第4章:活動が強すぎる甲状腺

20歳になる女性に、ヒステリー性のものと思われる症状がいくつか現れました。約3ヶ月間このような神経が高ぶった状態にあった後、彼女の脈が異常に速くなっていることが観察されました。次に彼女は活動時に力が出ないことを訴え、青白くなりやせてきました。目が異常な外観を呈していることが観察されました。眼球は明らかに大きくなっていました。2〜3ヶ月のうちに、馬の蹄鉄型をした腫れものが喉の前に現れ、まさにそれは甲状腺のあるところだったのです。

Robert J. Graves医師が1834年から1835年に
アイルランド、ダブリンのミース病院で行った臨床講義より
London Medical and Surgical Journal, 1835; 7 pt. 2: 516

いちばん普通に見られるタイプの甲状腺機能亢進症は、甲状腺全体の一般的活動が活発過ぎることにより生じるものです。これはびまん性中毒性甲状腺腫と呼ばれていますが、びまん性とは、甲状腺全体がこの病気のプロセスに関わっているためであり、中毒性とは、まるで感染による“中毒”であるかのように、患者が熱っぽく、顔面が紅潮するためです。また、甲状腺腫というのは、甲状腺が大きくななることで、活動しすぎるようになるからです。
びまん性中毒性甲状腺腫は、最初にこの病気を記載した一人で、時にこの病気に伴って起こる目の突出に最初に気付いたアイルランド人医師、Robert J. Gravesの名を取ったグレーブス病としても知られています〈注釈:日本では、バセドウ病として知られています。これは、この病気について同じころ報告をしたドイツの医師バセドウに因んでつけられた病名です〉。アメリカでは全人口の1%と2%の間の人が、生涯のある時期にバセドウ病を発病し、毎年新しく診断されるケースは50万人となっています。バセドウ病は男性より女性に3倍から4倍多く、20歳から40歳の間に始まるのが普通です。
もし、あなたがバセドウ病に罹ったら、あなたの甲状腺はもっともっと甲状腺ホルモンを作り出すようになります。そうすることで、甲状腺は普通だんだん大きくなり、ほとんどのケースで首の前にそれとわかるほどに大きく突き出してきます。あるいは、友達や医師から指摘されるまで何も気が付かないでいることもあります。甲状腺腫が小さければ、ものを飲み込む時に何か塊があるという感じがするだけかもしれません。普通の場合、このタイプの甲状腺機能亢進症では、甲状腺に圧痛はなく、飲み込む時の不快感もありません。
甲状腺機能亢進症が進んでくるにつれて、たくさん食べているのに体重が減ってくることがあります。また、神経質になったり、びくびくしたりするようになり、いらいらもひどくなり、喧嘩っ早くなったりします。いつになく汗をかく量が増え、暑い天候が嫌いになる傾向があります。皮膚は徐々に薄く、デリケートになり、頭髪が抜けているのに気付くこともあります。爪の伸びかたが早くなるにつれ、爪の縁がぎざぎざになって、爪をきれいにしておくのが難しいことに気付くかもしれません。また、非常にかゆい蕁麻疹ができることもあります。
筋肉が弱くなり、特に上腕とふとももがそうなりますが、そのために重いものを運んだり、階段を上るのが困難になることがあります。そのような足の弱りを、しゃがんだ姿勢から助けなしに立ち上がれないという事実で経験することもあるでしょう。手の震え、時にそれがあまりにもひどくなり、コーヒーカップを受け皿にがたがたぶつけたり、中身をこぼさずに持つことが難しくなることがあります。心臓の鼓動も速くなり、正常な1分間に70から80の速さから、1分間に100以上になることがあります。時に、何の前触れもなく急に脈が速くなり、その頻脈が数分間続いた後、始まった時と同じようにわけがわからないまま突然おさまってしまうことがあります。本当に下痢をすることはあまりありませんが、腸の動きが激しくなり、便が弛んだり回数が増えたりします。
女性の場合、月経周期が変わることがあります。出血量もずっと少なくなり、月経の間隔も長くなってくることがあります。月経の頻度が少なくなるにつれ、さらに不規則になり、あるいはまったくなくなってしまうことがあります。そのため、さらに妊娠しににくなります。もし妊娠した場合は、流産してしまうことが多くなるようです。

[図18]
図18
甲状腺機能亢進症にかかると目が正常な場合より大きく見えるようになります。

女性は乳房に普通何の変化も認めませんが、男性ではわずかに大きくなり、圧痛を感じることがあります。
いちばん不思議で、よく分かっていないバセドウ病の症状の一つは、バセドウ病が目に与える影響です。通常、その変化は単に上瞼が上に引き上げられて、目がより大きくなったように見えるものですが[図18]、時に眼球の後ろの組織が腫れて、眼球突出症または突眼症として知られている実際に目が飛び出した状態が起こります。時々、目が乾いたり、赤くなったり、ちかちかするようになります。目の筋肉が冒される患者は少ないのですが、物がダブって見えるようになります。いちばんひどいケースでは、片方、あるいは両方の視神経が炎症を起こし、視力に障害が起こります。この状態は視神経障害として知られています。

上瞼が上がった状態は、甲状腺ホルモンのレベルが高い人では誰にでも見られる可能性があり、甲状腺ホルモン錠を過量に飲んでいる人にも見られることがあります。バセドウ病によって目に起こる可能性のあるもう一つの変化は、血液中の甲状腺ホルモンのレベルには関係がありません。もし、あなたが目の炎症と突出を起こすバセドウ病患者の一人であれば、目の問題は、おそらく最初に甲状腺機能亢進症になった時に起こるでしょう。しかし、目の問題と甲状腺の過活動は時期を異にして起こることが非常に多く、時には何年間も間を隔てて起こることもあります。きわめて希に、バセドウ病の唯一の徴候として目に障害が起きる人もおります。

