第5章:バセドウ病による目の症状

甲状腺機能亢進症に基づく眼症状

どのような原因によって起こる甲状腺機能亢進症でも眼症状はよくみられる。あなたは心配かもしれないが、多くの場合この症状はあまり問題にならない。上マブタがめくれ上がり白マナコが目立つようになる[プレート7]
知人や家人はあなたの眼姿がまるで女優が恐怖を表現するためにする演技のようであると言うだろう。 これを上眼挙退縮という。下を向いたとき上マブタが眼球の働きについてゆけず白マナコが目立つ。これをlid-lagと言う[プレート8]。これらの症状は甲状腺の働きが正常化するにつれてよくなってくる。

バセドウ病特有の眼症状

バセドウ病でみられる眼症状は上で述べたものよりずっと問題である。橋本病の患者でも同様の眼症が希にみられることもある。甲状腺と眼症の時間的な関係はまちまちである。通常は眼症は甲状腺機能亢進症と同時にみられることが多いが、時として眼症が先行してみられることもある。いちばん希だが、甲状腺が落ちついて数ヶ月〜数年して眼症が出ることもある。甲状腺機能亢進症がいつ合併しようともこの状態は甲状腺眼症又はバセドウ病眼症と言われる。しかしながら、時に甲状腺の働きが正常の人でも眼症がみられる。これをeuthyroidバセドウ病眼症という。通常は両眼に病変が出るが時として片眼だけの場合もある。

バセドウ病眼症の原因は?

眼球は眼窩という骨でとりかこまれた入れ物の中におさまっている。その眼球後部のところに炎症が起こるためにバセドウ病眼症になると考えられている。この炎症は自己免疫機序で引き起こされる。炎症は主に眼球を動かす筋肉にみられる。眼症状と甲状腺機能は一致しないので、眼症をひき起こす抗体と甲状腺を刺激する抗体は違うことは明らかに分かる。

どのような眼症状をひき起こすか?

[図4]
図4

炎症のために眼球後部の腫脹が起こり眼窩内の圧が増す。この圧が増すことによっていくつかの問題が起こる。

  1. 眼球が前に押された状態になる。これは突眼症といわれる。この状態になると眼の症状がより目立つ[プレート9]。医師はどれくらい眼が出ているのかを突眼計[図4]にて測る。
  2. 眼窩内の圧増加は眼球の血管等の循環を悪くして上マブタがはれぼったくなる。涙腺に病変がおよべば腫れはもっとひどくなる[プレート9]。下マブタの循環が悪くなると下マブタがまるで“バッグ”のようにみえることがある。
  3. 眼球が突出するためにゴミ、風などの刺激にさらされ易くなる。眼に異物感を感じるために涙が多くなり、頻繁にハンカチで拭くことになる。結膜が傷ついて炎症を起こし痛くなることもある。たびたび眼球結膜は浮腫状になり充血してくる[プレート10]
  4. 眼球を動かす筋肉が炎症を起こすと眼球の動きが悪くなる。上方視にまず、最初に障害がでる。そのために頭を後ろに傾けなければ上をみることができないことに気付く。その姿勢を続けるを首がこったようになるなる。時間が経つと、左右の眼がいっしょに動かなくなると物が二重にみえるようになる(これを複視という)。医師が鉛筆をまっすぐ立て、この鉛筆をまっすぐに見るよう指示し、それから上や横に鉛筆を動かしたときその鉛筆に従って眼を動かしていると2本にみえる。
  5. 眼窩内の圧の増加は視神経を圧迫して視力を低下させる。
  6. 視力をも低下させるようなひどい眼症は悪性突眼症といわれる[プレート10]。がんとは何の関係もないのでこの病名は適当ではない。にもかかわらず、この状態は重篤で治療をしなければ失明する。

検査は?

