第6章:不活発な甲状腺

46歳のSさんは1891年2月に開かれたノーザンバーランド医学会とダーラム医学会で提示されました。
この学会で彼女は進行した粘液水腫例の典型的な特徴を見せてくれました。
実験的性質を持つ治療法が説明され、患者はそうでなくても絶望的な様相を呈していましたが、すぐにこの試みに同意しました。
滅菌した器具を使い、屠殺したばかりのヒツジから甲状腺が取り出され、滅菌ボトルに入れて実験室に運ばれ、そこでグリセリン抽出がおこなわれました。
この症例の治療では、最初25ミニム(滴)の抽出物が週2回皮下注射で投与されました。後にはこの投与間隔をもっと長くしました。患者は確実によくなっていき、3ヶ月後…病状は次のように述べられています。

腫れは徐々にひいて顔の外観も著しく改善され、もともとあった自然なしわもほとんど全部戻り、表情も出てきた。発話も前より速く、滑らかになった。
質問に対する答えもずっとしっかりしてきたし、精神も活発になり、記憶も改善された。すべての動きが前よりも活動的になり、家事をするのが前よりずっと楽になった。
皮膚もずいぶん乾燥しなくなり、歩いている時に汗をかくようになった。もはや寒さに敏感であることもなくなった。
……その後、2週間に1度注射をし、それ以降は10ミニムを1ヶ月毎に週6日投与を受けた。患者は、進行した粘液水腫になってから後、28年間健康に過ごすことができた。この間に、彼女が消費した甲状腺抽出液は7パイントを超え、それはヒツジ870頭分以上の甲状腺から調合されたことになる。

Murray GR. 甲状腺抽出物で治療を行った最初の粘液水腫症例の生活史
British Medical Journal, 1920; 1: 359

患者は1891年から死亡する1919年まで治療を受けていました。

甲状腺が正常な量の甲状腺ホルモンを作れない場合、甲状腺機能低下症として知られる病気が起こります。ずいぶん前に数箇所の大病院で行われた調査では、甲状腺機能低下症があると報告された患者は1,000人に1人以下であり、そのため比較的希な疾患と思われていました。最近、検査法が改善され、血清TSHを使って軽度の甲状腺機能不全を見分けることができるようになったため、甲状腺機能低下症の真の発生率はずっと高いことが明らかになりました。例えば、最近の調査では、検査で甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血中レベルが上がっているのが見つかった人は、女性で1,000人中75人(7.5%)、男性で1,000人中28人(2.8%)となっています。他の大きな集団で行った調査では、初期の甲状腺機能不全は女性の方が男性よりほぼ4倍多いことが示されています。さらに、この病気は若い人より、年配の人がかかることが多いのです。例えば、65歳以上の女性の15〜20%、男性の5〜10%が軽度または重度の甲状腺機能不全になるということです。ほとんどの医師は、TSHの上昇が甲状腺機能不全の最初の徴候であると信じています。これは、TSHレベルの上昇がある患者の多くは、より明らかな甲状腺機能低下症へと進んでいくためです。特に軽度の甲状腺機能不全のある患者の20〜100%は、年齢や性別、またそれ以外のファクターにもよりますが、4年以内により重篤な甲状腺機能低下症へと進んでいきます。

甲状腺機能不全になり始めは、まったく異常は感じずに、ただ首の前のかたまり、または腫れとして現れる甲状腺のわずかな肥大(甲状腺腫)が唯一の徴候であることが多いのです。その後、甲状腺ホルモンのレベルがさらに下がれば、疲れや物憂さを感じるようになり、おそらく周囲の人には丁度よい暖かさであるのに自分は寒く感じるようなことが起こってきます。皮膚や髪、爪の伸び方が遅くなるにつれ、 厚くなり、乾燥し、もろくなってきます。
髪が抜けるのが目立つようになる場合もあります。その後、甲状腺機能低下症がもっとひどくなれば、皮下組織に変化が起こり、粘液水腫として知られる特徴的なむくみや腫れを伴った外観となります。このむくみや腫れは、特に顔と目のまわりに目立つことが多いのです。