したがって、目の問題はバセドウ病によって引き起こされる甲状腺機能亢進症のあるタイプにのみ起こる問題です。もう一つのバセドウ病特有の症状は、脛の前面に現れる非常に希な皮膚疾患で、足の甲にはほとんど現れません。これは、前脛骨粘液水腫と呼ばれるもので、瘤状の赤みがかった皮膚の肥厚の形をとります。普通は痛みがなく、重篤なものではありません。バセドウ病に生じる目の問題がそうであるように、前脛骨粘液水腫もいつでも起こる可能性があります。その出現は必ずしも甲状腺の問題の始まりと一致しておらず、またその重篤度も甲状腺ホルモンの血液中のレベルとは無関係です。
バセドウ病の症状の中でもっとも希なものの一つは甲状腺性指先端肥大症で、これは爪の基底部周囲組織が腫れてくるものですが、痛みはありません。周期性四肢麻痺もバセドウ病患者に時たま見られるもう一つの症状で、これは突然体のすべての筋肉に全く力が入らなくなるという発作が起きるものです。この状態になりやすい患者では、砂糖やでんぷんなどの食物により、血液中のカリウムのレベルが下がり、そのために正常な筋肉の働きが妨げられるのだと思われます。理由はわかりませんが、周期性四肢麻痺はバセドウ病のあるアジア人男性にいちばん多く見られます。

バセドウ病の原因は何ですか?

バセドウ病は、遺伝や免疫系、年齢、性ホルモン、およびストレスなどの様々なファクターが相互に作用し合って起こるようです。まず、ある種の遺伝的素因が必要であるようで、これは遺伝的に甲状腺機能亢進症を起こしやすい傾向と考えられます。このファクターがある人は、生涯のある時期にバセドウ病を発病する可能性がありますが、発病しないこともあります。しかし、この遺伝的ファクターがない人では、この病気が起こることはありません。
このタイプの甲状腺機能亢進症は、明らかに家族内に伝わります。もしあなたがバセドウ病であり、親族に感度の高い甲状腺の検査を行えば、両親の片方、あるいは祖父母のどちらか、またおじ、おば、兄弟のうちの誰か、そしておそらくあなたの子どもの中にも同じように軽度の甲状腺の異常が認められる可能性があります。ただ、幸いなことにこれらの親族の中で、治療が必要なほど甲状腺の問題で具合が悪くなる人はほとんどいません。しかし、《第8章》で示唆しているように、そのような人の一部は家庭医に定期検査をしてもらう必要があります。
一卵性双生児での研究で、バセドウ病における遺伝の重要性が確かめられました。また、他のファクターによりこの病気が修飾されることも明らかになりました。双生児の片方がバセドウ病を発病するか、どちらも発病しないのが普通です。しかし、病気のプロセスに影響を与える他のファクターがあるため、双生児が同時に甲状腺機能亢進症を起こすことはめったになく、双生児の病気の経過も全く異なっていることがあります。
バセドウ病になりやすい傾向を遺伝している人では、バセドウ病を発症させる様々なファクターがたくさんあるようです。甲状腺の専門医の多くは、甲状腺機能亢進症が起こるのに、ストレスが重要な役割を果たしている可能性があると信じています。それは、私共全員が、家族の死など強いストレスのある状況が甲状腺機能亢進症の発症前にあることを見ているからです。性ホルモンもまた重要です。女性の方に男性より4倍から8倍この病気が多く、妊娠などのホルモンの変化があった後に発病することが少なくないからです。また、20歳から40歳の間に発病することがもっとも多いので、年齢もバセドウ病発症に何か関わりがあると思われます。最後に、あなたの体の免疫系もこの疾患を生みだすのに役割を果たしているようです。未知のメカニズムにより、自己抗体と呼ばれる物質があなたの血液中に現れます。これらの自己抗体が甲状腺の細胞と結合し、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の効果を真似ることにより、甲状腺を刺激して活動が活発になり過ぎるようにするのです。これにより、甲状腺の肥大が起こり、さらに多くの甲状腺ホルモンが作られるようになります。こうして、正常な状態である、甲状腺が脳下垂体によりコントロールされる代わりに血液中にある異常な抗体によるコントロールを受けるようになるのです《第3章》。バセドウ病の特徴である免疫異常は、自然に起こるのが普通ですが、最近の研究では、過去のがんの治療のためのX線で、不注意にも甲状腺が損傷を受けていたり、インターフェロンやインターロイキンのような新しい免疫調整薬の一つを飲んでいたりすれば、この病気になるリスクが高くなることが示されています。
要するに、甲状腺の活動し過ぎを引き起こすきっかけになるファクターが一つ以上あるため、この病気になりやすい傾向のある人がバセドウ病を発病するのです。甲状腺の機能が増すにつれ、より多くの甲状腺ホルモンが血液中に放出され、そのため甲状腺機能亢進症の症状が出るのです。

