第12章:甲状腺がん

他の部位のがんに比べると頻度も低く、全がん死の0.5%にすぎません。イングランドとウェ-ルズでは毎年100万人のうちたった6人がこの病気で死亡するのみです。どの年齢でも起こりますが、30~60歳の人に多く、他の甲状腺疾患と同じで女性に多い。

甲状腺がんの原因は?

甲状腺がんの原因ははっきりしませんが、首、頭部、胸部への放射線被曝の既往は甲状腺がんの誘因になるようである。1940年代には、アメリカの一部のセンターで子どもの扁桃腺炎やアデノイドに対して、手術よりも放射線治療の方が好まれて行われていた。顔のニキビにも放射線を当てていた。この治療を受けた子どもは10~60年後に多くが甲状腺がんになった。このような良性疾患への放射線治療は、いまでは全く行われていない。腫大した胸腺、首や顔の赤あざに対して放射線治療を受けた子どもも多くが大人になって甲状腺がんになった。
日本では原爆の被爆者で1950年代以降甲状腺がんが増えている。原因がなんであれ甲状腺腫がある人が甲状腺がんになりやすいわけではなく、甲状腺がんになった人は、以前は甲状腺には何の異常もなかった人に多い。

  • 甲状腺がんを疑わせる所見としては以下のものがある
  • 頭部や首への放射線治療の既往
  • 痛みの有無にかかわらず、シコリが急に大きくなったとき
  • 子どもや男性の場合のシコリ、又は、非対称性の甲状腺腫大(男性では甲状腺疾患は希であるので)
  • 嗄声(しゃがれ声)
  • シコリを伴う頚部リンパ節の腫大
  • シコリが硬いとき

甲状腺がんにはどのようなものがありますか?

1. 分化型甲状腺がん

分化度の高いもので、形態的に正常の甲状腺細胞のように見え、機能的にも正常のそれと同じ様であり、たちが良い。

2. 未分化がん

分化してないもの(未分化)で手に負えない位、悪性である。

分化型甲状腺がん

この型では悪性化した細胞は、ずっと正常細胞のようにみえ、そのように振る舞う〈注釈:分化型甲状腺がんには乳頭がんと濾胞がんがある。これについては、甲状腺の病気[病気別]/甲状腺がんをみてください〉。このがん細胞はTSHにも反応するし、血中からヨード(放射性ヨード)を細胞内へも取り込む。ゆえにこのタイプの甲状腺がんはたちがよい。発育もゆっくりしていて時間が経ってから遠隔転移を来す。このがん細胞が放射性ヨードを取り込む力を持つために、転移巣の診断や治療が可能になる。
又、経口的にサイロキシン(チラージンS)を投与することで、下垂体からのTSHを低値に抑えるなら、がん細胞を発育させるTSHの作用を減少できる。

未分化がん

頻度は低いが、甲状腺がんには未分化のものがある。この無政府主義者のようなたちの悪い未分化な細胞はコントロールすることが難しい。発育が速く、甲状腺周囲の臓器へ侵潤する。これを外科的に切除することは難しい。
甲状腺がんには他に2~3種類ある。これらについても簡単に述べる。

甲状腺髄様がん

この大変希ながんは厳密に言うと、甲状腺由来の細胞からではなく間借り人のような細胞から悪性化する。いわゆるC細胞とか傍濾胞細胞と呼ばれるこの細胞は、甲状腺ホルモンを作ったり分泌はしない。これらは、血中のカルシウムを調整するカルシトニン(calcitonin、ゆえにC細胞)と呼ばれるホルモンを作る。又、腸の働きを増して下痢を起こすホルモンも分泌する。このがんは家族性に出てくる傾向にあり、アドレナリンやノルアドレナリンを沢山作って高血圧を引き起こす褐色細胞腫という副腎腫瘍を合併することもある。しかし、髄様がんは大変希なので褐色細胞腫を合併したとき以外はあまり問題とならない。

転移性甲状腺がん

時々、甲状腺には肺がん、乳がん、腎がんからの転移が見られるが、この時期になると原発巣は明らかになっており診断は難しくない。

甲状腺がんの症状は?