循環系も冒され、心拍が遅くなりますが、おそらく誰かにたまたま脈を数えてもらうようなことがない限り自分で気付くことはないでしょう(1分間に60以下のことがあります)。腸の活動も落ちるため、便秘になることがあります。水分貯留のため、数ポンド(2〜3キロ)体重が増えるかもしれませんが、甲状腺機能低下症のためだけで太ることはあまりありません。というのは、甲状腺機能低下症になると食欲や食べ物に対する興味が減ってくるからです。筋肉が痛み、夜中に足がつって目が覚めることがあります。筋肉も腫れてくることがあり、舌が大きくなることがあります(舌は筋肉です)。神経系の冒され方もいくつかありますが、記憶が一部失われたり、思考能力の減少、または鬱状態に気付く場合があります。そして薬に対して過敏になり、弱い鎮静剤で長時間寝てしまうようなことも起こります。中には、指先がちくちくしたり、バランスが失われ、歩行が困難になる患者もいます。

若い女性であれば、生殖器系に変化が起き、生理の期間が長く、ひどくなり、また回数も増えることがあります。
卵巣が毎月卵子を作らなくなることがありますが、そうなると妊娠しにくくなります。もし妊娠した場合は、甲状腺が健康な場合に比べ、少しばかり流産が起こる可能性が高くなります。
要するに、甲状腺機能低下症になった場合、いちばん多い訴えは“疲れきった”という感じでしょう。あたかも、6本か8本のシリンダーが動いている代わりに1本か2本しか動いていないような感じになるわけですが、おそらく甲状腺ホルモンレベルの低下によるごくわずかな変化は、体全体に起こっていると思われます。

甲状腺機能低下症の原因は何でしょうか?

甲状腺機能低下症の原因は、この病気が始まる年齢によって多少違いがあります。生まれつき重篤な甲状腺機能低下症を伴っている子どものほとんどは、体が必要とする甲状腺ホルモンを出すに足る甲状腺組織の発達がないもので、それ以外の甲状腺機能低下症の乳幼児は、先天的に甲状腺内での甲状腺ホルモンの産生に欠陥がある可能性があります。一部の発展途上国では、食餌中のヨード欠乏が新生児に見られる重症の甲状腺機能低下症とクレチン病のもう一つの重要な原因となっています。アメリカではもはやヨード欠乏は問題ではありませんが、その反対の状態-妊娠中のヨード過剰問題がまだ起こっています。妊娠中の女性が摂取するヨードの量が多すぎると(大体は薬によるものですが)、余分なヨードが存在するために胎児の甲状腺の甲状腺ホルモン産生が抑えられる結果になる場合があります。そうなると、子どもが甲状腺機能低下症と甲状腺腫を持って生まれてくることがあります。もう少し大きな子どもや成人では、症状のない、進行性の甲状腺の炎症(感染の証拠がない)で、慢性リンパ球性甲状腺炎(この病気を記載した日本人医師の名を取って橋本病としても知られています)が甲状腺機能不全の原因としてもっとも多いものです。甲状腺の炎症と甲状腺組織の瘢痕による損傷のため、甲状腺が働かなくなるのです。組織の破壊が進むとある時点で、甲状腺の組織が残っていても、それだけでは体が必要とするだけの量の甲状腺ホルモンを作ることができなくなってしまいます《第7章》。この疾患は、体の免疫系が甲状腺を攻撃し、破壊する自己免疫過程によるものがいちばん多いのですが、このタイプの甲状腺機能低下症は、50歳以降にいちばん多く現れてきます。