バセドウ病の診断

あなたに甲状腺の活動が活発すぎることを思わせる症状があって、医師にかかる場合は、その診断は簡単かつ安全に確認することができるのが普通です。診察中に、医師は甲状腺腫や、頻脈、振戦、またそれ以外の甲状腺機能亢進症の証拠を捜すはずです。そのような証拠が見つかれば、甲状腺ホルモンであるサイロキシン(T4)のレベルを調べるため、血液サンプルが採取されることになります。T4のレベルが高ければ、甲状腺機能亢進症の存在が確認されたことになります。
しかし、ある種の状況下では、T4レベルの上昇だけでは甲状腺の活動が活発すぎる証拠とはなりません。これは、血液の中にある甲状腺ホルモンは主に血液中のある種の蛋白質と結びついた不活性な形となっており、遊離した活性状態のホルモンはごく少量しかないためです。妊娠やバースコントロール用のピル、およびその他の非甲状腺性のファクターにより、蛋白質と結合した甲状腺ホルモンの総量が増え、そのため“遊離した”、または活性なT4レベルは正常にもかかわらず、甲状腺機能亢進症であるという誤った印象を与えるのです。T3レジン取り込み(T3RU)または甲状腺ホルモンタンパク結合指数(THBI)は、蛋白質と結合した甲状腺ホルモンが正常であるかどうかを知ることで、状況を明らかにする費用のかからない血液検査です。その代わりに、費用は高くつきますが、医師が血液サンプル中の遊離T4レベルそのものを測る場合もあります。
また、医師はあなたの血液中のTSHの量の測定も望むかもしれません。近年、この検査は患者の甲状腺の状況を評価する方法として、ますます重要になってきています。バセドウ病やその他の形の甲状腺機能亢進症では、甲状腺自身が正常な脳下垂体のコントロールメカニズムを無視して、甲状腺ホルモンを作り過ぎる状態になっています。
脳下垂体は、血液中の甲状腺ホルモンの量が多すぎるということを正しく感知して、TSHの放出量を減らすことで補おうとします。そのため、血液中のTSHレベルは低くなるか、検知レベル以下まで下がります。最近まで、TSHの測定法は患者の血液中のTSHレベルが低いのか、それとも正常な範囲内にあるのかがわかるほど十分な信頼性があるものではなかったのです。今では、ほとんどの医師がいわゆる“感度の高い”TSHアッセイが利用できるラボへアクセスするようになっています。これらの新しい検査では、甲状腺機能が活発すぎることを示すTSHレベルの低下があるか、あるいは正常であるかが簡単にわかります。この1種類の血液検査が、以前、甲状腺機能の亢進が正常よりわずかにあがっており、正常であるのか、それとも軽度の甲状腺機能亢進であるのかがわかりにくい患者に使われていた、はるかに時間がかかり、費用も高い複雑な“TRH試験”に取って代わりました。この新しいアッセイで、もっとも軽度な、ほんのわずかな変化しかないタイプの甲状腺の活動し過ぎの状態までも検知できるのです。
実際に、今では医師が潜在性甲状腺機能亢進症、これは血液中の甲状腺ホルモンのレベルは正常値の上限付近にありながら、TSHレベルは下がっているというものですが、そこまで診断できるのです。このより程度の軽い状態は、特に1つ以上活発な甲状腺結節があるために甲状腺機能亢進症がある患者では普通に見られるものです《第5章》
もっと情報が必要な場合、医師は放射性ヨード取り込み検査を行うようにするのが普通です。甲状腺が正常以上のヨードを使っているのを確かめることにより、甲状腺の炎症(甲状腺炎)のような甲状腺機能亢進症の他の原因を除外しやすくなるのです。甲状腺の画像診断(甲状腺スキャン)も、バセドウ病がそうであるように甲状腺全体が活動し過ぎの状態になっているのか、あるいは中毒性結節性甲状腺腫《第5章》に起こるように、甲状腺の一部だけが機能し過ぎになっているのかを見つけるため、同時に行われることがよくあります。
時に、医師が血液中の自己抗体レベルを測定することがあります。この自己抗体の一つのタイプは、抗ペルオキシダーゼ抗体(以前は抗ミクロソーム抗体と呼ばれていました)で、バセドウ病患者に高頻度で見られるものです。これは、甲状腺の活動し過ぎがバセドウ病のためであり、その他の甲状腺疾患によるものではないことを示唆するものです。もう一つのタイプの自己抗体は、甲状腺刺激性免疫グロブリンまたはTSIとばれます。すべての患者にTSIの検査を行う必要はありませんが、ある種の患者では役に立ちます。これには、甲状腺疾患に合併する目の病気と同じような目の問題があるのに、甲状腺関係の血液検査は正常であるという希な患者や、妊娠中のバセドウ病患者などが含まれます《第13章》

バセドウ病の治療

1884年までは、安静と鎮静が甲状腺機能亢進症の唯一の治療法でしたが、その年に甲状腺の一部を外科的に切除した患者が治ったのです。しかし、初期の外科手術では、患者が甲状腺機能亢進症のため状態が非常に悪くなっていることが多かったため、手術中に死亡する人がたくさんいました。甲状腺の機能を落とすヨード錠を投与して、術前に甲状腺機能亢進症の重篤な症状をコントロールするすべを学んだのは、1920年代になってからでした。この簡単な治療法のおかげで、グレーブス病患者の手術のリスクが大きく減少したのです。しばらくの間、医師は手術を避け、ヨードだけで患者の治療をしようとしたのですが、これは一次的にしか効かず、病気のコントロールはあてにできず、患者の多くは、ヨード錠を飲んでいる間でも甲状腺機能亢進症の再発に悩まされていました。

プロピルチオウラシル(PTU〈注釈:日本ではプロパジールまたはチウラジール〉)やメチマゾール(タパゾール〈注釈:日本ではメルカゾール〉)のような抗甲状腺剤が使われるようになったのは1940年代からで、現在バセドウ病による甲状腺機能亢進症の治療に採用されている3つの主要な治療形態の一つとなっています。これらの薬剤は、甲状腺が甲状腺ホルモンを生産させないように作用するもので、甲状腺ホルモンの生産が減少するにつれ、甲状腺機能亢進症の症状も徐々に治まってきます。このような方法で、あなたの活発すぎる甲状腺が治療された場合、おそらく10日から2週間の間に気分がよくなり始め、6週間から8週間でほとんどよくなったように感じるようになります。
おそらく約12ヶ月から24ヶ月薬を飲むことになるでしょうが、その後甲状腺機能亢進症が再発するかどうかを見るために、医師は薬を中止します。最近の研究では、薬を飲まなくても30%の確率で正常な状態が続くことが示唆されています。
甲状腺機能亢進症が軽い状態で始まり、病気になってから2〜3ヶ月以内に治療を開始した場合は、その幸運な30%の中に入っている可能性が高いのです。もし、あなたが寛解した場合、医師は甲状腺が再び活発になり過ぎることがないか、また、後になって甲状腺機能不全が起こってくることがないかということも確かめるため、定期的にチェックを行います。
抗甲状腺剤は甲状腺機能亢進症に優れた効果を持っていますが、医師から処方された場合に知っておかねばならない特徴がいくつかあります。最初に、PTUは作用時間が短く、医師がPTUを処方した場合は、少なくとも最初のうち6時間から8時間おきに飲むように言われると思います。ほとんどの人は昼間飲む分を忘れてしまいます。筆者はメチマゾールの方を好みますが、これはこの薬の作用時間が長いためで、ほとんどの患者は1日に1回飲むだけで済ませられるからです。
2番目に、抗甲状腺剤は服用する患者の約5%にアレルギー反応を引き起こします。一番多い反応は、皮膚の発疹で、赤くなり、かゆみがあるのが普通ですが、極端な場合は全身に蕁麻疹が出ることもあります。頻度は少なくなりますが、発熱や関節の痛み、または肝臓病を起こすことがあります。抗甲状腺剤の反応ではるかに重篤なものは、薬を飲んでいる人の約300人に1人に起こる好中球(白血球)数の減少で、無顆粒球症と呼ばれるものですが、これにより感染に対する抵抗力が落ちる可能性があります。したがって、あなたがこれらの薬剤のうちどれか一つを飲んでおり、発疹やかゆみ、蕁麻疹、関節の痛み、あるいは感染の証拠(発熱、喉の痛みなど)が見られたら、薬の服用を中止し、直ちに医師に連絡を取らねばなりません。医師がその問題が薬物アレルギーによるものと認めた場合は、他の治療法が勧められます。
抗甲状腺剤を服用中に発熱や感染がみられた場合、白血球数を測定してもらわなければなりません。白血球数が正常であれば、感染症の治療を受けている最中でも、抗甲状腺剤の服用をまた始めることができます。白血球数が下がっていれば、医師は他の治療法を始めるでしょう。そしてその後は、あなたの健康が戻るまで、血球数を注意深く監視するでしょう。医師の中には、患者の白血球数をルーチンにモニターするようにしている人もいます。しかし、ほとんどの医師は、この副作用は希なので、そういうことはあまり実用的ではないと思っています。さらに、白血球数は2〜3日前まで正常であったとしても突然下がることがあります。しかし、1991年に〈注釈:これは、1990年の間違いです。わたしが野口病院勤務中に行った我々の研究です〉日本で行われた研究で、1ヶ月に1回白血球数をチェックすることで、発熱または喉の痛みなどの症状が出る前にこの問題を起こす一部の患者を見分けられることがわかりました

