上の人に対してビタミンB12に関する血液検査をすることで、悪性貧血の検査を行うことを習慣付けています。悪性貧血(バセドウ病や橋本病に関連する他の病気も)については、《第9章》にすべて述べてありますので、ご覧ください。

治療はどのようなものでしょうか?

甲状腺機能低下症が確認された場合、通常は主治医により少量の甲状腺ホルモン補充のため、1日に1回服用するサイロキシン錠として与えられ、不活発な甲状腺の治療が行われます。50歳以上の人の開始時の投与量は少なくしなければなりません。中には甲状腺ホルモンレベルの急激な変化に耐えられない人もいるからです。その後、T4やTSHが正常になるまで、投与量を1ヶ月毎かそれくらいの頻度で、増やしていきます。

甲状腺機能亢進症の症状は、体の中に甲状腺ホルモンが多すぎるために起きるので、この治療は甲状腺による甲状腺ホルモンの産生量を減らすことが目標となります。これは甲状腺に影響を与える薬で行うことができます。それ以外には、手術で甲状腺の一部を取り除くか、放射性ヨードで甲状腺組織の一部を破壊するかして甲状腺ホルモンの産生を減らすことが可能ですが、年齢やその他の健康上の問題を含む個々の患者の状況によって異なります。

まとめ

私共はこのガイドを、甲状腺の病気の治療を必要としている人に手を伸べ、その病気についての教育を行うよう現在続けられている努力の一環として用意いたしました。これを機に、家系内で甲状腺の病気捜しを実行することを決意され、その結果を家庭医に知らせるようにされることを願っております。もし、甲状腺の病気の捜し方やどの親族が甲状腺の検査を受けるべきか疑問に思われた時は、主治医がお手伝いできるはずです。

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