甲状腺機能不全は、過去に活発すぎる甲状腺の治療を受けたことのある患者の中にも非常に多く見られます。ここでは、甲状腺機能低下症が甲状腺を破壊したり、一部を取り除く治療を行った直後に起こることもありますが(放射性ヨードまたは手術)、ほとんどの例では甲状腺の機能不全は何ヶ月あるいは何年も経ってからしか現れません。そのように甲状腺機能低下症が後になって起こってくることから、そのような患者では治療そのものだけが甲状腺機能不全の原因ではないということがうかがわれます。おそらく、同時に存在する慢性リンパ球性甲状腺炎が甲状腺機能低下症の原因となっている可能性があります。
頻度は少なくなりますが、ウィルス感染《第7章》の後または薬のために、一次的に甲状腺の機能不全になることがあります。例えば、活発すぎる甲状腺をコントロールするために使われる抗甲状腺剤の投与量が多すぎると、その結果として甲状腺機能低下症が起こり、投与量を減らすまで続くことがあります。精神治療薬であるリチウムも、一部の患者に甲状腺機能低下症を起こすことがあります。さらに、ヨードに対し甲状腺が非常に過敏な人もおります。そのような人は、アミオダロンのようなヨード製剤の投与を受けると、その副作用として甲状腺機能低下症を起こすことがあります。健康食品の愛用者も同様に知らず知らずのうちに海草(ダルス:紅藻の1種)またはケルプ(昆布の仲間)を食べることにより、ヨードをとり過ぎることがあります。また、がんの治療の一部として頚部に大量のX線照射を受けた患者にも、甲状腺機能低下症が起こることがあります。

甲状腺機能低下症の診断

医師が甲状腺機能低下症を疑った場合、最初に甲状腺ホルモンのレベルが低下している証拠を捜すための検査を行います。この病気の確実な診断を下すために、もっとも重要な検査は、血液中のTSHレベルです。甲状腺の機能不全になれば、脳下垂体は甲状腺を刺激して、その機能を正常に戻そうとするために、TSHの産生量を増やします。
甲状腺が損傷を受けており、その活動を高めることができない場合は、血液中のTSHレベルは上昇し、高くなったままになります。血液中のTSHレベルの上昇を検知することで、甲状腺機能低下症が甲状腺内の病気のためであり、脳下垂体の病気のため甲状腺が十分に刺激を受けていない結果ではないということもはっきりするのです〈注釈:この甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモンの調節については甲状腺の病気[初級編]甲状腺は何をするところ?を参考にしてください〉

一般向けの新聞で最近、甲状腺機能低下症の診断や管理における血液検査の重要性を軽視するような傾向が見られますが、これについては一言言っておかなければなりません。20年か30年前に行われていた甲状腺の検査は、本当に甲状腺機能低下症かどうかわかるほど感度も高くなく、特異的でもありませんでした。しかし、今日では非常に正確かつそれ程費用もかからない検査が受けられます。そして、甲状腺機能低下症の診断を下すための助けとして医師が必ず使うべきものです。そのような診断は、体重の増加や疲労、または不妊のような訴え、あるいは乾燥肌や低体温のような非特異的な所見だけに基づいて行われてはなりません。
よく勉強している医師は、血液検査をせずに甲状腺の薬物療法を始めることはありません。いちばん大事なことは、TSHの血液中のレベルを検査することで、確定診断が得られることです。血液検査は甲状腺機能低下症の原因と重篤度を知る上で、また治療が適切であるかを評価する上で欠かせないものであります。甲状腺ホルモン(T3とT4)のレベルもチェックされることがありますが、これらの検査は甲状腺機能低下症の診断を最初に下す上ではTSHレベルほど役立ちません。それでも必要な投薬量を測る上では役立つことがあります。

最後に、ほとんどの甲状腺機能低下症は、慢性リンパ球性甲状腺炎で引き起こされるため、このタイプの甲状腺の炎症が存在するかどうかの手がかりとして血液中に現れる抗体を血液サンプルで調べることができます。

甲状腺機能低下症の治療

甲状腺機能低下症は、正常な甲状腺が産生するホルモンと全く同じ化学的成分を含む甲状腺ホルモンの錠剤で治療されます。したがって、その薬に対するアレルギーが起こることはありません。さらに、このホルモン剤は胃液により破壊されることはないため、経口投与が可能です。最後に、適切な投与がなされれば、甲状腺ホルモン剤が体の組織に好ましくない影響を与えることはありません。