Tajiri J, Noguchi S, Murakami T, et al.
抗甲状腺薬誘発性無顆粒球症:ルーチンの白血球数モニターの有効性
Archives of Internal Medicine 1990; 150: 621-24

早期診断はきわめて重要なため、あなたがこれらの薬のうちどれかを飲んでいる間は、医師が定期的な白血球数の検査をするように決めることもあります。
最近行われたその他の研究では、無顆粒球症は高齢の患者(いずれにせよ放射性ヨード治療の方が好ましいのですが)や、メチマゾールの投与量が1日30mgを超えなければ、メチマゾールの投与を受けている患者よりもプロピルチオウラシルの投与を受けている患者に起こりやすいことが示唆されています。
白血球数が薬のために下がったとしても、通常は薬を止めて7日から14日以内にもとに戻ります。しかし、白血球数が下がっているのにこれらの薬の一つを飲み続けると、重篤になるリスクがあり、おそらく致命的な結果を生じることになるでしょう。この危険性については、薬を服用するすべての人が十分に理解しておかなければならないことです。
もし、抗甲状腺剤で甲状腺機能亢進症のコントロールができなかった場合や、その他の理由で抗甲状腺剤が不適当な場合、医師は放射性ヨードまたは手術のどちらかによって甲状腺の機能を制限することができます。

放射性ヨードは長年にわたって甲状腺機能亢進症の治療に使われてきました。この治療法が有効であることを示す研究が1939年に始まってから、多くの施設で長期間のフォローアップが行われ、その安全性が確かめられています。この治療で使われる放射性ヨードは、多くのラボで甲状腺のヨード取り込み機能検査やスキャン法に使われているものと同じアイソトープ(131-I)ですが、もちろん治療線量はずっと大きいものです。放射性ヨードによる甲状腺機能亢進症のコントロールは、放射性ヨードが甲状腺に入り、十分な照射ができるほど長く止まり、甲状腺組織を大量に破壊するため、うまく行くのです。その後、放射性ヨードは何日かのうちに尿から排泄されたり、崩壊して非放射性物質の形に変わり、体の中から消えてしまいます。投与量が正しく計算されていれば、3ヶ月から6ヶ月間は健康な状態にあるはずで、普通はこのとおりのことが起こります。放射性ヨードの量が少なすぎる場合は、甲状腺機能亢進症の状態は残りますが、前ほどひどくはありません。驚いたことに、放射性ヨードの適切な治療量を選ぶのに考慮しなければならないファクターがたくさんあるのに、約80%の患者は甲状腺機能亢進症をコントロールするのに1回だけの治療しか受けていません。さらに、まだ甲状腺機能亢進状態にある患者は、よくなるまであと1〜2回放射性ヨードの治療量投与を受けることができるのです。
どうして甲状腺機能亢進症患者が皆この方法で治療されないのかと不思議に思われるかもしれません。放射性ヨードは味がなく、カプセルまたはコップ1杯の水に溶かすかして簡単に投薬できます。また、きわめて吸収されやすいので、治療を受ける際に絶食する必要もありません。さらに、放射性ヨードは通常許容性が高く、痛みもありません。しかし、希に2〜3日喉の痛みや甲状腺の圧痛を訴える患者の例もあります。これらすべての理由に関して、1990年に行われた調査では、アメリカの専門医の大多数は典型的なバセドウ病患者の治療に、放射性ヨードを好んで使っていることが示されました

Solomon B, Glinoer D, Lagasse R, およびWastofsky L.
バセドウ病管理の最近の傾向
Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism 1990; 70: 1518-24