甲状腺機能亢進症があれば診断はやさしい。しかし、甲状腺機能亢進症がみられない場合とか、突眼が片目だけのとき(片目の突眼を来す疾患は沢山ある)は、診断が難しくなることがある。甲状腺自己抗体が存在すればopthalmicバセドウ病(甲状腺正常の眼症)の診断の助けになる。ophthalmicバセドウ病の60%は甲状腺刺激抗体が陽性である。さらに甲状腺ホルモンレベルは正常でも血中TSHが抑制されている。診断をつけるためにX線特殊撮映や超音波を必要とするかもしれない。CTスキャンは眼窩内をいろんな方向で輪切りにして数スライスを撮映することで、眼窩内の病変を知ることができる。バセドウ病眼症では外眼筋の特長的な肥厚がみられる[プレート5]。眼科専門医に一度みてもらう方がよい。そこでは次のようなテストがされる。

  • 視力測定
  • 色の識別力検査
  • 角膜、結膜が傷ついていないかどうか
  • 眼圧測定
  • 視野検査
  • 複視検査

治療

眼症の症状が軽くて、症状が悪化しないのなら特に治療は必要ない。理由ははっきりしないが男性やタバコを吸う人で眼症はひどくなることが多い[プレート12]。上マブタがめくれあがることによるびっくり目は、甲状腺機能が正常化すれば2/3の人でよくなる。上マブタのめくれ上がりはベータ・ブロッカーでよくなることもある。もし、上マブタのめくれ上がりが続くようなら形成手術をするとよくなる。薬に比べてアイソトープ治療や手術の後に眼症が悪化することが時々ある。このことは証明されているわけではないが、多くの医師はまず薬で治療を始めて眼症の症状をみるのが賢明と考えている。低下症になると眼症が悪化することがあるので薬の効きすぎで甲状腺機能低下症にしないことが重要である。眼に異物感があれば、昼はメチル・セルロースの点眼を夜は油性軟こうを使うとよい。枕を重ねて高くして眠ると眼の腫れがよくなることもある。利尿剤を使うと良いときもある。横からの風やゴミから保護してくれるサングラスをかけると眼は楽になる。
甲状腺機能が正常化するにつれて2/3の人では複視はよくなってくる。しかし、複視が続くと大変問題になる。最初のうちは読書やテレビをみるときに片目に眼帯をすることでのりきれる。眼鏡をかけるときは、一方のレンズの内側にマニキュアをぬると見やすくなる。
場合によってはプリズムを作ると複視がすこし改善するかもしれない。将来、眼症状が固定したら、眼科医によって外眼筋の手術をすれば、複視はよくなる。甲状腺機能が落ちつくにつれて、20%の人で眼球突出は自然に良くなってくる。約半数はずっと変わらず20%は治療を受けなければ悪化する。突眼を改善するには、副腎皮質ホルモンが有効である。時として他の免疫抑制剤をいっしょに使う[プレート13,14]。時として眼裂の端のところを縫い合わせると眼裂が狭くなり、眼球を保護し、見てくれが良くなる。
希に10%位の患者で眼窩内の圧力を減ずるために眼窩を取り囲む骨の一部を削る手術をして眼球突出を改善することがある。眼窩減圧術には2〜3のやり方がある。現在では傷を残さずに口の中から眼窩下部の骨を削る。眼症状、視力障害、美容上の改善がみられる[プレート10,11]。 バセドウ病眼症は例外なく全ての患者にとって重大な問題である。バセドウ病眼症は治療に抵抗性があり、残念ながら、最良の治療が施されたとしても一部の患者では症状が続く。

問題と解答

Q1. バセドウ病の全ての人が眼症を持っているか?
いいえ、一部の人のみです。多くの患者は全経過を通じて眼病状が出ない。
Q2. 眼症があればすぐ眼症の治療を始めるのか?
甲状腺機能亢進状態を良くすれば眼症もよくなることが多いので、甲状腺機能が落ちつくまで眼の治療は待つ。
Q3. 今月になって眼の異物感もとれてきて涙も減った。これは良い徴候ですか?
はい。我々が望んでいることです。さらに良くなる徴候です。
Q4. かつてはきれいな眼でしたが今は恐ろしいような眼になりました。上マブタは腫れぼったく、下マブタはバッグのようにたれ下がっている。
可能なら枕を重ねて高くして眠りなさい。利尿剤で尿をだすと良くなるかもしれません。いったん甲状腺の働きが落ちついても眼の病状があれば眼症の治療を考えなければならない。
Q5. 複視はそのうちよくなるか?
甲状腺ホルモンが正常になれば眼症はよくなると思うが、甲状腺とは関係なく良くなったり、悪くなるかもしれない。もし、眼症がよくならないで、正面を見たときにも複視があるようなら、眼症の手術を考える必要がある。

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