今日では様々な甲状腺ホルモン製剤が製造されています。しかし、長年の間、動物の甲状腺から作られた甲状腺ホルモン剤だけしか手に入りませんでした。これらの製剤は非常に役立ったのですが、残念ながらサイロキシン(T4)だけではなく、もっと作用の早い第2の甲状腺ホルモンであるトリヨードサイロニン(T3)も含んでいるのです。2つの理由から、T3を含まない甲状腺ホルモン剤を投与する方が好ましいのです。まず最初の理由として、通常、体はT4からT3を作ります。
実際に、正常な状況では体の中のT4の大部分は、体が使う量に応じてT3に変ります。2つ目の理由は、T3を含んでいる薬を飲んだ後、血液中のT3レベルが異常に高くなる可能性があります。T3のレベルが異常に高いと、頻脈や心臓への負担が増加し、心臓病のある人にとって危険なことがあります。これらの理由から、今ではほとんどの医師が純粋なT4の錠剤〈注釈:日本ではチラージンS〉で甲状腺機能低下症を治療しています。

また、今日ではより高価な商標名で販売されている形のものに対抗して、一般薬の形で使う傾向が増えています。
一般薬は普通値段が安いのですが、一般甲状腺ホルモン製剤は、常に力価の信頼性が低いという問題を抱えています。最近、アメリカで試験が行われ、一般T4錠剤のこの力価の変異が明らかになりましたが、事実T4錠剤の内、一貫して信頼できるものは3種類しかないことがわかりました。シントロイド、レボトロイド、およびレボキシルです。したがって、筆者は現在のところ、これら3種類の甲状腺ホルモン剤だけを処方するようにしています。これらの錠剤は、ほとんど同じ“カラーコード”(力価が異なるサイロキシン錠には異なる色がつけてあります)がついており、そのため甲状腺ホルモンの投与量が紛らわしくなくてすみます。様々な薬用量の強さが得られるため、医師は個々の患者に対して用量を正確に合わせることができます[表2]

シントロイドはアメリカとカナダで販売されている。レボキシルとレボトロイドはアメリカでのみ、またエルトキシンはカナダでのみ販売されている。

サイロキシン錠が最初に使われ始めた時、医師は100マイクログラムのT4が乾燥甲状腺剤の1グレイン(0.0648g)錠の力価に等しいと考えていました。しかし、臨床では、これらの古い製剤の力価はあてにならないことがわかりました。したがって、患者に乾燥甲状腺錠からT4に投薬を切り替える際は、普通、T4投与量をわずかに低くしてから始めていたのです。例えば、2〜3グレインの乾燥甲状腺剤を飲んでいた人には、75から125マイクログラムのサイロキシンから始めるようにしていました。事実、100から200マイクログラム以上のサイロキシンが必要な患者はほとんどおりません。

ある種の薬がサイロキシンの腸からの吸収を妨げることがあります。このような薬には、高コレステロールの治療に使われるコレスチラミン(クエストラン)とコレスチポール(コレスチド)、胃潰瘍の治療に使われる水酸化アルミニウム(制酸剤)、サクロフェート(カラフェート)があり、および貧血の治療に使われる鉄剤も入ると思われます。これらの薬のどれかを飲む場合は、甲状腺ホルモン錠をこのような薬を飲む前か後、数時間おいて飲むようにし、甲状腺ホルモンがすべて確実に吸収されるようにしなければなりません。

たとえ甲状腺機能低下症が重い場合でも、甲状腺ホルモンによる治療を2〜3ヶ月続ければ完全に治って、健康体に戻るはずです。この時点で、医師は血液中のT4とTSHレベルを測定し、甲状腺ホルモン剤の投与量が正しいことを確認します。
もし、飲んでいるT4の量が多すぎる場合は、血液中のTSHレベルが低く、T4レベルは正常範囲を超えて高くなっているでしょう。一方、T4の投与量が少なすぎる場合、血液中のTSHレベルは高いままで、T4レベルは下がっているはずです。甲状腺ホルモン剤を飲むのをやめてはいけません。