放射性ヨードに関する最大の懸念(これが特に小児をこの方法で治療するのに積極的でない理由なのですが)は治療で使われる放射能により甲状腺あるいは体の他の部分に害を与える可能性があることです。《第12章》で詳しく述べていますが、放射性ヨードを含むX線やその他の放射性物質には、疑いなく被爆量が十分大きければ人に良性および悪性の腫瘍を発生させる可能性があります。それでも、放射性ヨードで治療を受けた患者に有害な作用があるのではないかと最初に心配されたことについては、この方法で50年以上も治療してきたのに、まだはっきり実証されていないのです。例えば、放射性ヨードで治療を受けた患者の白血病や甲状腺がん、またはその他の腫瘍のリスクが、抗甲状腺剤または外科的治療を受けた同様の患者と比較した場合に増加しているということはありません。さらに、この治療を受けた女性がその後に、不妊症になったり、奇形児を生むという証拠もありません。その一方で、妊娠中の女性には131-Iによる治療を決して行うべきではありませんが、これは胎児の甲状腺を損なうリスクがあるからです《第13章》。したがって、現在のところ経験から放射性ヨードによる治療は、ほとんどの成人で好んで選ばれる治療法であるということができます。また、今では若い患者にもどんどん使われるようになっています。
甲状腺機能亢進症の放射性ヨードによる治療の最大の問題は、後で起こってくる甲状腺機能低下症です。もしあなたがバセドウ病であれば、おそらく将来いつか甲状腺が不活発になる時がきます。活発すぎる甲状腺を放射性ヨードで治療した後には、抗甲状腺剤や外科的手術で治療した場合より早く甲状腺の機能不全が起こってきますが、放射性ヨードで治療を受けたバセドウ病患者の長期のフォローアップ研究で、治療後10年以内に90%までの患者が甲状腺機能低下症になることが明らかにされました。それでも、後になって起こる甲状腺の機能不全が、必ずしもこの病気の治療に放射性ヨードを使わないようにする理由とはなりません。それは、甲状腺ホルモンの産生を下げることが当面必要であるからです。
これは放射性ヨードで簡単かつ安全に達成されます。その上、甲状腺の機能が不全になった場合でも、1日に1回飲むだけですむ甲状腺ホルモン錠で安全かつ簡単に治療できるのです。

バセドウ病患者の目に、治療が有害な効果を及ぼす可能性について、医師の間に長いこと議論が戦わされてきました。1992年にスウェーデンの研究者が、抗甲状腺剤や外科手術で甲状腺機能亢進症の治療を受けた同じような患者に比べ、放射性ヨードで治療を行った患者の一部で目の問題が悪化することを突き止めました

Tallstedt L, Lundell G, Torring O, et al.
バセドウ甲状腺機能亢進症治療後の眼障害の発生率
New England Journal of Medicine 1992; 326: 1733-38

大多数の患者では、この悪化はごく軽度で、特に治療の必要はありません。この問題はまだ決着がついていません。というのは、もっと前に行われた研究で、どのような形の治療であれ、甲状腺疾患に伴う目の問題に影響を及ぼすことはないということを見出したものが数多くあるからです。今では、より重篤な目の合併症のある患者に対する放射性ヨード治療を考えている場合、より慎重にという警告がなされているようです。
放射性ヨードが投与されている場合、甲状腺機能低下症が目の問題を悪化させる可能性があるため、早期に突き止め、治療するようにすることが重要です。また、コーチゾンのようなステロイド〈注釈:副腎皮質ホルモン剤〉を使った治療を並行して行うと、放射性ヨード治療で起こる可能性のある目の問題の悪化が予防できるという証拠もあります。もし、あなたに目の問題がある場合は、放射性ヨードの投与を受ける前に、これらの問題について医師とよく話し合うことが大切です。
バセドウ病の治療を行なっている間に、なぜ目の病気が悪化する人がいるかということを説明できるその他のファクターを、医師は捜し続けています。
放射性ヨードを使った適切な甲状腺機能亢進症の治療の鍵となるのは、注意深い長期にわたるフォローアップです。残念ながら、何年も前に放射性ヨードで治療を受け、放射性ヨード治療で“治った”と言われた高齢者がたくさんいます。
彼らは晩発性甲状腺機能低下症についての注意は何も受けていません。医師がそのようなことが起こることを知らなかったからです。したがって、これは我々からお勧めすることですが、あなた自身、または知り合いの方が何年も前に放射性ヨード治療を受けていたら、甲状腺のフォローアップ検査を受けるようにするべきです。
医師は、放射性ヨード治療の効果が、甲状腺や体の他の部位に有害な副作用が及ぶわずかなリスクを上回ることが予測される場合に、放射性ヨードを使って甲状腺の治療を行うことを決めるのです。しかし、治療後に帰宅した時に、あなたの体の中の放射性ヨードがあなたのまわりの人に影響を与える可能性があります。
放射性ヨードがその人たちに及ぼすリスクは小さいのですが、簡単な注意を払うだけでまわりの人の放射能被爆を最小限に留めることができます。
放射能のほとんどは48時間以内に尿中に排泄されるので、その2日間が十分に注意をはらわなければならない時期です。その期間中、あなたの体内の放射能が周囲の人に影響を与える可能性がありますが、その人達の被爆量はあなたとどのくらい一緒にいたかということと、どれくらい距離をとっていたかによります。そのため、私共は患者にできるだけ他の人と密接な接触をしないように勧めています。乳幼児は特にそのような放射線に感受性が高いため、密接な接触を長くしないよう注意しなければなりません。例えば、あなたは離れたところにいて、他の誰かに赤ちゃんを抱いたり、ミルクを与えるなどしてもらうようにします。
放射性ヨードは尿の中に存在するので、膀胱のコントロールに問題のある高齢の患者では、治療後最初の2日間、トイレを使う際に特に注意を払うようにしなければなりません。また、放射性ヨードは唾液中にも出るため、私共は患者に48時間誰ともキスをしないように言っています。最後に、放射性ヨードは母乳の中にも出てきます。そのため、母乳を与えているのであれば、医師が哺乳を再開してもよいと言うまで、哺乳をやめなくてはなりません。
実際に患者の家で測定が行われた時、治療を受けた患者から家族が被爆する放射線の量はごくわずかであることがわかりました。しかし、それでも被爆を最小限に留めるために、これらの簡単な注意を払うだけのことはあります。多くの病院では、他の人の被爆を最小限にするための方法を詳しく書いたガイドラインを用意しています[付録2]

甲状腺機能亢進症は、甲状腺の大部分を切除する手術によっても治すことができます。そのような方法を取った後、残った甲状腺の組織はまだ機能亢進の状態にありますが、組織の量が少なくなっているので、前ほどたくさんのホルモンを産生することはできません。したがって、血液中の甲状腺ホルモンのレベルは下がり、甲状腺機能亢進症の症状も治まるのです。
外科手術の準備のため、医師が数週間抗甲状腺剤で甲状腺機能のコントロールをすることになるでしょう。通常、ヨード錠も手術前に10日間処方されますが、それにより手術中の出血が少なくなるのです。
ほとんどの外科医は、患者が確実に治るに十分な量の甲状腺組織を取り除くため、甲状腺の約90%を切除します。甲状腺機能低下症が手術直後、あるいは後になって起こってくることがあります。しかし、もし甲状腺機能低下症が起こっても、甲状腺ホルモン錠で簡単に治療することができます。甲状腺ホルモンの投与量が正しければ、甲状腺ホルモンを飲んでいる患者は、まったく健康に感じているはずです。

