甲状腺に痛みがなければ、無痛性甲状腺炎です。

この病気は慢性甲状腺炎を持つ人がなり易いといわれています。希ですが、バセドウ病の治った状態の人、橋本病を持たない人でも起こります。
お産の後にでる場合とお産とは関係なくでてくる場合があります。
3~4ヶ月で自然によくなることが多いために、産後の肥立ちが悪いと言われていたものの中にこの病気があったかもしれません。

右の図のように一時的に甲状腺ホルモンが血中に漏れ出て、血中甲状腺ホルモンが高くなり、その後低下して元に戻る病気です。
原因はわかっていませんが、何かの理由で甲状腺の組織が壊され甲状腺ホルモンが血中に漏れ出てきて、そのときは甲状腺ホルモンが高くなります。しかし、1~2ヶ月すると甲状腺ホルモンは低下してきて反対に甲状腺機能低下症になります。これは壊された甲状腺組織が修復される間、甲状腺ホルモンが作れないためです。甲状腺機能低下症は2~3ヶ月で良くなり、もとの正常な甲状腺機能に戻ります。しかし、20~30%ではそのまま永続性甲状腺機能低下症になる人もいます。

無痛性甲状腺炎の臨床経過

図:無痛性甲状腺炎の臨床経過
*大阪大・網野先生の論文より引用

甲状腺ホルモンが高くなりますので、バセドウ病と間違われることがあります。バセドウ病と鑑別する一番確実な手段は、放射性ヨード摂取率試験です。診断をしっかりつける理由は、治療が全く違うからです。バセドウ病は抗甲状腺薬などの治療を必要としますが、無痛性甲状腺炎は特に治療を必要としないことです。不必要な治療は避けたいものです。

治療は特に必要なく、動悸の強いときベータ遮断薬を飲むぐらいです。しかし、この病気は亜急性甲状腺炎と違い、一生のうちで何回も繰り返し起こすこともあり注意を要します。

開業してから8年6ヶ月間に246例の無痛性甲状腺炎を診断しましたが、産後に起こす場合とお産以外の場合の比率は1対2で、お産以外の場合の方が多いです。