もし、甲状腺がんの最も多いタイプ『分化型がん』になったら、一番最初に気付く症状は、首の小さなシコリである。このシコリは丸い結節で硬いことが多い。通常は痛みはなく、最初はエンドウ豆より小さい。がんになる前は甲状腺は全く正常こともあるし、以前より甲状腺が腫れていることもある。甲状腺内の異なった場所から同時に甲状腺がんが出来ることもあるので、時としては二つ以上のシコリを触れることもある。がん細胞が首のリンパ節に転移したときには、このリンパ節腫大のために医師を訪れるかも知れない。しかし、この時も甲状腺からの転移とは全く考えていないことが多い。
分化型甲状腺がんも治療せずに放置されると、最終的には体の他の部位に転移することもある。がん細胞は血液やリンパの流れにのって肺、肝臓、骨に転移する。転移のために骨の破壊がかなり進まなければ、骨の痛みなどの症状はなにもない。転倒などの誘因もなく骨が折れた時(これを病的骨折という)痛みは突然起こる。がん細胞が声帯を動かす神経(反回神経)に浸潤したら、声が嗄れてくる。
未分化がんは高齢者に出来やすい。シコリは急速に大きくなり通常痛みを伴う。
がん細胞が皮膚に浸潤するために皮膚は炎症の時のように赤くなる。甲状腺の周囲組織にも浸潤するためにものを飲み込む時に、普通は甲状腺は上下に動くが、動かなくなる。嗄れ声は多くの場合みられる。

甲状腺がんの診断

医師がこの病気を疑って、針生検もしくは手術によって組織を取って(試験切開)、顕微鏡でみて診断する。時として、アイソトープ検査も診断の助けになる。
以下のような症状があれば甲状腺がんを疑う。

  • シコリの急速な増大
  • 以前には甲状腺に異常のなかった人が、突然シコリが出来たとき
  • 頭、首、胸部への放射線照射治療の既往
  • 亜急性甲状腺炎や橋本病のないときの甲状腺部の痛みや不快感
  • 嗄れ声。この症状の原因は他に多くのものがあるが

ヨードシンチやテクネシウムシンチ、特にヨードシンチはがんでないことを診断するには有用かもしれないが、がんであることを診断するのには難点がある。 がん細胞は、正常甲状腺細胞と比べてヨードを取り込みにくい。多くの良性のシコリは放射性ヨードをとりこむが、しかし、放射線ヨードをとりこまないで“コールド”〈注釈:放射性ヨードを取り込まないことを、医学的にコールドという〉を示す良性のシコリも又多い。このように、もしシコリが放射性ヨードを取り込めば、がんは考えにくい。もし、シコリが放射性ヨードを取り込まなければ、がんか良性かは分からない。そのような場合には針生検が行われるが、その結果でもはっきりしないときは手術が勧められる。甲状腺ホルモンも測られるが診断にはあまり役にたたない。ただ、甲状腺機能亢進症があればがんは普通考えにくい。

頚部リンパ節腫大

頚部リンパ節腫大の原因には、問題とならないようなものから大変重篤なものまで多くある。幸いにも、重篤なものは少ない。単なる咽頭炎や伝染性単核球症から結核やがんまで様々である。通常は医師の診察や簡単な検査で十分だが、時としてもう少し詳しい検査を要し、試験切開(手術でリンパ節を切除する)をすることもある。