[図19]甲状腺と反回神経
図19

あなたが外科治療を受けることを選んだのであれば、あなたと医師がもっとも気にかけることは、手術を行う外科医の選択であるはずです。頭部や頚部の手術には専門的な技術が要求されます。ほとんどの大病院では、甲状腺の手術のほとんどを行う専門の外科医をおいています。手術の合併症は重篤なことがあるため、外科医の選択は重要です。反回神経は声帯に行っていますが、甲状腺のすぐ側を通っています[図19]。

外科医が手術中に誤ってこの神経を切ってしまうと、たちまち声がしゃがれ、永久に治りません。また、血液中のカルシウムのレベルをコントロールしている副甲状腺を傷つける危険もあります。それが起こると、一生涯薬を飲まなければならなくなる可能性があります。多くの患者は、甲状腺の手術の後にどのような傷が残るのかを知りたがります。実際は、ほとんどの場合、数ヶ月以内に見えなくなります。主治医と甲状腺の外科医の選定について話し合う際の助けとなる、もっと詳しいガイドラインが[付録1]に載っています。
要するに、腕のよい、熟練した甲状腺外科医がいない場合は、放射性ヨードや抗甲状腺剤がバセドウ病による甲状腺機能亢進症のより安全な治療形態となります。その一方で、抗甲状腺剤にアレルギーがあったり、放射性ヨードを飲みたくない場合には、甲状腺の手術は活動の活発すぎる甲状腺の非常によい治療法となりえます。
あなたと主治医がこれら3つの主要な治療法のうちどれに決めたにせよ、医師は、アテノロールやメトプロロール、またはプロプラノロールのようなベータ遮断剤も処方することがあります。これは、体の組織内を循環している甲状腺ホルモンの作用を遮断するためで、心拍を遅くしたり、神経質さを減じたりして、何時間かのうちに全身的な症状の改善がはかれます。これらの薬は甲状腺機能亢進症に非常によく効くため、希なことですが、一部の医者の中には、この薬だけで病気の治療をする者がいます。しかし、従来の方法で甲状腺の機能が永久的にコントロールされるまで、一次的な症状の緩和のため与えられることの方が多いのです。
ベータ遮断剤は、一部の患者に対して不利益な点がいくつかあります。喘息を悪化させたり、心不全患者の心筋の収縮力を弱めたりします。しかし、ほとんどの甲状腺機能亢進症患者は若く、後者の合併症に遭遇することはめったにありません。重要性は低くなりますが、考えなければならないのは薬剤の作用時間で、患者によっては1日に3〜4回薬を飲むことが必要になります。筆者は、作用時間の短い“ペアレント薬”であるプロパノロール(インデラール)より作用時間の長い薬の方が1日1回の投薬で済み、便利なため、そちらのタイプの方を好んで使っています。糖尿病患者は、これらの薬剤により血糖が下がった(低血糖症)際の警告サインがはっきりしなくなることがあることを知っておかなければなりません。最後に、他の治療法が使えるならば、ベータ遮断剤を妊娠中に長期間使ったり、出産間近の時期に使うことは勧められません。これらの問題を起こす可能性はあるものの、安全性は非常に高く、今では多くの甲状腺機能亢進症患者の早期治療に普通に使われています。この薬により、他の手段で甲状腺のコントロールができるまで、患者は気分よくすごせるのです。
ヨードはもう一つの形の治療法です。ヨード単独では、甲状腺機能亢進症のよい治療手段とはなりませんが、外科手術との併用(前述)、または放射性ヨード治療後に使われることが多いのです。放射性ヨードが効くのを待っている間、3ヶ月から6ヶ月間、甲状腺機能亢進症を一次的にコントロールするため、医師がヨード錠または抗甲状腺剤を処方することがあります。放射性ヨード治療により、甲状腺機能亢進症の症状が治まってくるにつれて、これらの薬剤は徐々に量を減らし、やめていきます。
どの治療にも合併症を起こす可能性があるため、常に新しい薬の研究が行われています。しかし、ほとんどの患者は時の試練を受けた標準的な治療の一つにより、簡単かつ安全に管理されています。抗甲状腺剤、放射性ヨード治療または手術です。しかし、どの治療法をとったにせよ、甲状腺機能亢進症の治療を受けた患者は全員、生涯にわたって最低年1回、血清T4とTSH濃度の測定を含むフォローアップ検査を必ず受けるようにしなければなりません。こうすることで、甲状腺機能低下症が起きた時にすぐ検知され、治療を受けられるのです。

バセドウ病眼症

バセドウ病患者のほとんどは、目に問題を起こすことがないか、起こっても治療の必要がないほど軽度なものです。特にいちばん軽いケースでは、目の問題がひとりでに治ってしまうことがよくあります。もっと重篤な目の問題は、様々な形をとりますが、いずれもたくさんの治療法があります。主な症状が目のひりひりや涙目、あるいは充血であれば、通常“人工涙液”の点眼剤や目の潤滑軟膏で管理が可能です。睡眠中に瞼が完全に閉じないようであれば、目が過度に空気にさらされるのを防ぐため、医師が接着性紙テープで目を閉じるようにする“パッチ”を勧めることがあります。明るい光が煩わしい場合は、濃いサングラスが役立つことがあり、軽度な目の回りの腫れに対しては、夜間ベッドを高くしたり、作用の穏やかな利尿剤が時に有効なことがあります。目の腫れや、過敏状態、または突出を伴うもっと重篤な目の問題があれば、医師がコーチゾンのようなステロイド剤を量を上げて投与したり、目の後ろへのX線照射治療など、別の治療手段を勧めることがあります。これらの目の問題の根本は、目の後ろにある眼を動かす筋肉の肥大であり、そのためこれらの形の治療は筋肉の腫れを引かせるもので、それにより目の突出や周辺組織の腫れが減少します。時に、目の筋肉が腫れて炎症を起こすと、複視が起こることがあります。
しかし、これはレンズの中にプリズムを組み込んで合わせた特製のめがねで、軽いケースは矯正できるのが普通です。
非常に希ですが、バセドウ病眼症で、腫れた筋肉が、目の後ろにある視覚映像を脳に運ぶ視神経を圧迫するようになった場合、実際に患者の視力が脅かされることがあります。このような場合は、ステロイド、放射線治療、および目の筋肉の手術すべてが必要なことがあります。手術法は眼窩減圧法と呼ばれますが、大体の場合、効果があります。目の後ろのスペースを広げると、外科医が眼窩の底部や眼窩壁に新しく作り出したスペースに腫れた筋肉が広がることができるようになります。そのため、目の後ろの圧力が緩和され、眼球は眼窩内の正常な位置に戻ることができます。幸いに、この種の治療が必要なことはほとんどありませんが、そうなった場合は、バセドウ病眼症の管理に熟達した眼科専門医にかかるべきです。
新しい研究では、喫煙者は非喫煙者に比べ、このような目の問題を生じ易いことが示唆されています。したがって、あなたが喫煙しており、バセドウ病を発病したばかりであれば、直ちに禁煙しなければなりません。