純粋なサイロキシンを使って医師が甲状腺ホルモンレベルのスムースなコントロールができるのは、体がサイロキシンを消費する速度が遅いからです。実際に、正常な人の甲状腺が突然働かなくなった場合、体は約7日かけてすでに血液中にあるT4の半分を消費するだけです。したがって、甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモンの欠乏を治すため、サイロキシンの錠剤を飲んでいる場合でも、突然サイロキシンの服用を止めても、急に具合が悪くなることはありません。さらに、急に気分が変ることがないために、甲状腺の病気はもう存在していないと誤って思い込み、完全に薬を止めてしまう場合があるのです。残念ながら、甲状腺機能低下症が再発した場合でも、徐々にしか発病しないため、症状がはっきり現れるまで、病気が再発したことに気付かない可能性があります。

慢性リンパ球性甲状腺炎による甲状腺機能低下症では、この病気がバセドウ病による甲状腺機能亢進症のように遺伝する病気であるため、適切な“家族のフォローアップ”も必要となります。この病気を起こす遺伝子は母親または父親のどちらか一方から伝わります(両方からということはめったにありません)。したがって、罹患した側の家族の中で、年配の方はある種の関連疾患だけでなく、甲状腺の問題もチェックしてもらう必要があります。これらの関係については、《第8章》で述べることにします。

もし、甲状腺機能低下症にかかったら、医師に定期的に検査してもらうことが大事です。ほとんどの甲状腺機能低下症は、時間の経過とともにだんだん悪化する傾向があるために、数年前には正しかった甲状腺ホルモンの量が今では十分ではない可能性があります。したがって、医師は定期的に血清T4とTSHを測定し、ホルモンの投与量を変える必要がないかどうか確かめるのです。甲状腺の病気が正しくコントロールされているかを確かめるために、最低年1回検査を受けることをお勧めします。ただし、妊娠した場合は、このルールはあてはまりません。妊娠中は、甲状腺ホルモンの必要量が増える事が多く、そのため甲状腺機能低下症で、甲状腺ホルモンを飲んでいる時に妊娠した場合は、TSHレベルのチェックを妊娠2ヶ月目にしてもらう方がよいでしょう。もし、値が高ければ、医師は出産が無事終わるまで薬の量を増やし、その後前のレベルまで投与量を減らすようにするでしょう。

甲状腺機能不全の原因となる他の病気の治療についても一言言っておいた方がよいと思われます。例えば、亜急性甲状腺炎ですが、これはウィルス感染によって起こることがあり、甲状腺機能の低下は一次的にしか起こらないことがあります。一過性の甲状腺機能低下に対し、サイロキシン療法が必要であっても、何週間、または何ヶ月かだけのことで、その後薬を止めてもそのまま健康な状態を保つことができます。また、甲状腺機能低下症がヨードの摂取や、抗甲状腺剤によって起こったものである時は、ただ薬の量を減らすか、薬をやめるだけで済むことがあります。そのような例のどれに対しても、医師は適切に患者の治療を行うためのガイドに沿って、必要な検査が受けられるよう準備しています。これのきわめて特殊な例が出産直後に起こる甲状腺機能低下症です。この病気は産後甲状腺炎として知られているもので、出産後の女性全体の約5〜8%に見つかります。普通は、出産後2〜6ヶ月で発病し、多くは甲状腺ホルモンによる治療が必要となります。意外な事に、この形の甲状腺機能低下症は永久的なものでなく、普通は6〜12ヶ月後に自然に治ってしまいます。そのため、このタイプの甲状腺機能低下症に対して、医師は2,3ヶ月甲状腺ホルモンの薬を投与した後、投薬を中止して問題が消えたかどうか様子をみます。しかし、この病気になった女性の約25%で、甲状腺機能低下症が永久に残ります。

すでに述べたように、何年も前に甲状腺ホルモン剤を飲み始めた患者の多くは、その後の甲状線に対する治療は必要でなかったかもしれず、あるいは今では必要ない可能性があります。今日では甲状腺の検査で、そのような患者が甲状腺ホルモン錠の服用を中止し、そのまま健康な状態を保てるかどうか、安全かつ簡単に知ることができます。