甲状腺がんの治療

分化型がん

分化型甲状腺がんは通常、治療で治せる。手術中、疑わしいところがあると、切除し顕微鏡で調べる。これががんならば、甲状腺全部を切り取る(甲状腺全摘術)。このようにがん組織のみでなく、正常組織も切り取られる。正常と思われるところにがん細胞があるかもしれないので、甲状腺を全部切除するのである。熟練した外科医が手術をすると、声帯を動かす神経(反回神経)や副甲状腺への損害も少なく、甲状腺全摘術は終了する〈注釈:分化型甲状腺がんに対しては、甲状腺亜全摘術と言って、正常甲状腺組織を少し残す手術を推奨する医師も多い〉。甲状腺の周囲のリンパ節も転移があることが多いので一緒に切除する。手術が終わって数週間してから、正常細胞、がん細胞も含めた残存組織を全て破壊するために治療量の放射線ヨードを投与されるかもしれない。この治療のために特別な施設で1週間の入院を要する。放射線ヨードを投与された後は、尿中に出る放射線ヨードが基準値に下がるまで、入院を要する。退院時に、いつから仕事に出て良いか、子どもや他の大人との接触はいつからよいかを指示される。治療後しばらくしてから甲状腺ホルモン剤の投与を受けることになるでしょう。サイロキシ(T4:日本での商品名はチラージンS)かトリヨードサイロニン(T3:日本での商品名はチロナミン)が処方される。甲状腺機能を正常にするためではなく、血中TSHを正常以下にすることを目標としてクスリの量は決められる。甲状腺機能亢進症を引き起こす程の量は投与してはいけない。血中TSHを抑制することで、もしがん細胞が残っているとしてもTSHの刺激を避け、それ以上増殖しないようにする。6~9ヶ月後に、治療が上手く行っていることを確認するために検査を受けるでしょう。最近では6~12ヶ月のインターバルで血中サイログロブリンを測定することでがんの再発の有無をみる。このサイログロブリンは正常の人でも血中に少し存在している。上記のような治療を受けた分化型甲状腺がんの患者では、正常及びがん組織を全摘しているので血中サイログロブリン値は0か、ごく微量である。血中サイログロブリンの増加は再発を意味する。このように、甲状腺の働きを正常にして、血中TSHを抑えるためにサイロキシンを飲んでいる間は、血中サイログロブリンを測ればよいだけである。もし、血中サイログロブリンが増加してきたら、甲状腺ホルモン剤を血中TSHが正常もしくは増加するまで、数週間中止する。それから、検査量の放射線ヨードが投与され、首及び、体全体に取り込みがないかを調べる。頚部にアイソトープが取り込んだときには、残存正常甲状腺かがんの取り残しか頚部リンパ節転移であろう。又、体の他の部への取り込みは遠隔転移を意味する。
もし、残存正常腺甲状腺があることが分かったら、Ablation dose(甲状腺組織を破壊する量)を投与され、再び甲状腺ホルモンをのみ始めます。血中サイログロブリン測定が可能になるまでは、毎年ヨードシンチを行っていた(今でも、しているところがあるが)。そして、再発を発見したら、治療量の放射性ヨードを投与する。

未分化がん

未分化がんは早期なら手術で切除できることもあるが、治療としては放射線治療が最も効果的である。

ここに分化がんの甲状腺がんを持つ女性を例にあげて説明する。当初はベストの治療ではなかったが、今ではよく治って健康である。

私が35歳になったときに、甲状腺に小さなシコリが出来た。しかし、それは気にならなかったので放っておいた。
2年後に3番目の子どもを出産しました。この妊娠中にシコリは大きくなりました。40歳まではシコリは医師が気付くほどは大きくならず、ずっと同じでした。40歳の時に、外国で暮らすことになったので、その前に手術で切除してもらったところ、甲状腺がんと診断を受けた。そのときから、甲状腺ホルモン剤(T4)をのんでいる。4年後、アフリカに住んでいたときに手術した側と反対の方にシコリが出てきた。今度は甲状腺をすべて切除し、甲状腺ホルモン剤の量も増えた。46歳の時に、英国に帰ってきたときに右のあごの下にシコリを感じるようになった。ヨードシンチをしたところ、甲状腺がんのリンパ節転移ということが分かった。手術で数個のリンパ節が切除された。それから、治療量の放射線ヨード治療を受けた。
私は今56歳です。50歳まではヨードシンチ検査を毎年受けました。その後は6ヶ月毎に血中サイログロブリン値を調べています。再発もなく、毎日250μgのサイロキシンを服用して元気です。

問題と解答

Q1. 多くの検査を受け心配ないと言われたのに手術を勧められました。私には理解できません。
検査では甲状腺機能は正常でした。しかし、生検でははっきりとせず、がんではないという確信が持てません。はっきりさせるには手術するのが一番良い方法です。たとえがんとしても、予後は大変よいです。
Q2. ヨードシンチではがんの取り残しもないようです。来年も又、この検査をしなければならないのですか?
その必要はありません。将来は血中サイログロブリンという物質を測ることでがんの再発をみれます。サイログロブリン値で異常が出たときのみ、ヨードシンチが必要となります。
Q3. サイロキシン(チラージンS)の服用量が増えてきました。これは病気が悪くなっているのですか?がんが再発したのですか?
多分、違うでしょう。TSHの抑制が足りないためにサイロキシン(チラージンS)の量が増えたのでしょう。TSHは残存している甲状腺がん組織を刺激するので低くしておかなければなりません。
Q4. しかし、サイロキシンを増やすと神経質になったり。興奮しませんか?
甲状腺ホルモンは正常上限にするのを目的をしていますので、のみすぎにはなりません。
Q5. 甲状腺がんではないことは確かですか?
多分。あなたにはシコリは一つに感じるかもしれませんが、シンチでは甲状腺に大きな結節が多発しています。その所見はがんではない可能性が高いです。

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