まとめ

あなたがバセドウ病に罹っているのであれば、活動が活発すぎる甲状腺は、おそらくそのうちにペースが落ちてきて、不活発な状態になります。これは、甲状腺機能亢進症のコントロールに放射性ヨードや外科手術(どちらも甲状腺に損傷を与えます)という治療法を使った場合に、抗甲状腺剤単独で治療した場合より早く起こります。おそらく、何年もかかることはないでしょうが、まったく治療しなくても起こることがあります。要するに、バセドウ病の自然経過はゆっくりと進行し、後に甲状腺機能の減少へと進むようで、この過程は甲状腺に傷害を与える抗甲状腺治療で早められると考えられます。

これより以下は患者からの私記です。

バセドウ病  L.H.より

私は27歳で、過去にバセドウ病を患いました。1973年に不可解な症状が出始めましたが、私も主人も正常であると見過ごしてしまったのです。唯一悩まされたのは、いつも目の中に砂が入っているような感覚でした。それから文字どおり一晩のうちに炎症を起こし、腫れてかゆくなりました。すぐに眼科医のところに行き、ウィルス感染症と診断されました。しかし、その後夏の間中、私の目は正常に戻ったり、症状がでたりを繰り返していました。私は、それ以外に体に起こっていることが目に関係があるかもしれないとは一度たりとも考えたことがなかったため、私を診てくれた眼科医には話しませんでした。
いつも体重は気にしていましたので、一夏の間に15ポンドもやせているのがわかった時、すごいとは思いましたが、疑問を持つことはありませんでした。突然何でも食べたいものを食べたいだけ食べることができるようになり、それでも太ることはなかったのです。
私は病院の病棟で働いていましたが、そこにはエアコンはありませんでした。したがって、暑さに耐え難く感じるのは自然なことのように思えました。他の人も皆、暑いとぶつぶつ言っていましたが、私は誰よりも暑く感じ、人一倍汗をかいているようでした。
体重の減少と暑さが耐え難いという2点だけが、病気の最初の2〜3ヶ月間の症状でした。しかし、夏の終わりに何もかも一度に頂点に達したように思えました。
目が突き出してきて、簡単に目を閉じることができないところまで瞼がめくれ上がった時、どこかとても悪いのだということがわかりました。夜よく眠ることができなくなり、びくびくして、回りの人に対していらいらするようになりました。いちばん程度の軽い運動をした後、私の足はゴムのようになり、震えはじめました。頻繁に下痢が起こり、心臓は早鐘を打っているようでした。
夏の終わりに主治医が私の甲状腺が活発すぎることを見つけ、突然すべての症状が理解できたのです。主人や他の人が私を怒らせたり、いらいらさせようとしていたので、私は病気なんかでないと思っていたのですが、実はすべて原因は私の方にあったのです。残念なことに、私はとてもびくついて、興奮しやすい状態だったので、その時点で自分の病気のことを受け入れるのがとてもつらかったのです。私はまるで休みなく追い立てられているように感じており、ほんの些細なことで爆発するようになっていました。まわりの人を傷つけており、しかもそれを自分でコントロールできないことを知るのは堪らない気持ちです。私はとうとう仕事を止めなくてはならなくなりました。職場の暑さとフラストレーションのためとてもやっていけそうもなかったからです。私と主人は丁度私の病気が始まった頃に、本当に子どもを作りたいと思っていました。でも、抗甲状腺剤であるタパゾールの服用を開始した時に、この薬を飲んでいる間は妊娠しないように言われたのです。これも私がこの病気を非常に受け入れがたく感じた理由でした。しかし、治療の方法として、外科手術を受けることを決め、希望をもって2〜3ヶ月の間に何もかもよくなるだろうと感じていました。
私は眼科医のところに送られ、そこで夜目を閉じるためのテープの付け方を教わりました。テープを付けなければ、夜寝ている間に目が閉まらず、それが目がひりひりするようになる主な原因でした。だんだん目の具合もよくなり、テープを貼らなければならないという感情面への影響も薄れてきました。
1月に手術を受け、すべてうまくいきました。正直に言って、首が凝った以外は何もつらいことは思い出せません。問題は私の目に起こったことでした。角膜に潰瘍ができたため、5日間マサチューセッツの眼科耳鼻科診療所に行かなければなりませんでした。これは処置されましたが、目の炎症を抑えるためコーチゾンの錠剤を1ヶ月半飲まなければなりませんでした。私はこの薬を長いこと飲まなければならないのではないかと恐れていました。手術後6週間はずっと物がぼやけて見えました。そしてこのことが私の恐怖に輪をかけたのです。生涯重篤な目の問題に悩まされるのではないかという認識は恐怖以外のなにものでもありませんでした。
今、私が病気になってから5年経ちました。そして、この前この話を書いてからたくさんのことが起こりました。私はまだ甲状腺ホルモン剤を毎日飲んでいます。でも、基本的に量はここ何年も同じままです。1年に1回、薬の量が多すぎるか、少なすぎるのかを見るために血液検査をしてもらっています。今では、何が正常であるかを知っているので、自分で大体薬の量が正しいかどうか判断することができます。もう夜間目にテープを貼ることはありませんが、目を潤滑に保ち、寝ている間に目を開けている場合に備えて目を守るため、軟膏はまだ使っています。私はバセドウ病にかかる前と全く同じようではないと感じていますが、最初にこの病気になった時から見ると驚くほどよくなったと感じていることには間違いありません。新しい人に会った時、自分の外観について意識することもなく、説明しなくてはと思うこともありません。私が自分の経験を新しい友人に話す度に、みんな本当に驚き、私の目に悪いところがあるなど何も気が付かなかったと言うのです。
それでも、私自身のことでお知らせしなければならないいちばん大事なことは、この話を最初に書いた時から、今では2人のかわいい元気な子どもがいるという事実です。息子は手術後7ヶ月で妊娠しました。そして今4歳です。もう一人、生後7週間の娘がいます。言うまでもないことですが、主人も私も自分達の家族にわくわくしています。妊娠、出産は2回とも正常でした。そしてまったく何の合併症も起こらなかったのです。最初の子どもは少し妊娠しにくかったのですが、これは手術の後あまり時間が経っていなかったためだと思っています。どちらの妊娠の場合も、すぐ後に私の薬の量は間違いなく、甲状腺ホルモンのレベルも正常であることが確かめられました。子どもは2人とも正常で、健康であり、私共の大きな喜びとなっています。

