第7章:橋本病

  • 橋本病(橋本甲状腺炎・慢性甲状腺炎などとも呼ばれる)は、次のような理由で重要な疾患である。
  • 多い病気で、女性が10倍多い。
  • 甲状腺腫の一番多い原因である。特に成人女性に多い。
  • 甲状腺機能低下症の主要な原因である。甲状腺機能低下症の一番多い原因はヨード不足であるが、多くの地域では低下症の最も多い原因である。

橋本病の原因

《第2章》で説明したように、橋本病は自己免疫疾患であり、甲状腺細胞と反応する自己抗体によって引き起こされるようである。そのような抗体が何故できるのかはわからないが、特別な遺伝的素因をもつ人に出来やすく、家族歴で他の自己免疫病を持つ。
血中にマイクロゾーム抗体という抗体があり、これはリンパ球により産生される。この抗体は甲状腺の中に浸潤し、甲状腺細胞を破壊するが、この経過は大変ゆっくりしたものである。

橋本病の経過

この病気は、数年にわたって経過し、その間によくなったり、悪くなったりを繰り返す。どの病期でも、あたかも病気の進行が止まってしまって固定したように思える。橋本病になったら、自分で気付いて病院に行くかもしれない。例えば、小さな甲状腺腫が最初の症状であるかもしれない。しかし、多くの場合は甲状腺機能低下症が出現するまで、病気に気付かない。
橋本病の一部の人では、数週間~数ヶ月間の一時的な甲状腺機能亢進症になることがある(Hashitoxicosis)。この機能亢進状態になると、バセドウ病と同じ症状が出現するし眼の症状も出る。Hashitoxicosisは甲状腺刺激抗体によるものであるが、この状態は長くは続かない。何故なら、甲状腺を破壊する抗体の方がずっと強力であるので。

症状は?

橋本病の初期は、小さな甲状腺腫以外は無症状のことが多い。時間が経つにつれて、前頚部に異和感を覚えるようになるが、甲状腺部の軽い圧痛はあるものの、自発痛などはない。時々、物を飲み込む時に異和感を感じるときもある。
もし、Hashitoxicosisになったなら体調は悪くなり、体重減少、動悸、暑がりなどの症状がでる。軟便になり眼光も鋭くなる。以上のように、バセドウ病と同じような症状が出るかもしれない。
時間が経つと、甲状腺の働きが正常から低下してくるにつれて、甲状腺機能低下症の症状が現れてくる。しかし、これらの症状は閉経後や年のせいにされてしまうこともある。

診断は?

基本的には、血液中の甲状腺自己抗体によって診断される。この抗体の力価は、病気が進むにつれて高くなる。病気の終末に甲状腺全体が破壊されてくると、自己抗体は低下し、陰性化することもある。低下症になっても、症状は軽くて自覚しない人が多いため、甲状腺機能は長期に渡って定期的に診る必要がある。
チラージンSによる治療で、甲状腺腫が大きくなるのを防いだり、さらに甲状腺腫を小さくできることがある。しかし、チラージンSによる治療の重要な目的は、低下した甲状腺機能を正常にすることである。チラージンSによる治療は甲状腺ホルモンが低下してから始めるのか、甲状腺ホルモンは正常でもTSHが高値になったら始めるかについては意見が分かれている。
一部の医師は、T4が正常でもTSHが高値で自己抗体陽性なら、チラージンSの治療を始めることを勧める。
そのような例(TSH高値+自己抗体陽性)の5%が毎年甲状腺機能低下症に陥っていく。早めに治療を始めても何の害もない。薬を飲み始めて、調子がよくなることで、今まできずかなかった体調の不調の存在に初めて気付くことがある。