何年にもわたって甲状腺ホルモン療法を受けている場合で、まだ薬が必要なのかどうか知りたいのであれば、自分で勝手に治療をやめたりせずに、医師の指示を受けるようにしてください。医師と患者の双方が甲状腺ホルモン錠を止めてみることに合意したら、医師は投薬中止後4週間から6週間で血液中のTSHレベルを測定するでしょう。
その時にTSHレベルが正常であれば、甲状腺機能は良好で、それ以上のサイロキシン療法は必要ではありません。このような場合、医師は数ヶ月後に再度TSHの検査で甲状腺機能をチェックし、甲状腺が健康であるかどうか確かめます。

その他の種類の甲状腺機能低下症

脳の基底部にある脳下垂体が甲状腺の刺激とコントロールを行なっているため、脳下垂体に腫瘍やその他の問題が生じて、2次的に甲状腺機能不全を起こすことがあります。また、脳下垂体はその他に生殖器や副腎などもコントロールしているため、このようなケースは医師にとって診断は簡単であるのが普通です。
例えば、2次的(脳下垂体性)甲状腺機能低下症の女性では、病気になった脳下垂体が卵巣の刺激を適切に行わなくなるため、生理も止まってしまうことが多いのです。医師は、甲状腺機能の検査だけではなく、脳下垂体の機能を評価するためにX線検査とラボ検査のどちらも自由に行えるようにしています。実際に脳下垂体に問題がある場合は、おそらく甲状腺に加えその他のホルモン欠乏の治療も合わせて行う必要があるでしょう。腫瘍により脳下垂体の機能不全になっているのであれば、脳下垂体自体にねらいを定めた治療を行うようになります。幸いに脳下垂体は、外科的治療と放射線治療のどちらにも反応します。

脳下垂体自身は、脳の中のさらに高位の中枢である視床下部の支配下にあります。きわめて希な例ですが、視床下部領域の疾患のため、脳下垂体機能不全になり、その結果甲状腺や他のホルモン分泌腺に問題を生じることがあります。このような病状は、2次的な甲状腺機能低下症にきわめてよく似ていますが、医師は注意深く検査を行うことで、大体見分けることができます。治療は脳下垂体に問題がある場合と同じで、甲状腺機能低下症を治すだけでなく、他のホルモンの欠乏に対する治療も必ず合わせて行わねばなりません。

希な形の甲状腺機能低下症が数家族で見つかったのですが、これは体の組織が甲状腺ホルモンに対し正常に反応する能力を持っていないのです。これは遺伝する病気で、全身性甲状腺ホルモン不応症と呼ばれています。この状況では、甲状腺で甲状腺ホルモンはたっぷり作られており、実際に血液中のレベルは正常値を超えて上がっています。しかし、体の組織の中の甲状腺ホルモンレセプターに異常があるために正常に反応できないのです。脳下垂体も甲状腺ホルモンに正常に反応しない組織のうちの一つであるため、そのような人の血液中のTSHレベルは、T4のレベルが高いのにもかかわらず上昇しています。この病気のある患者は通常見かけも行動も正常なのですが、今ではこの問題を持つ子どもには活動亢進状態が起こりやすく、70%以下で多動性症候群になる可能性があることがわかっています。1995年時点で、100以上の家族にこの問題が見つかっています。幸いに、甲状腺ホルモンのレベルとTSHレベルが高いという異常な組み合わせのために医師にとっては見分けやすいものであります。

まとめ

甲状腺機能低下症は、ほとんど全部といってよいほど甲状腺ホルモンの産生を減少させるような甲状腺内の病気によって起こります。この病気のいちばん多い原因は、自己免疫性の甲状腺疾患です。これは遺伝するもので、男性より女性の方が多く罹患します。この病気を正確に診断するための優れた検査、特に血液中のTSHレベル検査があります。サイロキシン〈注釈:日本ではチラージンS〉を使った治療で、健康を取り戻すことができます。この病気は家族内に遺伝するため、他の親族も甲状腺の問題がないか主治医によるチェックを受ける必要があります《第8章》

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