放射性ヨードで治療した甲状腺機能亢進症  R.D’Aより

私は1977年に49歳で子宮摘出術を受けたので、私の症状はすべて更年期のためだと思っていました。体に起こるちょっとしたことは、このような大きな手術の後では当たり前だと思われたのです。わずかな活動で脈が速くなり、時々は静かに座っている時でさえ動悸がしたのです。とても神経質になり、夏の暑さはいつもの夏よりひどいように思えました。体はいつも湿ってじとっとしていました。これはいわゆるのぼせなのだと考えて、できるだけこの状態を無視するように努めていました。腕や足の筋肉が弱り、ジャーのふたを開けたり、椅子から立ち上がるのにも困難を覚えるほどでした。階段を上るだけでも、足が疲れたのです。
夏が過ぎるにつれ、私を悩ませる他の変化が起こってきました。目がかゆく、手が震え、爪には皺が寄り、きれいにしておくことができなくなりました。そして、着実に体重が減っていったのです。これは突然起こった更年期からくる神経性のものだと自分に言い聞かせていたのです。
8月に衰弱のためとうとう入院しました。私の担当看護婦が、私の脈が1分間に140あると言いました。医師は甲状腺の病気の疑いがあると言い、血液検査と甲状腺のスキャンを命じました。検査の結果、その疑いが確かめられました。甲状腺機能亢進症だったのです。
医師は私の病気を治療するためにプロピルチオウラシル錠の投与を始めました。
“PTU”(名前全体を覚えることがどうしてもできなかったのです)は甲状腺の働きを抑え、気分をよくするためのものだと教えられました。間違いなく、1週間かそこらの間に、気分が落ち着いてきたのを感じはじめ、脈も遅くなってきました。1ヶ月が経つ頃までに、ほとんど正常に戻りました。汗のかきかたも少なくなり、動悸もなく、少しばかり力も出てきたのです。また、15ポンド減った体重もいくらか戻りました。
医師から、PTUは気分をよくする助けにはなるが、薬をやめると甲状腺の病気がすぐ再発する可能性があると説明がありました。そこで、さらに治療を受けるため、11月に甲状腺専門医に紹介されたのです。
新しい医師は、私の甲状腺ホルモンの量が全く正常であることを血液検査で確かめるまで、しばらくの間私にPTUを続けさせました。私の甲状腺は長いこと活動し過ぎの状態にあり、また、PTUを飲んでいる間に小さくならなかったため、この薬ではおそらく病気は治らないであろうと説明がありました。また、PTUを治る見込みのない人の治療に長く使うのは好ましくないとも言われました。これは、時に白血球を傷めることがあり、そのために感染やその他の重篤な合併症につながる可能性があるからです〈注釈:この医師の説明はおかしい。抗甲状腺剤による白血球減少の副作用はクスリを飲み始めの2〜3ヶ月以内出ることが分かっています。それ以後はいくら長期に服用してもその副作用はでません〉。また、私がPTUを飲んでいる間に、感染があったり、熱が出た場合は、近くの病院で白血球数を調べてもらうようにし、報告を受けるまでPTUの服用を再開してはならないと言われました。
幸いにそのようなことはまったく必要ありませんでした。
医師は、私と甲状腺の病気を治療できる他の方法について話し合いました。手術または“RAI”(放射性ヨード)です。どちらの治療についてもすべて完全に説明がありました。私のように特異的なケースでは、RAIの方がよいと勧められました。RAIの安全性については保証されましたし、医師の選んだ治療法に絶対の信頼がおけましたので、同意しました。12月にPTUを3日間中止し、放射性ヨード取り込み検査が行われました。結果は私に見せられ、全部詳しく説明されました。
その朝遅くに、小さな紙コップに入った放射性ヨードの“飲み薬”を医師がくれました。それは無味、無色、無臭で、何よりもよかったのは、痛みがなかったことです。RAIを飲む際にいちばん難しかったのは、私がそれを放射性の化学物質だという事実を知っていたことです。2〜3秒のうちに全部終わり、帰宅の途につきました。
1週間後、放射性ヨードが完全に効くのを待ってから、PTUの服用を再開しました。最終的にPTUの服用はやめましたが、それ以来全く元気な状態です。
必要なのは、年1回の甲状腺のフォローアップ検査だけです。今はどんな薬も飲んでいません。
今は全く元気ですし、たいへんありがたく思っています。
私の甲状腺は将来いつか徐々に機能が落ちてくることがあり、それが年1回の“健康診断”の理由だと教えられました。また、甲状腺の機能が落ちてきたら、1日1回甲状腺ホルモンの錠剤を飲み、その差を埋め合わせて体の健康を保つことができることも知っています。

書籍の翻訳

Web診察予約サービス
http://j-tajiri.atat.jp/
予約電話番号
096-385-5430
甲状腺ニュース
PAGETOP
Copyright © TAJIRI CLINIC. All Rights Reserved.