治療

甲状腺細胞を非自己を間違って認識している免疫異常を直す安全な手はない。以上の如く橋本病の原因治療はない。
Hashtoxicosisなら短期間、ベーター・ブロッカーや抗甲状腺剤を使うこともある。
亜急性甲状腺炎のように痛みが出れば短期間、副腎ステロイドを使う。チラージンS投与で甲状腺腫を小さくすることはできるが、一般的にはチラージンSによる治療の目的は、甲状腺ホルモン補充療法である。甲状腺機能低下症の予防と治療が治療の主体である。チラージンSによる補充療法が最良の治療である。
時として、甲状腺がんの合併が疑われたときには手術を要することもある。甲状腺が大変硬いときや甲状腺の腫れに左右差があるときにがんの合併を疑う。通常は針生検をすることで診断は付く。嗄声の出現、気管の圧迫症状やチラージンSの治療にもかかわらず甲状腺腫が大きくなる場合は手術をした方がよい。橋本病では他の自己免疫疾患を合併している可能性を忘れてはいけない。その自己免疫病は治療を要する場合がある。Angelaを例にとって橋本病経過についてみてみましょう。経過が大変長いことに注目してください。

私は60歳で、大変健康です。一日3錠のチラージンSをのんでいます。17歳のときに、母親が私の甲状腺が少し腫れているのに気付きました。私のおばさんがバセドウ病なので、甲状腺について知識があったのでしょう。数年したら、私の甲状腺腫ははっきりと分かるようになりました。家庭医にみせたところ、甲状腺は少し腫れているが軟らかく、バセドウ病とは思えないと言いました。彼は大きい病院に紹介してくれました。そこで検査したところ血中に抗甲状腺抗体を持っていることが分かりました。しかし、血中の蛋白結合ヨードは正常でした。これは昔やっていた甲状腺機能検査ですが、このときはこれ以上の検査はしてもらいませんでした。
その後も健康で甲状腺腫も気になりませんでした。28歳のときに、甲状腺腫は小さくなってきたのですが、前頚部に異和感を覚えるようになりました。その異和感はそれ程ひどくはなかったのですが、時々、ものを飲み込むときに痛いことがありました。医師にみてもらったところ、甲状腺は硬さを増しており少し圧痛があるのみで特に心配はないとのことでした。
48歳のとき、疲れやすさを感じるようになりました。自分では更年期だし、2人の娘の面倒をみなければならないのでそれで疲れやすいのだと思っていた。生理の量も多く。家事や買い物もつらく感じていた。そこで、医師に又みてもらったところ、検査で血中TSHが高くなり、甲状腺ホルモンは低値で甲状腺の働きが落ちていることが分かった。彼によれば、甲状腺はもはや触れず、甲状腺機能低下症に陥っているとのことでした。そのときから、チラージンSをのみ始めました。生理は正常になり、54歳で閉経しました。

橋本病の人が上に述べたようないろいろな症状を全部持つことは珍しいし、同じ患者を30~40年間ずっと診る医師もほとんどいない。

問題と解答

Q1. 自己免疫疾患とはどういうものですか?
例えば細菌など非自己のものを認識して攻撃する細胞(リンパ球)があなたの甲状腺細胞を非自己と認識することである。甲状腺の自己免疫疾患は甲状腺機能亢進症と低下症の両方を引き起こす。
Q2. おばさんはバセドウ病なのに何故自分は甲状腺機能低下症になるのか?
あなたもおばさんも自己免疫性甲状腺疾患をもっています。おばさんの場合は抗体は甲状腺を刺激し、あなたの場合は甲状腺を破壊する。
Q3. 治療で甲状腺は小さくなりますか?
チラージンSを規則正しくのみ続ければ多分小さくさるでしょう。
Q4. 子どもも一度は検査すべきでしょうか?
普通、5歳までの小児では必要ありません。もっと大きくなってから自己免疫疾患は出てくることが多い。ただ、今は異常なくても将来出てくるかもしれない。今は異常なさそうでも、しばらく経過をみるのが一番よい方法である。もし、甲状腺が腫れてきたら、検査をする必要がある。

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